夜の部

17:05からは、いよいよ「怖い夜の部」がスタート。

開場と共に入場してきたお客さんたちのなかには、昼の部でも見かけた顔ぶれがちらほら。

それも決して少なくない人数が昼夜を通して参加していたらしく、出演者たちへの愛の深さと、このイベントを楽しみにしていたことが伝わってきます。

【怪談】影野ゾウ

夜の部も駄ゞ田メダさんによる主催挨拶から始まり、ステージのトップバッターも同じく影野ゾウさん。

しかし不可思議な話に聴き入った昼の部とは打って変わって、夜の部の客席には緊張感が漂います。

口調や声色を大きく変えているわけではなく、先ほどと同じ会場で、同じ人の話を聴いているはずなのに、昼の部とは明らかに雰囲気が違う。

昼には決して響くことのなかった小さな悲鳴や息を呑む音まで聞こえてきて、周囲を満たす空気もピリリと引き締まったかのよう。昼夜の境界を明確に切り分ける、「怖い夜の部」にふさわしいスタートとなりました。

【怪談】なんじょう

続いてステージに立ったのは、なんじょうさん。

1人目からフルスロットルだった影野ゾウさんの流れを引き継いで、しかし「怖さ」のベクトルが異なる話を語り始めます。

昼夜を通してこの会場で語られた話のなかでも、特に異質さが際立っていた怪談。「恐怖」の性質にもさまざまあることを思い出す、濃密なひと時となりました。

【怪談】Dr.マキダシ

怪談パートのラストを飾ったのは、昼の部に続いて登場したDr.マキダシさん。

実際に病院で働いている医者だからこそ聞くことのできる、そしてそれゆえに生々しさが際立つ実話怪談に、なんとも言えない後味の悪さを覚えていた人も多かった様子。

いい意味で気持ち悪さの残る怪談体験を経て、このイベントもいよいよ終盤へと突入します。

【ライブ】市松寿ゞ謡

昼の部と同じく不思議な黒電話が登場したところで、夜の部のライブパートがスタート。最初にステージ上に登場したのは、市松寿ゞ謡さんです。

登場時のインパクトもそうですが、歌って踊る空間を取り巻く情報量がすごい! リアルのライブ会場で歌声を聴けるのは貴重な機会ということもあり、楽しみにしていた人も多かったようです。

イヤモニを装着したライブならではの姿で、「花嵐」「お気持ち表明」「ミッドノクターン」を披露。最後は「いちまのBON DANCE」で、お客さんも一緒になって盆踊りを楽しみました。

【ライブ】Dr.マキダシ

三度登場したDr.マキダシさんですが、ここからはラッパーとしての本領発揮。

それまでの椅子に座りながらの淡々とした語りから一転、ステージ上を行き来し、ノリノリでライムを刻みます。

客席を見れば、その姿に引き寄せられるかのようにしてステージ近くへと集まり、リズムに乗って動き始める人・人・人。ライブ慣れしているお客さんたちが「そういえばここはエンタスだった!」と思い出したかのように体を揺らし始めたことで、 フロアも徐々に湧き上がっていきます。

全身の動きと表情で感情を訴えかけることのできる“ニンゲン”の出演者代表として、観客のボルテージを最高潮へと導いたDr.マキダシさん。その熱を、この展覧会のエンディングへと繋ぎます。

【ライブ】駄ゞ田メダ&惑星ちる&奇屋敷ゾンゾン&市松寿ゞ謡

ステージの最後を飾ったのは、このイベントのテーマソング。そう、このヒトデナシ展覧会には、この日のために作られたテーマ曲があるのです。

その名もずばり、「ヒトデナシ展覧会」。歌うのは、駄ゞ田メダさん、惑星ちるさん、奇屋敷ゾンゾンさん、市松寿ゞ謡さんの4人です。

参加者も出演者も一緒に集まって歌う、最後の1曲。声を張り上げての掛け合いでは大いに盛り上がり、ラストは歓声と拍手、大勢の笑顔に包まれてのエンディングとなりました。

撮影後記

大盛況のうちに幕を閉じた、ヒトデナシ展覧会。

概要と参加者をパッと見たかぎりでは、「ホラー系VTuberが集まったコンセプトイベント」のように映るかもしれません。ですが、実際に通して参加してみた一個人の感想としては、VTuberとしてのジャンルやスタンスの枠を超えた、「人であろうがなかろうが、今ここに集った全存在を肯定し、みんなで一緒になって楽しむイベント」だったように感じます。

エンディング前の挨拶でもお話がありましたが、主催の駄ゞ田メダさんには、「がんばって“普通の人”になることに強烈な違和感を覚えて、自分らしくありのままに生きるために、お薬を飲んでジェネリック妖怪になった」という背景があります。そのことを指して、「『みんなと同じような“普通の人”になる』というシナリオを書き換えたんです」と、直前のDr.マキダシさんのライブMCを引用しつつ話されていましたが、この考え方は、同様に何かを“書き換え”て活動している人にとっては――それこそジャンルや種族に関係なく――大なり小なり共感を持って受け止められるものであるように、個人的には感じられました。

そしてそれは、そのような“ヒトデナシ”の姿をしていない人にも当てはまるはず。「今日、ヒトデナシになって、本当に本当によかったなー、って思いました!」と清々しい声で話していた駄ゞ田メダさん当人のみならず、その一言に救われたような気持ちになった人、あるいは十人十色の“ヒトデナシ”たちの歌や怪談、動画やパフォーマンスから刺激や元気をもらった人、はたまた彼ら彼女らの存在そのものから勇気をもらった人も、少なからずいたのではないでしょうか。

最初からヒトデナシだった者も、自ら進んでそうなった者も、普段はニンゲンとして振る舞っている人も、ひとたびその空間を訪れれば、互いの存在を肯定し、みんなで一緒に楽しめる。この摩訶不思議な展覧会が、ニンゲンたちの癒やしの場となっていたらいいなと、そう思わされるイベントでした。もしかしたら、今回の展覧会でその魅力が知れ渡ってしまったことで、次回は参加者側にも“ヒトデナシ”が増えている――なんてこともあるかもしれませんね。

【イベント概要】ヒトデナシ展覧会

  • 日程:2023/9/3(日)【昼の部】13:45~16:10【夜の部】16:40~19:20
  • 会場:秋葉原エンタス
  • 出演(昼の部):影野ゾウ、Dr.マキダシ、駄ゞ田メダ、奇屋敷ゾンゾン、惑星ちる、ォ逅(ンヌグム)、坂神蟬丸、西園電脳空間倶楽部、悪嘘トヰ、空想料理店 蟹、浅田大根、肉赤子ちゃん
  • 出演(夜の部):影野ゾウ、Dr.マキダシ、なんじょう、市松寿ゞ謡、駄ゞ田メダ、どれいしょう、スタジオカキコ、きべだよ、ォ逅(ンヌグム)、浅田大根、肉赤子ちゃん
  • ハッシュタグ:#ヒトデナシ展覧会
  • チケットページ:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/028gz13808731.html
1 2 3
ヒトデナシ展覧会

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

シェアはこちらから

この記事を書いた人

けいろーのアバター けいろー バーチャルライター

フリーライター。VTuber/VR関係のメディアとしては、MoguliveやVtuber Postに寄稿。インタビューやライブレポートなどを担当している。その他実績として、コミックナタリー、ふたまん+、SUUMOタウン、ぐるなび みんなのごはん、『初音ミクエキスポ』公式パンフレット、双葉社『EX大衆』VTuber特集、日本看護協会出版会『創造られたヒロイン、ナイチンゲールの虚像と実像』など