個人勢VTuberからメジャーアーティストに!SODA KITにアニメ出演など、ますます活躍の場を広げるVSinger・ユプシロンのこれまでとこれから

【インタビュー】ユプシロン2

2020年4月に活動をスタートしたバーチャルシンガー、ユプシロン@yupsilon_

活動開始当初から、作詞作曲を行うシンガーソングライターとして精力的にオリジナル曲を発表。2021年からはボーカロイド曲も投稿するようになったほか、アーティストへの楽曲提供も行うなど、「歌」にとどまらない音楽活動によって活躍中のVTuber/VSingerです。

そんなユプシロンさんがこのたび、ポニーキャニオンからメジャーデビューすることを発表。2023年4月5日から、事務所所属のシンガーソングライターとして再出発することになりました。今回のインタビューでは、長らく個人勢VTuberとして活動してきたユプシロンさんがメジャーアーティストとしてデビューするに至った経緯と、直近の活動、そして今後の展望についてお話をうかがいました。

インタビュー・執筆・編集 / けいろー(@K16writer

目次

ポニーキャニオンからメジャーデビュー!きっかけは1年半前のイベント

【ユプシロン】立ち絵

――このたびはメジャーデビュー、おめでとうございます! 昨年10月のインタビューから半年と経たずに次々とビッグニュースが飛び込んできていて目を白黒させているのですが、まずはメジャーデビューまでの経緯をお聞かせください。

ユプシロン
はい! 先日の「重大発表」の配信でもお話したのですが、最初のきっかけは2021年夏に開催した3Dお披露目イベントですね。3D化のためのクラウドファウンディングを実施したときに、池袋HUMAXシネマズさんのご好意でお披露目ライブをさせてもらって。その会場に、ライブ制作会社さんとポニーキャニオンの方が来ていたんです。

ただ、「ユプシロンを見に来た」っていうよりは、「個人VTuberが行うライブイベントはどのようなものなのか」「今後はどういう音楽をやっていく人が増えるのか」といった、リサーチのために来られていたみたいです。でもそこで「この子いいじゃん」「オリジナル曲がいいね」と声をかけていただいて、やり取りをするようになりました。

いきなり「デビューしよう!」ということにはならなかったんですけど、曲を聴いてもらったり、自分から「企業勢になりたい」っていうお話をさせていただいたりして。その後1年弱は大きな動きもなく、「どうなるんだろう……」っていう期間もあったのですが(笑)。それが少しずつ進んでいって、今回のデビューに繋がった感じです。

――クラウドファウンディングに挑戦したことで池袋HUMAXシネマズさんからお声がかかり、その会場でまたポニーキャニオンさんとの偶然の出会いがあり、今回のデビューに繋がった……と考えると、すごい連鎖ですね……!

ユプシロン
運が良かったとは思いますね(笑)。

ライブのエンドロールで『ZERO』っていう楽曲を流したんですけど、すごく気に入ってくださって、「これ、リリースしないで取っておいてよ」って言われて。それで素直に取っておいたところ、その曲がデビュー曲になりました。

――すると、「すぐにデビュー!」というわけではないにしても、その時点で少なからず注目はされていたのでしょうか。

ユプシロン
そうですね。担当者の方が気に入ってくださって、社内でも「この子、やろうかなって思ってる」と推してくださっていたみたいです。ただ、会社全体のOKが出ないとデビューはできないみたいで。所属できるのか、それともダメなのか、確定しない状態が1年弱は続いていたので……そわそわしてました(笑)。

一方で、そのあいだもほかの会社さんとやり取りをするような機会もありました。でも最終的にはポニーキャニオンさんとご縁があった感じです。

――そういえば「事務所に所属する」というお話も以前からありましたが、順序としてはどのような……?

ユプシロン
ポニーキャニオンさんからデビューすることは発表になっていなかったのですが、実は事務所所属とメジャーデビューが決まったのは同時なんですよ。なので、昨年秋のワンマンライブの時点でほぼ決まっていました。

――「発表のタイミングを見計らっていた」という感じですか?

ユプシロン
ですね。本当はもうちょっと早く発表するはずだったんですけど、ソロ曲の制作で若干スランプに陥っていた時期がありまして。

あとは「SODA KIT」としての活動が始まり、めちゃくちゃバズった結果、そっちが先にメジャーデビューすることになりまして(笑)。いくつかの事情が重なって、(ソロでのメジャーデビューは)4月になりました。

――なるほど。「SODA KITがバズった」ことが一因としてはあったわけですね。

ユプシロン
ありますね! 「先にこっちをメジャーデビューさせよう」みたいな話になったので、僕は自分のデビューがなくなったのかと思って、「え〜〜〜!?」ってめっちゃ焦ってました(笑)。

――配信でも話されていましたよね(笑)。ちなみにSODA KITのメジャーデビューに関しては、やはり「バズったこと」が要因として大きかったのでしょうか。

ユプシロン
そうです。だからSODA KITのデビューの話はトントン拍子で進みました。ユプシロンのほうはぜんぜんトントン拍子じゃないのに(笑)。

でも以前のインタビューでもお話したとおり、やっぱりどこかの企業に所属はしたかったので。もちろんどこでもいいわけではなくて、音楽に対して自分と同じ熱量で向き合ってくれる、取り組んでくれる事務所さんやレーベルがよかったので、担当の方が熱量を持ってやってくださる方だと感じたので、ポニーキャニオンさんとご一緒させていただくことにしました。

メジャーデビューできたのは、「オリジナル曲を作っていたから」

――デビューの順序は前後してしまいましたが、「ソロ楽曲制作のスランプに陥った際に、SODA KITの曲作りでインスピレーションを得られた」というお話も先日の配信でされていました。そのあたりはどうお考えでしょうか?

ユプシロン
結果的にはよかったなと思います。SODA KITはまだできたばかりのグループで、何も正解が決まっていないからこそ、みんなで「何をやろうか?」って考えながら、自分の引き出しを増やすことができました。

SODA KITの楽曲に関しては、ボカロっぽさを求められているわけでもなく、邦ロックっぽくてもいいし、アニソンっぽくてもいい。本当に「なんでもいい」という感じだったので、そういう意味では自由に作れて楽しかったですね。頭を柔らかくして楽曲作りができたというか。

――「ユプシロン」として積み重ねてきた3年間がすでにある一方で、SODA KITとしてまた“ゼロ”から音楽と向き合うことになった。その過程を経たことによって、ある意味では思考のパターンを変えられた、というイメージでしょうか。

ユプシロン
思考パターンも変えられたし、「片肘張らずに、好きにやらせてもらう」って感じでしたね(笑)。

――少し話が変わりますが、企業やグループに所属せず活動してきたユプシロンさんのメジャーデビューは、いわゆる「個人勢」のVTuberとしては一種の快挙なのではないかと思います。ただ、そのことについては以前、「ぼっちぼろまるさんに先を越された!」なんてお話もされていましたよね。

ユプシロン
そうそう(笑)。運営さんのいない、1人でやってきた個人VTuberがメジャーデビューするのって、業界初なんじゃないかなって思っていたんですよ。

……なんですけど、ぼっちぼろまるさんが去年の夏にソニーさんからメジャーデビューされたのを見て、「うわー! いたわー! 先にいたわー!」って(笑)。でも一線引いて見ると、「どんどんこういう人が増えて、当たり前になっていくんだろうな」とは思います。他人事のように。

――ネット発のアーティストが注目されるようになって久しいですが、最近ようやく「バーチャル」にもスポットが当たるようになってきましたよね。ユプシロンさんご自身は、自分がメジャーデビューできた理由をどのように分析されていますか? いろいろなご縁あってのお声がけだった、というお話もありましたが。

ユプシロン
「オリジナル曲を作っていたから」だと思います。作詞・作曲を自分でやっていたから、一次創作ができることがやっぱり強かったのかなと。

自分はVTuber/VSingerとしてメジャーデビューするんですけど、扱いとしては「シンガーソングライター」になります。VTuberだから特別視されているような感じではなく、「ポニーキャニオンから新人アーティストがデビューする」のとまったく一緒の形ですね。

――ぼっちぼろまるさんも、VTuberである以前にシンガーソングライターですものね。ユプシロンさんの場合は、そこにさらにSODA KITの「歌い手」としての文脈と、ボカロPとしての肩書きも乗っかってくる――と考えると、フットワークの軽さがすごいなと。

ユプシロン
活動当初は暇だったんです(笑)。最近はめちゃくちゃ忙しいですが。「自分がやったことのないものって、あとは何があるだろう?」と考えてみて、結果始めたのがSODA KITでした。

SODA KIT結成の経緯については配信などでも話していますが、本当に勢いでしたね。2019年の“胎児”時代(※)は歌い手として活動を始めて、VSingerになって、ボカロPもやって、シンガーソングライターとして楽曲提供もやるようになって……「あと、やってないのなんだろう?」って考えたときに、「あ、グループ活動だ!」って思い至った感じです(笑)。

胎児時代:ユプシロンさんが今の姿でVTuber/VSingerとして活動をスタートする前に、YouTubeで歌ってみた動画を投稿していた時期のこと。この頃にはすでに1stオリジナルソング『ステレオタイプ』の作成に取り掛かっていた。

――「いろいろなことに手を出してみたい!」という気持ちは普段から強いんですね。

ユプシロン
好奇心が旺盛なんだと思います。「やったことのないことをやりたい」みたいな。

――ちなみに、今はメジャーデビューのタイミングで忙しいかと思いますが、「今後はこれをやってみたい!」と考えていることはありますか?

ユプシロン
絵を描きたいですね、次は。

――まさか、「イラストレーター」の肩書きまで!?

ユプシロン
いや、イラストレーターまではいかなくても、自分のMVの絵を描いてみたいなと。もうちょっと時間ができたら、パラパラ漫画のようなものを描けたらいいなと思います(笑)。

アニメ出演や脚本などにも挑戦しつつ、クリエイター仲間と「音楽」を続けていく

――メジャーデビューとは別のお話になりますが、4月12日からはユプシロンさんが「本人役」として出演し、原案も務めるアニメ『でんでんの電脳電車』がスタートします。せっかくですので、この作品についてもご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

ユプシロン
まず経緯としては、僕が個人勢だったときにCHETさんからお声がけいただき、『V-TUNE~ANISON~』というカバーアルバムでご一緒させてもらったことがありまして。

その後「企業所属が決まりました」のご報告をしたときに、CHETのスタッフさんと僕の事務所の社長になってくれた方がたまたま繋がっていて、知り合いだったみたいなんです。それでミーティングをしたところ、「アニメを作ろう」みたいな話になって(笑)。

そこにポニーキャニオンさんも加わり、CHETさん、ポニーキャニオンさん、スタジオユイット――僕の所属事務所ですね――の3社でアニメ企画を立ち上げることになりました。それが、『でんでんの電脳電車』です。

そしたら「ユプシロンって妄想とか得意でしょ? 原案考えたら?」って言ってもらえて、「じゃあ……不思議な電車内で何かが……こう……電車内のトークが中心で……」みたいなことを考えて、「『でんでんの電脳電車』って名前にします」って言ったら、「うん! 全部採用!」みたいな。「えぇーっ! いいんですか!?」ってなりました(笑)。

誰も止めようとしないから「本当にいいのかな……?」って思っていたら、そのまま制作が始まって。監督さんは、ポニーキャニオンの方がよく一緒にお仕事されている松田圭太さんをご紹介してくれました。AKB48さんのショートドラマとかも作られている方なので、作り方としてはドラマの撮影に近かったと思います。

TVアニメ『でんでんの電脳電車』予告動画 – YouTube

――ドラマのようなテイストのアニメ、というイメージでしょうか?

ユプシロン
コントですね。ショートコントっぽい感じの、5分くらいのギャグアニメです。最初は難しいことをやろうかなと原案を考えていたんですけど、「5分じゃ収まんないよね」と。監督と話していくうちに、「ちょっとギャグ寄りのコントっぽいアニメにしよう」と決まりました。

「バイトの面接にマジで受かんない」とか、僕自身のやらかしや失敗談を監督に話していたら、その全部を脚本に入れてくれて。実際、某ファーストフード店とか某ピザ屋さんとかの面接に全部落ちていたので……(笑)。あとは漢字の読み間違いとかも普段から多いので、そういう個人的なエピソードも脚本に生かされています。

それと、アニメは全12話構成なのですが……実は後半の2話ほどは、脚本も僕が書いてます。監督のご指導のもと、初めてアニメの脚本を書きました。

――なんと!? 脚本家デビューじゃないですか!

ユプシロン
「名前も入れていいよ」って言われたので、後半の話のエンドロールには自分の名前が、ペッて入ってます(笑)。

――ショートアニメとはいえ、プロジェクトとしては決して小さいものではないでしょうし、関わっている人も多い……というか複数社が企画・制作として携わっている企画であるにもかかわらず、これまたトントン拍子で進んでいてすごいですね。

ユプシロン
アニメは関わっている人の数が本当に多すぎて、全員の名前は覚えられませんね。「何十人いるんだ!?」みたいな。誰が何の担当なのかもわからないくらいいて、「すげー」って思いながらテンパってます(笑)。

――でもこれまでのユプシロンさんの活動を振り返ってみると、以前から周りの人を巻き込みながら、熱量高く作品を作り上げていくことをずっと続けてきていて、その規模がいよいよ大きくなってきた――そんなイメージもありますね。

ユプシロン
ありがとうございます! 関わってくれる大人がみんな「お〜? 自由にやってみな〜?」みたいな感じの人なので、本当にラッキーですね(笑)。もっとなんかこう、「これはやっちゃダメ、とかないんですか?」って感じるくらい好きにやらせてもらっていて、「え、大丈夫?」って思うことがあります(笑)。

音楽についても、もともとのチーム――というか、いつも協力してくださっているクリエイターさんたちと、今も一緒に作品作りに取り組んでいます。ポニーキャニオンサイドにもクリエイターさんはたくさんいるのですが、「『ユプシロン』としての活動で知り合ったクリエイターさんとも一緒にやりたい」とお話したら、「全部いいよ!」って言ってくださったので。以前から仲良くしてくださっている仲間と一緒にメジャーに行けた感じがして嬉しいですね。

――メジャーレーベルでのデビューによって今後は活動の幅も広がっていくかと思いますが、やりたいことや挑戦したいことはありますか?

ユプシロン
メインは「音楽一本」でやっていくことは変わりません。ただ、今回のアニメもそうですし、何かこれまでとは違う動きが起こっていくんじゃないかな、という期待はしています。

あとはリアルライブですね。こればっかりは、やっぱり1人では絶対無理だと思っていたので。「メジャーデビューしたから」というよりは「協力してくれる大人が増えたから」という感じかもしれませんが、リアルライブもいよいよ現実的になってきたんじゃないかなと思います。

「ソロのユプシロン」と「SODA KITのユプシロン」の違い

――「VTuber」と一言で言ってもさまざまなジャンルやスタンスで活動されている方がいらっしゃいますが、ユプシロンさんはご自身の立ち位置をどのように感じていらっしゃいますか?

ユプシロン
個人的には、この3年で「生配信」がVTuberのあいだで主流になった印象があります。もちろんいろいろな方がいらっしゃいますが、「配信をメインの活動として行うのがVTuber」というイメージが強い気がしているんですよね。そんななか、配信に重きを置かずに、ひたすらオリジナル曲を出してきた自分は、比較的マイノリティな存在だったのかなと。

――たしかに、アーティスト色の強いVSingerでも、普段は雑談配信やゲーム実況を中心に活動している人は珍しくありませんものね。その点、ユプシロンさんはカラオケ配信をされることがあるにしても、「音楽」という明確な軸が常にあったように思います。そういう意味では、SODA KITでの活動によって「音楽」以外の幅が最近は広がりつつあるのかなと。

ユプシロン
そうですね。ずっと嫌々言ってたんですけど、ついに初めてのゲーム配信をしてしまいました(笑)。

【新人歌い手グループ】4人ではじめてのゲーム配信【 #SODAKIT 】 – YouTube

――ファンのみなさんからすると、嬉しく感じる部分もあるのではないでしょうか。「普段は見られない一面を見られる!」という意味で。

ユプシロン
いやー、どうですかね? もしかしたら「カッコいいユプシロンしか見たくない!」って思ってくれている子もいるかもしれないので(笑)。ゲームをやると、ほんとアホなところしか見せられないから……まあでも、喜んでくれている声も多かったので嬉しかったです。ただ、音楽だけを追いたい人は、見ないほうがいいです(笑)。

――「イメージが崩れる場合がありますので、ご視聴の際はご注意ください」と(笑)。昨年12月から定期更新されているトーク番組「KIT RADIO」もそうですが、SODA KITでは本当にいろいろなことに取り組まれているように見えます。やはりソロでの活動と違った楽しさなどはありますか?

ユプシロン
楽しいですね! 1人でやっても盛り上がらないことも、4人になるとできるし。KIT RADIOに関しては「毎週やらなきゃいけない」という義務感もなくて、気楽でいいですよね。4人でローテーションしていくと、だいたいみんな月2くらいになるので。

――その一方で、音楽面では「SODAKITで歌う自分と、ソロの『ユプシロン』はぜんぜん別物」という話を先日の配信でされていました。歌い方や曲作りの部分で、何か意識して変えている部分はありますか?

ユプシロン
歌はぜんぜん分けていなくて、まったく一緒なんですよ。SODA KITのユプシロンとしても、ソロのユプシロンとしても、歌や音楽に対するマインドに関しては変わりません。

ただ、作る曲の内容は自分のなかでは結構違っていて、SODA KITのほうがポジティブだと思います。「やってやるぜ!」みたいな。それと、SODA KITの歌詞も書いているのは僕ですが、メンバーが会話しているときにポッて出た言葉とかも入れているので、「自分1人の言葉じゃないな」って思いながら書いてます。

一方で「ユプシロン」としては、自分のなかでずっと掲げている「音楽は哲学」というスタンスがあります。自分にとって音楽は「なんでなんだろう?」と考えるためのトリガーであり、ユプシロンとしての活動ではそれをずっと突き進めていきたい、掘っていきたいと思っています。

なので、「音楽を作るモチベーションが違う」っていう感じですかね。

100%自分の思想や疑問を音楽にしているのが、ソロのユプシロンとしての世界観。もっと物語性があったり、伏線をばらまいておいてその先で回収してみたり(それはユプシロンでもなのですが)……「何に対して悔しいと思うか」みたいなことをみんなでギャーギャー言い合うのが、SODA KITかなと思います。

【MV】コスチューム // ユプシロン 3rd Original song ☽꧂ – YouTube
【オリジナル曲】コンテンダー / SODA KIT【新人歌い手グループ】 – YouTube

――複数人であれこれ話し合うからこそ出てくる表現、というものもありそうですね。曲作りといえば、これも配信で話されていましたが、この3年間で25曲も作られているとか……?

ユプシロン
そうなんですよ!(笑) ……いや、ぶっちゃけ、もっと作ってるかもしれないな。まだ出ていないものも含めると。

――音楽制作に関して、「言いたいことが尽きるまで、枯れるまでは全部出したい」とのお話もありましたが、まだぜんぜん尽きる気配はなさそうですか? また、そのような言いたいことは、普段の生活で感じたことや体験したこと、考えたことをメモしている感じでしょうか。

ユプシロン
まだまだありますね! 書きたいことリストはいっぱいありますし、普段からめちゃくちゃメモってます。ボイスメモにも口ずさんだメロディーなんかを入れていますし、スマホのメモアプリにもいっぱい書いていますね。

ただ、よく大人の人から言われるんですが、いつか「枯れる」らしいんですよね。なので、それがいつなんだろうとは思いつつ、「枯れるまではやるか」と(笑)。でもやっぱり、100曲は作りたいですね……! 数じゃないとは思いますけど。

あとはアレですね。ユプシロンとして活動してきた3年間って、ずっと「シングル曲を作る」意識で書いていたんですよ。全部にMVがついているような。去年11/30に発売したアルバムに関しても、「これまでのシングル曲を全部集めたアルバムを最後に出す」みたいな感じだったので。そういうのとはまた違う、「全部が本気曲じゃないアルバム曲」みたいなのも作りたいなと思っています。

――YouTube上で楽曲を発表するにあたっては、「MVもついているシングル曲」のような表現が基本になっていたわけですね。アルバムに収録する楽曲も全力で制作している一方で、「アルバムのなかの1曲」という形で収録されるからこそ程よく気の抜けた楽曲もあり、そういう表現にも取り組んでみたい――というイメージでしょうか?

ユプシロン
そうそうそうそう! そういうおもしろさって多分あると思っていて、だからこそ生まれる良い曲もあると思うんです。もちろん手は抜かないんですけど、「リード曲を書くぞ!」っていうのとはまた違う気持ちでの曲作りもやりたいですね。ライブのために必要な曲とか。

――メジャーデビューによってそのような部分でも表現の幅が広がりそうで、ますます楽しみになってきました。それこそ、アルバムを1つの作品として見立てた世界観の表現とかもできますものね。

ユプシロン
あー! やってみたいですね、そういうのも。

――すでに構想とかもあったりします?

ユプシロン
ありますね……! うん、あります。これはまたちょっと別の話かもしれませんが、SODA KITでもミニアルバムを作っているんですよ。

あっという間にお話が決まったので、やっぱりメジャーって早いなと。ずっとケツを叩かれながら、「うわ〜〜〜!!」って言いながら曲を作ってます(笑)。2月は6曲作りましたからね……死ぬかと思いました、マジで。2月の記憶、ないです。でもがんばっただけ良い作品になっているはずなので、楽しみにしていてください!

夢は「日本の誰もが知っているヒット曲を1曲出す」こと

――ちょっと脇道に逸れますが、VTuberやボカロ、あるいは音楽全般に関して、最近注目している人や気になる話題はありますか?

ユプシロン
星街すいせいさんの快進撃はすごいなと思います。もうすごい。マジですごい。「誰かがこういうふうになるんだろうな」っていうのは、3年前から思っていたんですよ。VSingerやVTuberの曲が有名なCMソングになったり、テレビに出たり、THE FIRST TAKEで歌ったり――みたいな。

「近い将来に誰かがそういった場所に立つんだろうな」って思いながら、僕はずっと活動していました。「それは誰なんだろう?」と思いつつ、もちろん自分もそうなりたいと思っていましたし。だから星街さんの活躍を見て、「あ、この人だったんだ」って納得しました。星街さんがその先駆者になる人だったんだなと。

星街すいせい – Stellar Stellar / THE FIRST TAKE – YouTube

――星街すいせいさんの作品で、特に好きな楽曲とかってありますか?

ユプシロン
キタニタツヤさんの書いた『天球、彗星は夜を跨いで』ですね。むしろこればっかり聴いちゃってるんですけど(笑)。めちゃくちゃ好きです。この曲を聴いて「この人すごいな」って思いましたし、自分はこれで星街さんのことを知りました。見た目がアイドルみたいな感じなので、「いわゆるアイドルさんなのかなー」と思ったら、「……アーティストじゃん!?」みたいな(笑)。

別にアイドルを下に見ているわけではないのですが、表現力のレベルがあまりにも高くて、「うわー! アーティストだー!」ってなりました。でも同時に、ちゃんと「アイドル」もしているからすごいですよね。個人的にはLiSAさんと近いものを感じています。彼女もかわいらしくて、アイドルっぽさもあるんですけど、それ以上に「アーティスト」であるみたいな。

ご本人は配信で「今はバブルだから」とも話されていましたが、でもやっぱり、ああやって誰か1人が先陣を切ってくれることによって、ほかの人が後に続けるとも思うんですよね。彼女のような存在があるからこそ、僕――ユプシロンが「VSingerがメジャーデビュー!」となっても受け入れてもらえるのだと思っていますし、ありがたく感じています。

――方向性はちょっと違うかもしれませんが、星街さんもユプシロンさんが目指すところの1人ではあるのでしょうか。

ユプシロン
彼女くらいの認知度になれたらもちろんすごく嬉しいですよね。僕が目指すところとしては、どちらかと言うとやっぱり、米津玄師さんとか、Reolさんとか、Eveさんとか、自分で作詞作曲をする人ですね。

僕はReolさんやEveさんがメジャーに行ったときのことは知らないんですが、「歌い手がメジャーに行く」のが珍しかった時代がきっとあったと思うんです。そしてそれが今、VTuber業界で起こっているのかなと。

――今のお話とも若干重なりますが、将来的に実現したい、大きな夢や目標はありますか? これは過去のインタビューでもうかがっていることですが、改めてお聞きできれば。

ユプシロン
「日本の誰もが知っているヒット曲を1曲出す」ことですね。

自分の好きなボカロPさんたちがラジオで話していたんですけど、仲間で集まって居酒屋で飲んだときに、「自分の書いた曲が流れるまで帰れま10」をやったらしいんですよ。

その場にはたしか、YOASOBIのAyaseさんや、syudouさん、すりぃさんがいらっしゃって、YOASOBIが流れて、『うっせぇわ』が流れて……みたいなお話を聞いて、「それやりたーい!」と思って(笑)。外でご飯を食べているときに、「自分が書いた曲が流れるまで帰れま10」ができるくらいのアーティストになりたいですね。

――神々の遊びですね(笑)。

ユプシロン
「なんじゃそりゃ!?」と思って。めっちゃよくないですか? 「あ〜! 俺の流れちゃった〜! じゃあもう帰るか〜!」ってやりたい(笑)。

小さな成功体験の積み重ねによって、メンタルを鍛えられた

――この3年間でたくさんの楽曲を制作し、歌も公開されてきたユプシロンさんですが、音楽以外の面で「成長した!」と自分なりに感じていることなどはありますか?

ユプシロン
広い意味での「活動者」としてのメンタルですかね(笑)。たとえば「イラストを描いてください」というDMを送るだけでも、最初はめちゃくちゃ緊張したんですよ。

今でも緊張するんですけど、「連絡してみようかな?」と思って結局しなかったクリエイターさんも山のようにいますし、連絡をしたけど返ってこなかったこともあります。それこそ、やり取りの途中で連絡が返ってこなくなるとか、「ここまでやって飛ぶ!?」みたいなこともぜんぜんありましたし(笑)。まあでも、活動者をしていれば少なからずあることでしょうし、「全部が経験だったな」と思います。

そんななかでも、DMに対して「いいですよ」って返信をくれるクリエイターさんがいて、一緒になって作品作りに取り組んできたことが、自信に繋がったように思います。やっぱり嬉しいじゃないですか。返信が返ってきて、一緒に作品を作れるって。そういう小さな成功体験を積み重ねてきたことで、活動者としてのメンタルもこの3年間で鍛えられたと思いますね。

今は企業所属になりましたが割と放任なので、変わらず自分からクリエイターさんにお声がけしていますし。SODA KITの歌ってみたとかも全部、メンバーが動画師さんと直接やり取りやディレクションをしています。

――今後もそのあたりのやり取りはスタッフさんに任せず、自分でやっていく感じですか?

ユプシロン
そうですね。「思ってものと違うのが来たら嫌じゃん!」って思っちゃう(笑)。

まあそんなことはないかもしれませんが、作品を1から10まで全部自分で監修する癖がついちゃっているので。今更、人にお願いするのは怖くて……もう任せられないですね(笑)。『でんでん』のキービジュアルとかも、クリエイターさんとのやり取りは全部、僕がやってました。

――『でんでん』に関してもそこまでやってるんですね!?

ユプシロン
「どういうイメージですか?」っていうのをマネージャーさんを通して伝えるのも、なんか時間の無駄だなと思って。クリエイターさんに直接話したほうが早いじゃないですか。

――それはそうかもしれませんね。でも今のお話を聞いて、ユプシロンさんの忙しさが改めて実感できました。

ユプシロン
信用してもらえているのか、かなり自分の好きにやらせてもらっているのでありがたいですね。でもたまに、あまりにも全部自分でやっちゃうので、「(自分でやっちゃうのが)ダメなときは、ちゃんとストップって言ってくださいね?」って思うこともあるんですけど。

楽曲の力を感じた『ZERO』と、アーティストとしての再出発

――メジャーデビューに合わせて、1stデジタルシングル『ZERO』のリリースも発表されました。『ZERO』と言えば、2022年7月にYouTubeチャンネルで配信された3Dライブ「思考少年」のラストに歌われた曲でもあり、個人的には「メジャーデビューの伏線だった、ってコト!?」と勝手に繋げて考えてしまっていたのですが……?

ユプシロン
「思考少年」では、完全に伏線です(笑)。

――あ、実際に伏線だったんですね!? ちなみに 『ZERO』自体はもともとはボカロ曲として発表された楽曲でしたよね。

ユプシロン
ボカロP・ユプシロンとしてのボカロ曲の2作目ですね。自分としてもめっちゃ気に入っていて、歌詞もメロディも「よくできたな」と感じている曲です。

なので、いつかセルフカバーというか、自分で歌っているバージョンを出したいなと思ってました。それをポニーキャニオンの方が気に入ってくれて、「取っておいてね」って言われたとおりにしていたら、それがメジャーデビュー曲になった――っていう流れですね。

そういう意味では、メジャー1stシングルになったのも偶然なのですが、それが楽曲の力なのかなと思います。リリース後に世間からどんな反応があるかはわかりませんが、担当者の方の心を打った1曲ではあったので、音楽の力が届いた結果なのかなと。

「地道に詰め重ねてきたものを誰かが良いと思ってくれて、それが自分の人生を変えていくんだな」ということはすごく感じましたね。歌詞の内容も人生を歌っているというか、自分の今と繋がる部分もあるのかなと思います。「凝り固まって生きづらいなと思うこともあるけど、本当はどうでもいいんだよ。だからゼロに戻ろう」っていう曲なんですけど。

3年間の活動でいろいろ凝り固まりつつあった自分の中のものも、一度「ゼロ」に戻して、心機一転、メジャーの世界でやっていく。これまで1人でやってきたのとは違う形で、いろいろな人の協力を得ながら音楽ができることを、嬉しく思います。

――ひとつの区切りとして考えると、これ以上ないほどに象徴的な1曲ですね。ちなみに、アレンジなどで変わっている部分はあるのでしょうか?

ユプシロン
アレンジはちょっと変わってます。よく聴かないとわからないレベルではありますが。あと、ミックスに関しては1からやり直していて、ボーカルは全部を、楽器は一部を録り直しているので、音の質感もちょっと違うかもしれない。なので、全体としてはかなりブラッシュアップできているとは思います。

その変更に関しても、一番最初に『ZERO』を作ったときと同じ音楽チームでやっています。編曲をsachiさん、ギターを安島龍人さん、ミックスを渡辺洋介さんにやってもらっている形ですね。ただ、そもそもHUMAXシネマズさんでのお披露目ライブの現場にいた人しか(自分の歌ったバージョンは)聴いていないので、ある意味では幻の曲にはなっているのかなと(笑)。新鮮な気持ちで聴いてもらえたら嬉しいです!

あ、それと、これは今日決まったことなのですが……テレ朝のタイアップが決定しました!

【MV】ZERO // ユプシロン Original song ☽꧂ – YouTube

――!?

ユプシロン
しかも、このタイアップにもちょっとしたドラマがありまして。タイアップを提案してくれたテレ朝の方が、ボカコレで僕を見つけて「musicる TV」に出してくれた方なんですよ。約1年前にテレビに出してくださった担当者さんが今回、メジャーデビューのタイアップ曲を決めてくれた、という。

――またまたいろいろ繋がってますね……!

ユプシロン
ちょっと泣きそうになりました(笑)。テレビ朝日の「週刊ダウ通信」っていう4月スタートの新番組なんですけど、その4月度のエンディングテーマになります。

――おめでとうございます! そういえばテレビと言えば、先日の配信でも――テレビ朝日さんの番組ではありませんが――「news zero」のテーマになったら、なんてお話もされていましたよね。

ユプシロン
いやー! そうっすね! ちなみに「news zero」の新しいテーマ曲は、ポニーキャニオンの大先輩であるOfficial髭男dismに決まったってニュースになっていましたね。「そりゃそうだよな〜!」って(笑)。

まあでもね、ポニーキャニオンのアーティストさんが選ばれているということは、僕もちょっとは可能性があるので。がんばらないと。1人のアーティストとして再出発をしたいと思います。――ゼロに戻って。

――では最後に、読者さんに向けてメッセージをお願いします。

ユプシロン
VSingerにVTuber、ボカロPにシンガーソングライターと肩書きが渋滞していますが、全部同じ自分だと思っています。今後また肩書きが増えることになっても、作る音楽には嘘がないので、これからも作詞作曲と歌をがんばって、たくさん音楽を世に出していきます! ユプシロンもSODA KITも、全部よろしくお願いします。

――ありがとうございました!

お話してくれた人
ユプシロン

中性的な姿と声が魅力のバーチャルシンガー。性別・年齢・正解の〝概念〟を失い、音楽を通じて欠けたものを探している。

作詞作曲を自ら行うシンガーソングライターであり、2021年からはボーカロイド楽曲も制作しているほか、アーティストへの楽曲提供も行う。自身の経験と思想が反映された哲学的な歌詞には定評があり、その世界観に魅了されるファンも多い。

【インタビュー】ユプシロン2

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この記事を書いた人

けいろーのアバター けいろー バーチャルライター

フリーライター。VTuber/VR関係のメディアとしては、MoguliveやVtuber Postに寄稿。インタビューやライブレポートなどを担当している。その他実績として、コミックナタリー、ふたまん+、SUUMOタウン、ぐるなび みんなのごはん、『初音ミクエキスポ』公式パンフレット、双葉社『EX大衆』VTuber特集、日本看護協会出版会『創造られたヒロイン、ナイチンゲールの虚像と実像』など

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