無所属個人勢から企業勢へ!VSinger・ユプシロンに聞く、最初で最後の自主制作アルバムに込めた思い

【インタビュー】ユプシロン

2020年4月に活動をスタートしたバーチャルシンガー、ユプシロン@yupsilon_

VTuberデビュー当初から、作詞作曲を行うシンガーソングライターとしてオリジナル楽曲を発表。2021年からはボーカロイド曲も投稿するようになったほか、アーティストへの楽曲提供も行うなど、「歌」にとどまらない音楽活動によって活躍中のVTuber/VSingerです。

この2年半、無所属の個人勢VSingerとして活動の幅を広げてきたユプシロンさんですが、7月にYouTube上で行われた3Dワンマンライブにて「企業勢」となることを発表。さらに「個人」としての活動を締めくくる試みとして、これまでにリリースした楽曲をまとめたアルバムの制作も発表されました(11/30(水)発売予定)。

当サイトでは、そんなユプシロンさんにインタビューを実施。

新曲とアルバムの見どころはもちろん、3Dワンマンライブの振り返りや、ボカロPとしての音楽制作を通して感じたこと、そして今後の活動の展望について、たっぷりとお話いただきました。今回は、その1時間以上にも及んだインタビューの模様をお届けします。

インタビュー・執筆・編集 / けいろー(@K16writer

目次

「ボカロP」としての活動を経て変わったことと、変わらないもの

【ユプシロン】立ち絵

――まずは自己紹介をお願いします。

ユプシロン
バーチャルシンガーのユプシロンです。2020年の4月から音楽活動を始めて、自分で作詞作曲した楽曲や歌ってみた動画をYouTubeで公開したり、ボーカロイドに歌ってもらったオリジナル楽曲をニコニコ動画に投稿したりしています。

――去年からニコニコ動画でもボカロ曲を投稿されていますが、最近はSpotifyでもすごく注目されていますよね。

ユプシロン
そうなんですよー! ありがたいことに! ただ、どうして伸びているのかが自分ではぜんぜんわかっていなくて、「ラッキー!」って言ってます(笑)。自動再生とかで流れているのか、いろんなプレイストに入れてもらっているから……なんですかね?

ユプシロンさんのSpotify上での月間リスナー数は約20万人(※2022年10月現在)。この数字はオリジナル曲を持っている大手ライバーよりも多く、Spotifyで楽曲を配信しているVTuber/VSingerとしてはトップ層に入る。

――この1年ほどはボカロ曲も継続して投稿されていますが、「自分が歌う楽曲を作る」のと「ボーカロイドに歌ってもらう楽曲を作る」のとでは、何か違いなどはあるのでしょうか?

ユプシロン
今は1周まわって一緒になってきたんですけど、初めてボカロで曲を書こうと思ったときは、作り方を分けている部分もありました。

一番最初に作った『RED』は自分が歌うには難しすぎる曲だと思っていましたし、歌詞も「歌ってもらう」ことをイメージして書いたので。自分が歌う曲とはぜんぜん違うマインドで作った曲ですが、今は「自分が歌ってもいいし、ミクちゃんに歌ってもらってもいい」という気持ちで曲を書くこともあります。

【初音ミク】RED【ユプシロン】 ☽꧂ – YouTube

ユプシロン
でもだからと言って、「自分が歌うから、難しくないようにする」というわけでもなくて。実際、その後に書いた『フォージェリィ』は自分史上最高に歌うのが難しい曲で、自分で自分の首を絞めています。でも爆伸びしちゃったことで「歌ってほしい!」という声も多くいただいているので、内心で「簡単に歌える曲じゃないんだよぉ!」と思いつつ、ライブで歌うために日々練習してます。『フォージェリィ』を作ってからもう半年以上が経ちますが……ずっと練習してる課題曲ですね(笑)。

そもそもなぜ2021年の4月にボカロを始めたのかというと、「『歌う』という責任感を一度外して、自由に曲を作りたい」と思ったのがあります。それと、曲を作っているとどうしても自分らしくはなっちゃうんですけど、「『ユプシロン』の世界観に縛られすぎず、初音ミクちゃんに歌ってもらうことを想定した楽曲制作をやってみたかったから」というのもありますね。

ボカロ曲の制作を通して難しいメロディやリズムをガンガン使うようになり、音楽的なバリエーションも増えた。そうしてできたのが、この『フォージェリィ』という曲です。2022年に入ってからは、自分で歌うために作ったオリジナル曲も「ボカロっぽくなったな」と思います。ボカロで曲を作る過程で学んだことを、自分のオリジナル曲に逆輸入した――というか、埋め込んでいった感じですかね。

【MV】フォージェリィ // ユプシロン Original song ☽꧂ – YouTube

――ボカロPとしての経験が、VSingerとしての活動にも生かされている、というわけですね。これはVTuberでありシンガーソングライターでもある、ユプシロンさんならではの強みであるようにも感じます。

ユプシロン
当時は単純に「やってみたい!」の気持ちだけで始めたのですが、ちょうどボカコレがあったので、投稿祭のタイミングにあわせて楽曲を投稿してみた感じです。

そこですんなり受け入れてもらえて、新しいリスナーさんが増えた実感もあったので、それは純粋に嬉しかったですね。「VTuberはそんなに好きじゃないから配信には行かないけど、ボカロは好きだから、純粋に気に入った音楽はリピートして聴く」みたいな層もいるのかなと。

――たしかにそういう人もいるかもしれませんね。「自分の音楽を聞いてもらえる」「普段は自分の歌を聞いていない層にも届けられる」という意味では、アーティスト目線ではやはり嬉しさがありますか?

ユプシロン
正直、めちゃくちゃ嬉しいんです。特にニコニコの住民のみなさんはクリエイターに対するリスペクトがすごくアツくて、嬉しいコメントを最初からたくさんもらえました。自分の声で歌わないからこそ、音楽の作詞作曲の能力をフラットに見てもらえる。そういう部分で評価していただけたのも嬉しかったですね。

アイスクリーム / ユプシロン feat.初音ミク – ニコニコ動画

――少し話が逸れますが、アルバムのクラウドファウンディングのページでユプシロンさんのプロフィールを拝見して、ちょっと引っかかった部分がありまして。「音楽というツールを通して欠けてしまったものを求める」という箇所ですが、これまで「ツール」という表現では明文化されていなかったのではないかと記憶しています。たまたまそういう表現を使っただけかもしれませんが、何か心境の変化があったのでしょうか?

歌い手で、ボカロPで、バーチャルシンガー。 インターネットミュージックの世界で活動する、シンガーソングライター・ユプシロン。 性別、年齢、正解の、3つの〝概念〟を失い、音楽というツールを通して欠けてしまったものを求める。

うぶごえ | 【Vsingerユプシロン】個人勢最初で最後のアルバム制作プロジェクトより

ユプシロン
「日常の疑問などを音楽で表現していく」っていう部分は、最初からそうだったと思います……が、たしかに明文化はしていなかったですね。でもなんだろう……変な話、「VTuberだから設定がある」っていうわけじゃなくて、その「概念がない」という部分は、自分がボカロPになっても同じだったというか。

このプロフィールは「本当に自分自身のことを表しているもの」であって、「VTuberとしての“設定”の説明ではない」っていう感じかな。「自分にはこういう背景があり、このような意識をもって音楽活動をしている」というマインドの部分が、自分の中でどんどんはっきりと形になっていったような感覚はありますね。

一番最初、2020年にVSingerとして活動を始めたときって、「あ、そういう設定なんだ」って受け取られている部分も多々あったと思うんですよ。でも「設定じゃない」というか、もうなんか「どんどん本当になりつつある」ような感じがします。だから「ボカロP」という肩書きは増えましたが、不思議と以前よりも肩書きに囚われることはなくなって、一貫して音楽活動に取り組めているような気がします。

――「3つの〝概念〟を失い」というお話も、VSinger・ユプシロンの世界観を構成する要素ではありますが、たしかに「設定」とは少々異なる印象がありました。活動スタンス……あるいは「マインド」のような……?

ユプシロン
うん、「マインド」がしっくりきますね。もともとそういう思いがあったことは以前のインタビューでもお話しましたが、その思いがより強い実感を持って「そうだな」って思えるようになってきた、っていう感じですかね。

「『VSinger』とは別のジャンルに行っても、自分はそのままなんだな」と。ボカロPの土俵で音楽を投稿するようになっても、自分の「〝概念〟がない」ことをはじめとするマインドの部分は変わらなかった。そんな実感があります。

3Dワンマンライブの裏話!OP映像の意味と、ユプシロンさんが考える「ライブ」の良さ

【全編 無料Live】ユプシロン3D Live「思考少年」【 #ユプシロンライブ2022 】 – YouTube

――先日、YouTubeで配信された3Dライブについてもお話をお聞きしたく思います。オープニング映像やストーリーパートなど、かなり力が入っていた印象もある初のワンマンライブ「思考少年」。振り返ってみていかがですか?

ユプシロン
初めてのワンマンライブですし、とにかく自分のやりたかったことをいろいろ詰め込みました。「自分がもしライブをするなら……」という妄想をこの2年間しょっちゅう思い描いていたので、それをすべて形にするべく取り組みましたね。

あのライブの中で「企業勢になる」ことを初めて発表したのですが、実はあのライブ自体も、その企業さんに資金援助をしていただいたことで実現したものでして。初めてつよつよのスタジオを借りて、すごい設備で、個人じゃ出せないような額のお金を出してもらえたからこそ実現したという(笑)。

――そうだったんですね!? 「やりたかったことを詰め込んだ」とのことですが、実際に3Dライブをやると決まったとき、特に「これだけはやりたい!」と考えていたことはありますか?

ユプシロン
「ストーリー仕立てのライブにしたい」というのが一番最初にありました。それも演劇のようなものではなくて、「どの曲を何番目に歌って、次の曲を何にするか」という「繋ぎ」の部分ですね。

曲から受ける印象や意味って、歌う順番によってすごく変わる。それがライブの良さであり、楽しさだと自分は思うんですよ。YouTubeでは1曲ごと個別に聞かれていた楽曲が、ライブのセットリストとして並べられることで、「あ、この位置にこの曲が来るんだ」「今日はこういうことを一番伝えたいんだな」と、リスナーさんそれぞれに意図を汲み取ってもらえるようになる。それが、自分がライブでやりたかったことです。

【全編 無料Live】ユプシロン3D Live「思考少年」【 #ユプシロンライブ2022 】 – YouTube

なので、「どうしてそこでそういう気持ちを歌うのか」を物語に込めて伝えるために、朗読パートを入れました。さらに、曲と曲を繋ぐ部分でも「ここはゆっくり暗転してください」とか、照明も実は細かくオーダーしています。あとは、曲間――曲と曲の間ですね――も「この曲とこの曲の間は少し空けてもらっても大丈夫です」とか、スタジオの人と相談していて。だからライブのセットリストは全7曲になっていますが、「7曲を歌った」というよりは「ひとつの舞台を見た」感じにしたかったというのが一番ですかね。

あと、一番最初のオープニング映像は今後もライブSEとして使うつもりです。あの映像についても簡単にお話してしまうと……まず、部屋の中でパソコンをいじっているユプシロンがいます。そこでキーボードのControl+Zを押すんですね。Control+Zって「一度入力したものを取り消す」操作であり、「ゼロに戻す」という意味の「Z」じゃないですか。で、ライブの一番最後は『ZERO』で締める――というセットリストが、自分の中にはありました。

――すると、ライブの最初と最後はあらかじめ決まっていたわけですね。Control+Zの動作も意味深でしたが、数ある楽曲の中で『ZERO』を最後に持ってきたのにも何か意図があるのかなと思いながら見ていました。

ユプシロン
『ZERO』を持ってきた意味は……実は、ほかにもあります! ライブは終わりましたが、伏線はまだすべて回収できていません(笑)。

【全編 無料Live】ユプシロン3D Live「思考少年」【 #ユプシロンライブ2022 】 – YouTube
【初音ミク】ZERO【ユプシロン】 ☽꧂ – YouTube

――そうなんですか!? いやー、ますます今後が楽しみになりますね! あとライブに関して言うと……あのリボン! バーチャル空間で歌うユプシロンさんの姿を見るだけで感無量だった方も多いと思いますが、体の動きに合わせてひらひらと揺れるリボンがすごく映えていて、華のあるステージになっていたように感じました。

ユプシロン
ね〜〜〜!! 本当にそれはモデラーさんと絵師さんに感謝していて! 揺れ物があると動きがすごく綺麗になると自分でも感じていましたし、リボンがなかったらステージの華やかさも欠けていたと思います。自分でもテンションが上がりながら、「一生感謝っ……!」と思いながら歌っていました(笑)。

ちょっとメタい話をしちゃうと、今回は「VICON」というめちゃくちゃつよつよの機材を使わせてもらえたので、再現性が今までとはぜんぜん違っていて。事前にテストをさせてもらったのですが、体の動きが良くも悪くも実際にそのまま反映されるので、「ステージングを本当にちゃんとやらないとまずいな!?」と思ってめちゃくちゃ練習しました。だからライブの映像を見ると、僕のいろんな動きの癖が出ていると思います。

――なるほど、モーションキャプチャーの精度が高すぎて、体の動きをそのまま反映してしまうから……。

ユプシロン
そうなんですよ。突っ立っていたら「突っ立っている姿」がそのまま反映されちゃうので、動かないと途端にダサくなるんですよね(笑)。音楽に合わせて動く体のノリとかも全部、ラグもほぼなく出てしまうので。スタジオでもかなり練習しましたし、リアルアーティストさんのライブ映像をYouTubeとかでたくさん見て、ステージングはどうしたらいいのかを勉強しました。

もともとライブには頻繁に行っていたので、自分の好きなアーティストたちが「ロックの音楽にどうやって体を乗せているか」とかを改めて見てみたり。手の動きとか、体のねじらせ方とか、すごく勉強して本番に臨みましたね。……ダンスはできないので!(笑)

あと、ライブ中は目の前にコメントがばーって出るので、そこに人がいっぱいいるような感覚になりましたし、オンラインだけど緊張もしましたね。自宅で配信するのとはぜんぜん違う高揚感がありました。

――あと、ライブで歌を聴いていて「すごいな〜〜〜!!」と興奮させられつつ、改めて思ったのですが……やっぱり、難しい楽曲が多いですよね……?

ユプシロン
いやー、ほんとに! 「だれだ! こんな曲を書いたの!」って思いますもん。……自分なので、歌わなきゃいけないんですけど(笑)。

一番難しいのは、やっぱり『フォージェリィ』ですね。反省点だらけです! 『ZERO』と『「ハート」』はまだ割と歌いやすいんですけど……あ、『コスチューム』も結構大変です。『コスチューム』と『フォージェリィ』が一番ヤバいなー。

――ということは、今回のライブでは一番ヤバいのを序盤に持ってきたわけですね!

ユプシロン
たしかにそうですね!?(笑)いやーでも盛り上がるからなー! まあそんな感じでライブは今後もやっていくと思いますので、楽しみにしていてください!

アルバムの聞いてほしいポイントと、2枚組のタイトルの意味

――ここからは、楽しみにしている方も多いだろうアルバムについてうかがえればと思います。まずはクラウドファウンディングの目標達成、誠におめでとうございます!

ユプシロン
ありがとうございます! クラウドファウンディングについては、以前3Dモデルのクラファンをしたときに大変すぎたので「もうしない」とか言ってたんですけど……「してんじゃん」っていう(笑)。

アルバム自体は「いつか出したいな」くらいには思ってましたが、でもこのタイミングで出す予定はなかったんです。出すことを決めたのは、「企業所属が決まったから」という理由が一番大きくて。環境が変わる前に一度、個人で作った10曲をアルバムにしようと考えた感じですね。

本当は1枚のフルアルバムにしてもよかったのですが、2枚のミニアルバムの形で出すことに決めました。というのも(活動の)最初の1年目と次の1年とではテーマが違っていたので、そこで分けたかったんです。正直、分けないほうが制作費も安く済むのですが――要は倍ぐらいになるんですね――なのに分けた、っていう(笑)。

でもやっぱり、自分の気持ちとしては2枚に分けて出したかったし、個人勢としても最後のプロジェクトになるので、クラウドファウンディングでみなさんにご支援をお願いすることにしました。リターンも気合を入れて作っているので、楽しみにしていてください!

うぶごえ | 【Vsingerユプシロン】個人勢最初で最後のアルバム制作プロジェクト

――今回のプロジェクトは「個人勢としてラスト」という意味合いも大きいですが、一方で「初アルバム」といえば、アーティストにとってはひとつの到達点であるようにも思います。

ユプシロン
そうですね! めちゃくちゃ大きな出来事だと思います。

今は歌詞カードのデザインやレイアウトの作業を進めているのですが、普段の楽曲制作とはまたぜんぜん違った体験が多くて新鮮に感じています。曲順とかもすっごい悩んで……というのも、Spotifyなどのサブスクで音楽を聞くときって、好きな曲だけを聞くじゃないですか。でもCDにすると収録されている順番に流れで聞くので、またちょっと聞こえ方が変わると思うんです。

あとは、曲間とかもマスタリングの作業の中で決めるんですよ。「この曲とこの曲の間は何秒空けますか?」とか、逆に「曲の間は空けないで詰めますか?」といったことを選べるんです。これも慣れない作業でしたが、曲の流れや聞こえ方、「何を受け取ってほしいか」を考えながら曲間を決めていきました。デジタルリリースだけでは絶対にないような作業がいっぱいあって、すごく勉強になりますね。

――なるほど! 「曲間」ってあまり意識したことがなかったのですが、言われてみれば、シングルで出した楽曲の再生時間がアルバムの収録時には何秒か伸びていることもありますよね。もしかするとあれも、曲間の調整によるものだったりするのでしょうか。

ユプシロン
多分そうだと思います。「曲間を選んでください」って言われて、「“曲間を選ぶ”ってなんですか!?」って最初はなりましたが(笑)。

あとはやっぱり、マスタリングが変わるとまた聞こえ方が変わってきますね。いつもお願いしているエンジニアさんに「アルバム用のマスタリング」を10曲全部やり直してもらったのですが、『「ハート」』や『ステレオタイプ』はより立体感が出ていて、「リマスター版」みたいになっています。歌い直しも何もしていないんですけど、「おおー! マスタリングでこんなに変わるんだ!」と自分でも感じるくらいには違いますね。ツヤ感とかが結構出てて……めちゃカッコよくなってます!

――デジタルリリース版と聴き比べて楽しむこともできそうですね。

ユプシロン
してほしいですね! 個人的にはちょっとテンションが上がりました。もしかしたら、車の中とかで聞くとまた変わるのかもしれません。自分も家のちょっと良いヘッドフォンとかで聞くと「ぜんぜん違うな」ってなるので。なんというか……ちょっと派手になってます。ツヤ感と……あとは キラーン☆ としてます(笑)。

――光ってる!(笑) 一方で、「アルバム」という形で楽曲をまとめて収録するにあたっては、ユプシロンさんご自身が作ってきた楽曲を改めて振り返る場面もあったのではないかと思います。この2年間の楽曲を振り返ってみて、作風や心境など「変わったな」と感じる部分はありますか?

ユプシロン
作風は「めちゃくちゃ変わったなぁ」と思いますね。最初は邦ロックっぽい曲が多かったのですが、たくさんボカロPの曲を聞くうちに徐々にボカロ曲の影響を受けてきて(笑)。歌っているテーマ自体は大きく変わっているとは思わないんですけど……んー……言葉の使い方とかは変わんないけど、バリエーションは増えたように思います。

具体的には、遊び心とか。昔のほうが変に真面目だった――「昔」って言っても2年前ですけど(笑)――2年前のほうがなんか、「シリアスで真面目な感じにしなきゃ」みたいな感覚が多分あって。今は良い意味でふざけたり、遊び心を入れたりできているように思います。

――音楽に込める思いやメッセージ性などは変わっていないものの、それを表現する方法や言葉のバリエーションはこの2年間で増えた、という。

ユプシロン
たとえば、今っぽい単語を使うようになったのは『フォージェリィ』あたりからだと思います。「自撮り」とか「映えてる」とか、そういう言葉は『「ハート」』や『ステレオタイプ』ではあまり使わなかったので。2022年に入ってから、そういうちょっと砕けた言葉を使ったり、トレンドを取り入れたりするようなりました。

ほかの曲を見ても、『アンコンフォートゾーン』の「イタイ イタイ イタイの飛んで行け」とか、『アイデンティティ』の「アイス食って寝ちまいたいたいな」とか、歌詞に遊び心を入れるようになったのは今年の曲からですね。なので、今回のミニアルバム2枚はそれぞれ『シロン』と『セイロン』というタイトルなのですが、『シロン』のほうは結構ダークな感じで、2022年リリースの楽曲をまとめた『セイロン』のほうは遊び心も入っている感じになっていると思います。

――これを聞いてしまうのは野暮かもしれませんが、2枚のミニアルバムのタイトルにはそれぞれどのような意味が込められているのでしょうか?

ユプシロン
ぜんぜん聞いちゃって大丈夫ですよ! まずこれは「死生論」のことで、単純に「」と「」で反対の言葉にしています。さらにそれだけじゃなくて、「私事」の「」と「世論」の「」にもかけていて、それぞれ「私論(シロン)」「世論(セイロン)」とも読めるようになっている感じですね。

「死」と「生」と、「私」と「世」。それぞれを対比させつつ、どちらの意味でも受け取れるようにしたかったので、カタカナで『シロン(死論/私論)』『セイロン(生論/世論)』としました。あとはジャケ写も青と赤の対比になっています。――まあでも、そんなに深く考えずに聞いてもらっても大丈夫ですので!

ライブで歌いたい『アイデンティティ』と、難産だった『ドレスアップ』

――ありがとうございます! せっかくですので、2曲の新曲についても簡単にご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

ユプシロン
まず、10月7日にリリースされた『アイデンティティ』は、初めてコミカルな要素を入れたアップテンポな楽曲になっています。かけ声があったり、「Oh—ワオワオワオイェン」みたいな意味不明な言葉を入れたり、メロディもコミカルになるようにしたり。カッコよさはありつつも、遊び心をちょっと強めに入れた曲になっています。

【MV】アイデンティティ // ユプシロン Original song ☽꧂ – YouTube

――ライブでも盛り上がりそうな曲ですよね。

ユプシロン
そうですね。「ライブで歌えて、みんなで盛り上がれる曲がもっとあったらいいな」と思って、ちょうど3Dライブの準備をしていた時期に作っていました。なので、ライブを想定した楽曲になっています。

共作してくれているsachiさんにもそれを話しつつ、「中華っぽい要素とか、和っぽい要素とか、今までなかった音を入れたいです」ともお伝えしたので、イントロにはいろいろな音がいっぱい入っています。ただ、これもライブで歌うにはそんなに簡単じゃないんですけどね! 結局また、簡単じゃない曲を作っているという(笑)。

でもやっぱり、ライブでいつか歌いたい曲ですね。サビの真ん中に「イー アル サン スー」っていう部分があるのですが、ファンのみんなにライブで言ってもらえたらいいな。

――リアルライブで声を出せるようになったら、いの一番に叫びたいですね……! もう1曲の『ドレスアップ』に関してはいかがでしょう?

ユプシロン
『ドレスアップ』は春頃から作り始めた曲で、実は『アンコンフォートゾーン』よりも前に取り掛かっていたのですが、なかなか完成しなくて……。一番最初のところだけは結構前からできていたので、どうにか完成させたいなと思いつつ取り組んでいた曲です。

こちらに関しては「ドレスアップ」っていうタイトルが先に決まってて、タイトルとテーマから作っていきました。「なんで人は着飾るのか」「空っぽだから着飾りたい」といったテーマで書いてたんですけど……難しかったですね。自分で先にテーマを決めちゃったことで、逆にいろいろ悩むことになっちゃって。ボツにしようかどうしようか悩みつつ、それでもちょっとずつ作っていました。

多分、変にカッコよくしようとしちゃってたのと、テーマが難しすぎたことで、なかなかうまくまとめられなかったんですよね。「サビの部分はサビらしいサビにしよう」とか、「“ドレスアップして”という一文を絶対にサビのド頭に入れよう」とか、自分の中で先にルールを決めて作り出しちゃったので。

ボツにしようか悩みもしたのですが、一方では『アイデンティティ』を作って、コミカルな要素を自分の中に引き出しとして増やせたことで、『ドレスアップ』もどんどん形になっていきました。2番のBメロに「119 119 繋がらないんだよ119」という歌詞があるのですが、こういう遊び心みたいなものが今まではなかったので。こういうことが潔くできるようになったからこそ、この曲を完成させられたように思います。

『アンコンフォートゾーン』と『アイデンティティ』を作れたからこそ、『ドレスアップ』も仕上げられた――みたいなイメージですね。

✦ドレスアップ / ユプシロン feat.初音ミク✦ – ニコニコ動画

ユプシロン
ちなみにこの『ドレスアップ』は、シングルバージョンとアルバムバージョンで若干の違いがあります。初音ミクちゃんバージョンをボカコレにあわせて投稿したのですが、こちらはちょっと短めで、アルバムバージョンのほうがメロディと歌詞が増えている感じです。

――別バージョンを設けることにしたのはなぜですか?

ユプシロン
一番最初にアルバムバージョンを作って、言いたいことをとりあえず詰め込めたので、それは自分の中でストンと落ちたんですけど……でもなんか、ちょっと引っかかる部分もあったんですよ。「多くの人に聞いてもらいたい音楽としては、サビにいくまでがちょっと長いな」って。

すっごく悩んだのですが、アルバムにはできたものをそのまま入れて、シングルバージョンでは「長いな」と思うところはバスっと切ることに決めました。もちろん、シングルでも意味がちゃんと伝わるように作ったんですけど、アルバムのほうがより「なるほど」って感じてもらえるんじゃないかと思います。

――ここでもまた聴き比べる楽しみがあるわけですね。ちなみに、クラウドファウンディングのページでは「タイトル未定」になっているところが『アイデンティティ』ですか?

ユプシロン
そうですね。「アルバムを作ろう」と決めたときにはもう『アイデンティティ』の制作に取り掛かっていたのですが、タイトルが決まっていなかったんです。

自分が曲を書くときは、「タイトルが最後に決まる」パターンと「タイトルを先に決める」パターンのどっちもあって。『「ハート」』はタイトルありきで作ってたんですけど、ほかはあとからタイトルを付けている曲が結構多いですね。『フォージェリィ』とか、『アンコンフォートゾーン』とか。

『フォージェリィ』に関しては歌詞で「FORGERY DAYS」って言っているので、「フォージェリィデイズ」にするか「フォージェリィ」にするか悩んで決めた……ような覚えがあります。たしか(笑)。

――タイトルを最後に決めるときって、どういう感じで決めるんですか? 候補をいくつか考えて、みたいな……?

ユプシロン
そうですね。ただ、タイトルを決めるのに1週間ずっと考えていることもあります。生活しながら、良いワードがないかいろんなものを見るんですよ。本を読んだり、辞書を開いたりして、「なんか良い単語ないかなぁ」って。で、「あっ! これだー!」ってなったらそれにする、みたいな(笑)。

『アンコンフォートゾーン』も当初は、「曲はできて、伝えたいこともはっきりしているけれど、それを一言でタイトルにするとどういうことなんだろう」って悩んでいた覚えがあります。いろんな本とかをパラパラパラーって読んでいたら、「コンフォートゾーン」っていう単語が出てきて、「これの反対じゃん!」と。それで『アンコンフォートゾーン』しました。タイトルが一番苦手……というか、決めるのに時間がかかります。

【MV】アンコンフォートゾーン // ユプシロン Original song ☽꧂ – YouTube

――私事かつ別ジャンルのお話で恐縮ですが、自分も記事を書いていて一番悩むのがタイトルなので、今すごく共感しながら聞いておりました(笑)。

ユプシロン
ですよね!?(笑)

――変に凝ったものにしようと考えちゃうんですよねー!

ユプシロン
そうですそうです! 『アイデンティティ』もめっちゃ悩みました。「アイデンティティ」っていうタイトルの曲、いっぱいあるじゃないですか? 「いっぱいあるなぁ……!」と思いながら、でも自分の中では「“アイデンティティ”なんだよなぁ」としっくりくる感じがあったので、潔くそれにしました。

――そういえば収録曲の制作順を聞いて思ったのですが、最初に作った曲が『ステレオタイプ』で、今回のアルバムの中では最後に作ったのが『アイデンティティ』というのが、個人的にすごくしっくりきました。うまく言葉にできないのですが、「ユプシロンさんらしい」というか。

ユプシロン
あー、なるほどー! そこはぜんぜん考えてなかった(笑)。偶然なんですが、そう感じてもらえて嬉しいです。

アルバムについて改めてお話しておくと、初回限定版を枚数限定で出します。ぜひゲットして、古参アピールをしてください!(笑) クラファンの支援者の方には一足先にお送りしますが、一般発売もありますのでお楽しみに。クラファンでゲットしそびれた方は、ぜひこの機会にゲットしていただければと思います。

ジャケットのイラストも、ママ絵師であるさくしゃ2さんが描き下ろしてくれました。この2年半で知り合ったクリエイターさんたちが大集合するようなアルバムですし、いったん、ここまでの活動の締めくくりの作品になったんじゃないかと思います。

ちょうど今、初回限定版のフォトブックなどを作ってるんですけど、クレジットをまとめて載せるんですね。それを見ると、ほんとみなさん大集合だなあと。クレジットが長すぎて、「こんなにたくさんの人と関わったんだ!?」と驚きつつ、「いろいろな人とやり取りをしながら作品を作った2年半だったなあ」としみじみ思いました(笑)。

「サブカルじゃない」活動によって、いざメインストリームへ

――「締めくくりの作品になった」と聞いて思い出したのですが、過去にインタビューで2022年をどんな年にしたいかを尋ねられて、「自分の中では第二章がスタートする年」と答えられていたかと思います。そして『フォージェリィ』が「活動第二章の幕開けの曲」ともお話されていましたが、すると今回のアルバムは、いうなれば「第二章の締めくくり」的な立ち位置の作品になるのでしょうか。

ユプシロン
そうかもしれないです。「早いじゃん!」って話なんですけど(笑)。『フォージェリィ』を出したときは、まだ企業勢になることは決まっていなかったので。音楽性が変わるわけではありませんが、「一区切り」という意味では締めくくりになるのかな、と思います。

――以前から「企業所属のアーティストになりたい」というお話はされていましたが、今回の件はずばり「良いご縁があった」ことによる所属となるのでしょうか。

ユプシロン
はい! そうです!! やっとご報告ができます!(笑) あの……詳しくはまだお話できないのですが……ゴニョゴニョ……なので……がんばらないと……!

これは裏話ですが、ボカロPとして活動を始めてから急にスカウトが来るようになったんですよね。いろんな音楽会社さんからも連絡があったりして。なんか「歌う人」じゃなくて「作詞作曲をする人」っていうのを見せるようになってから、急にお声がけいただく機会が増えたように思います。

―― 企業所属のVSingerとして活動するにあたって、やってみたいことや実現したいことはありますか?

ユプシロン
まず決まっていることとしては、先日発表されたショートアニメがあります。こちらはなんと、原案もやらせていただきます!

いろいろな妄想をするのがもともとすごく好きだったのですが、担当者さんが自分のその能力を買ってくれているらしいんですよね。「設定資料とか作るのうまいよね」って。妄想を書き起こしてるだけなんですけど、それをうまく使ってくれていて。「タイトルとか全部決めていいよ」って言われて「えぇ!?」ってなったんですけど、全部決めました(笑)。

「どういうところで何をするか」みたいなアニメの設定や内容を全部決めさせてもらって。「不思議な電車内で会話が繰り広げられて、電車の壁がしゃべる……とかどうでしょう?」みたいにお話したら、「オッケー! 採用!」って言われて、「えぇえ!? マジすか!?」みたいな感じでした(笑)。

――ノリが! 軽い!!(笑)いやー、まさかのアニメということで、本当に楽しみです! まだお話できないことも多いでしょうし、いろいろ決まっていくのはこれからかと思いますので、もしまた機会があれば詳しくうかがえたら嬉しいです。

――活動も3年目に突入し、3Dワンマンライブを実現させ、さらには企業所属も決まり、ますます活躍の場を広げているユプシロンさんですが、今後の活動の展望を教えてください。

ユプシロン
これまで通り「音楽を作って世に発表していく」ことは変わりません。でも一方で、個人で挑戦するには金銭的に難しかったことや、「こういうのやりたいな」と思ってもできなかったことにも、今までよりは取り組みやすくなるのかなと。いただいたチャンスを生かしつつ、世界観ももっとブラッシュアップさせて発信していけたらな、と思っています。

――以前のインタビューで「1人じゃできないことをもっとやりたい」とお話されていましたが、「企業」はまさにそれが叶いやすい環境であるように思います。

ユプシロン
そうですね。「相談できる人ができた」のはありがたいこと……ですが、でも良い意味で「なんでもOK」って言われちゃうので、「本当に大丈夫ですか!?」とも思います(笑)。今も曲を作っているんですけど、ダメ出しがぜんぜんなくて。「自分の良いところを生かそうとしてくれているのかな」とも思うので、それは素直に嬉しいですね。

ほかにやりたいこととしては、3Dの体をもっと使ったライブなどの活動にもいろいろ挑戦したいなと。というのも最近、自分は「VTuberが好き」というよりも「VR技術が好き」なんだなと感じることがありまして。新しい技術にすごくワクワクさせられるので、それらをうまく活用しながら映像作品をもっと作っていきたいです。

――ということはリアルライブ以外だけでなく、VRライブをやってみたい気持ちも?

ユプシロン
やりたいですね! 今月もVRMFに出るので……超ヤバいっす。今、ヒィヒィ言いながら練習してます(笑)。

【#VRMF 2022】Virtual Reality Music Festival 2022 Live Stream – YouTube

――楽しみにしております! VRの世界に飛び込むVTuberさんも徐々に増えつつあるので、VRライブもますます盛り上がってほしいですね。

ユプシロン
一般層にももっと届いてほしいですよね。友達に「メタバース」って言っても「なにそれ?」って言われますもん。ネットを普段あまり見ていない人はVTuber自体もぜんぜん知らないので……「あー、米津玄師とAdoは知ってる」みたいな(笑)。

「サブカル」って言われたらそうかもしれませんが、僕は自分の音楽を「サブカルじゃない」と思っているので、音楽ではメインストリームに挑んでいきたいですね。

――では最後に、読者さんに向けてメッセージをお願いします!

ユプシロン
今後もたくさんのお知らせが出るので、楽しみにしていてください。まずは、個人勢としての活動の締めくくりとなる2枚組のミニアルバムが完成となりますので、ぜひ聞いてほしいです! いろんな人の助けを借りてできた10曲なので、たくさん宣伝活動していきます(笑)。そちらもお楽しみに!

――ありがとうございました! アルバムのリリースを楽しみにしつつ、今後の活動も応援しております!

【CD1】シロン/ユプシロン<通常盤/初回限定盤>
【CD2】セイロン/ユプシロン<通常盤/初回限定盤>
お話してくれた人
ユプシロン

中性的な姿と声が魅力のバーチャルシンガー。性別・年齢・正解の〝概念〟を失い、音楽を通じて欠けたものを探している。

作詞作曲を自ら行うシンガーソングライターであり、2021年からはボーカロイド楽曲も制作しているほか、アーティストへの楽曲提供も行う。自身の経験と思想が反映された哲学的な歌詞には定評があり、その世界観に魅了されるファンも多い。

【インタビュー】ユプシロン

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この記事を書いた人

けいろーのアバター けいろー バーチャルライター

フリーライター。VTuber/VR関係のメディアとしては、MoguliveやVtuber Postに寄稿。インタビューやライブレポートなどを担当している。その他実績として、コミックナタリー、ふたまん+、SUUMOタウン、ぐるなび みんなのごはん、『初音ミクエキスポ』公式パンフレット、双葉社『EX大衆』VTuber特集、日本看護協会出版会『創造られたヒロイン、ナイチンゲールの虚像と実像』など

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