ひと夏の思い出系VTuber「一期一夏」

コラム「“夏限定”がもたらすエモと、『一期一夏』という少女の魅力」

わずか50日という活動期間で、たくさんの人の「夏の思い出」となった、一期一夏さん。誰もが知る有名VTuberではないが、自分の周囲ではそれなりに注目を集めていた印象がある。

何と言っても、「夏限定」という背景からしてズルい。

なぜなら「夏」という季節は、四季の中で最も「エモい季節」だから。他の季節とは異なり、関連するフレーズをちょっと挙げるだけでも不思議とエモく感じられてしまうくらい。

そう、たとえば――。

  • 抜けるような青空
  • 軒先で聞く風鈴の音色
  • 田園風景に響く蝉の声
  • 白いワンピースに麦わら帽子
  • 神社の境内を埋め尽くすお祭り屋台

ほかにも「打ち上げ花火」「かき氷」「海水浴」といった夏を彩る要素は枚挙にいとまがなく、そのどれもがなぜだかエモーショナルに感じられる。

子供時代の記憶や、夏休みの思い出、あるいはそういったノスタルジーを描いたコンテンツのイメージに引っ張られているせいかもしれない。

そのように季節からしてエモい「夏」に、儚げな「少女」の姿をした「幽霊」として現れた彼女。

それもただの薄幸美少女ではなく、性格はどちらかと言えば朗らかで愛嬌たっぷり。そこにしかも夏にぴったりな「幽霊」の要素が加わったら――そりゃもう、キャラクターとしては完&璧ってもんでしょう。

だって幽霊は、「すでに生命を終えた、時の止まってしまった存在」だから。

この世とあの世の境界で、いつまでも終わらないモラトリアムを重ねるしかない存在。それはまるで、永遠に終わらない夏休みを過ごすようなもの。時が移ろい、街が変わりゆくなかでも、彼ら彼女らは不変のまま。

もし幽霊たちに、何らかの「変化」がもたらされるとしたら……それは、別れを意味する「成仏」しかない。

そんなエモーショナルな要素が満載の一期一夏さんの在り方は、リスナーのみならず交流のあったVTuberのあいだでも「素敵な夏の思い出」として語られている様子。

中でも突発企画「旧校舎に遊びに来てください」に名乗りを上げ、一夏さんのところへ“遊びに”行ったVTuberさんたちは、特に強く彼女のことを「思い出」として記憶しているようだ。

https://twitter.com/itigoitika/status/1295321628360896513

今になって考えてみれば、1回きりのライブ配信も、彼女の「限定」感を高めていたように映る。

活動開始当初からTwitterではマメにリプライに反応し、積極的に多くの人と交流しようとしていた彼女。とはいえ基本は動画によってストーリーが進行するタイプのVTuberということもあり、てっきり配信はしないものかと当時は思っていた。

ところがどっこい。いざ8月下旬のライブ配信を見に行ってみると、そこにはストーリー動画そのままの「一期一夏」がいた。

時折ちょっと言葉を選ぶように考えながらも、明るく話す彼女。送られてきたマシュマロに答えながらチャット欄のリスナーとも楽しそうに交流する様子を見て、彼女が魅力的な「VTuber」でもあることを再確認させられた。

「好きな本は山田詠美さんの『学問』」といった、彼女自身の好みの話も

VTuberとしての活動といえば、2つの「歌ってみた」動画の選曲もこれまたニクい。

歌詞にぴったりのタイミングで投稿された『少女レイ』は、一夏さんの少し儚げで透き通るような声にぴったり。

ほかにも数多くのVTuberが歌っている人気曲ではあるものの、「夏限定の少女の幽霊」である彼女が歌うと……やはりシンクロ具合が尋常じゃなく、これ以外ないんじゃないかと思わされる。

だってこの曲は、“そういう歌”なのだから。

夏が消し去った 白い肌の少女に
哀しい程 とり憑かれて仕舞いたい

みきとP「少女レイ」より

そしてもう1曲。最後の動画として投稿された、『secret base 〜君がくれたもの〜』

これまた言わずもがなというか、文句なしの選曲というか、夏の別れとノスタルジーが漂うド直球ストレートの王道ソングではあるのだけれど……。でもそれゆえに、数ヶ月が経った今なお聴きに来てしまうくらいには好きな動画となっている。

しかもこの動画、ストーリー動画の第7話直後に投稿されているのが、重ねてズルい。

余韻に浸る間もなく泣き曲の追い打ちをかけられ、ちょうど7話最後の言葉と重なる歌詞もあり、さらにこれまでのストーリーをたどるような動画構成と思い出ボムの演出なんて仕掛けられたら……ね……。

https://twitter.com/itigoitika/status/1307294301559250944

そうやって昨年夏、特別な思い出を残してお別れした彼女。しかし最近になって、「再会」を期待せずにはいられない動きが観測されている。

すっかり暖かくなった2021年5月中旬。活動停止後に彼女のことを呟いたツイートに、「一期一夏」本人から「いいね」が付いたのだ。

自分を含む複数人が同様に反応しており、あの夏を過ごした記憶がある人たちからすれば、そりゃあ「一期一夏さん……?」「もしかして……!」などと沸き立たずにはいられない。

また、自分の記憶違いでなければ、たしか活動停止後のTwitterのプロフィール欄には「夏の間だけあなたとお話しできたVtuber」と書かれていたはず。それが今は、「夏の間だけあなたとお話しできるVtuber」になっていることが確認できる。

つまり、それは……そういうこと、ですよね……? 期待しちゃって、いいんですよね……?

――今年もまた、夏がやってくる。

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【サムネイル】一期一夏

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