2023年も1年間を通して賑やかだった、VTuberやメタバースを包括した「バーチャル」の世界。
以前から精力的に活動を続けていた個人勢VTuberの躍進があり、十人十色の個性を持つ新人VTuberのデビューがあり、VR空間でも多種多彩なイベントが開催された2023年。年末年始にはWebメディアでも特集が組まれ、注目のVTuberやコンテンツをまとめる動きが各所で散見されていました。
今回取り上げるのは、そんなバーチャル世界で披露された「パフォーマンス」について。
2023年に開催された音楽ライブやイベントの中でも、そのコンテンツ全体や特定のVTuberではなく、個々のパフォーマンスにフォーカスを当てて振り返ります。ただし、あくまでも「筆者が個人的に印象に残ったパフォーマンス」に絞って取り上げておりますので、その点はご了承くださいませ。
ぱんだ歌劇団『アラジン』より
メイロー「ヴァルディ」
ききょうぱんださん(@kikiki_kikyo)が座長を務める「ぱんだ歌劇団」によるVR演劇『アラジン』。
おなじみの作品を下地として、スパイスを少々。仮想空間をフルに使って繰り広げられる、歌あり、VRパフォーマンスありの「歌劇」でございます。『アラジン』のあらすじを知っていても知らなくても楽しめる脚本と歌、魅力的なキャラクターと演者さんたちの演技が光る、素敵な演目でした。
そんななかで個人的に強く印象に残ったのが、メイローさん(@meiro_channel)の演じるヴァルディ。いわゆるヴィラン的な立ち回りで、物語を大きく動かすキャラクター……なのだけれど、此奴がなんとも憎めない。
劇の冒頭から登場し、作中では一番最初の歌唱パートも担当するなど、「観客を舞台に引き込む」という意味でも重要な役割を果たしていたヴィラン。
物語的にはどう見ても悪役然としているキャラクターであるにもかかわらず、なんとなく憎みきれない、演技の節々から愛嬌を感じられる。もちろん善人というわけではないのだけれど、「この人、自分の欲求に素直なだけなのでは??」と思わされてしまう、あっけらかんとした雰囲気がある。それでいてちゃんと“悪役”であることを強く感じさせる、メイローさんの絶妙な声色と演技が最高でした。
全体的に印象に残る場面の多いキャラクターではあるけれど、アラジンに迫るシーンの「どぉーうなんだ!?」の一言が好き。あとは第1公演の後半、舞台袖に去りながらボソッと呟いた「固かったぁ……」と、それを受けてのティファの「そうでしょうね……」のやり取りで吹いた覚えがある。あそこだけ切り取るとコントでは??
hololive 4th fes. Our Bright Paradeより
Hakos Baelz「神っぽいな」
「パワフルな『ロストワンの号哭』によって会場を赤く染めた赤井はあと&クレイジー・オリー」
「平成のオタクたちを不死鳥の如く蘇らせた、ときのそら&角巻わための『ETRENAL BLAZE』」
「すいちゃんのサプライズ登場に全ホロリスが歓喜した、しらけんの『群青讃歌』」
「早口実況もこなしつつ、『走れマキバオー』を歌いながら2連続側転を決めた戌神ころね」
「というか全体的にニコ厨ホイホイだった2日目のセトリヤバくね??」
――などなど、2日間で3公演、全92曲の中に見どころが盛りだくさんすぎた……もとい、もはや見どころしかなかった「hololive 4th fes. Our Bright Parade」。上記のような激アツポイントばかりでどれもこれも最高だったのだけれど、「パフォーマンス」という観点で1つだけ挙げるなら、Hakos Baelzさん(@hakosbaelz)のソロパートを激推しします。本当はMoguliveさんのライブレポートにも書きたかったのですが、泣く泣く割愛したんすよ~~~!!
選曲は、「神っぽいな」。
これがマジでヤバかった。神っぽかった。いや、神だった。
「あの幕張メッセの大舞台でこの難しい曲を歌った」ということだけでもすごいのだけれど、キレッキレのダンスが最高だったんすよ! 映像でお伝えできないのが残念すぎる。この曲の、このテンポで、がっつり“ダンスパフォーマンス”をしていてすごい。パない。途中、テンポが落ちるパートでは床に手をついての艷やかな表現もあり、その緩急にもドキドキさせられる。
「今後『神っぽいな』を聞くときは、もう他の人の歌ってみた動画じゃ満足できなくなるんじゃ……?」と不安になるくらい、洗練された歌と踊りのパフォーマンス。Podcastでも話した気がするけれど、これは自分史上「BEST OF 神っぽいな」です。すべての「神っぽいな」を塗り替えるステージでした。神っぽくない。神。
あとあと、これは今さっきまで知らなかったのですが。たまたま目に入った切り抜き動画によると、あのダンスはハコスさんが自分で考えたオリジナルの振り付けで、しかもベストを出し切れていなかった、ってマジ……??
さなのばくたん。 -ハロー・マイ・バースデイ-より
名取さな「ゆびきりをつたえて」
期待以上だった。半端なかった。ぶん殴られた。5年分の、バーチャルの、普段の活動の、物語の、積み重ねられてきた諸々からのおおきなおおきな一撃をもろに喰らって、マジ泣きしちゃった。
「さなのばくたん。 -ハロー・マイ・バースデイ-」は、個人勢VTuber・名取さなさん(@sana_natori)のお誕生日イベント。すっかり恒例になった、毎年3月7日のソロイベント――なのだけれど、冷静になって考えてみると、「個人勢VTuberが単独イベントを毎年開催している」って、トンデモナイトリッパーですわね?
イベント全体の構成としては、「パラレルワールドの名取さなの悩みを解決する」ことで展開していくミュージカル仕立ての内容。お誕生日を記念した年に一度のお祭りイベントであると同時に、普段の配信でのやり取りがそのままイベント会場に持ち込まれたかのような雰囲気も楽しい。で、そのハチャメチャな楽しさを具現化したかのような『パラレルサーチライト』で盛り上がった後、ラストに急展開する構成が見事すぎた。そりゃあ泣くってもんっすよ。
ステージ上に現れたのは、「わたし、本当はナースじゃないんです」と語る1人の女性。過去の動画でも存在が示唆されていた病院で過ごす彼女と、バーチャルナース・名取さな。2人が歌うのは、「ゆびきりをつたえて」。
1番と2番で異なる声色と演出にうるっとさせられた後、2人で同じ場所に並び立って歌う光景に「観たかったバーチャルYouTuberのライブ」の形を見て、思わず感極まってしまった。手を合わせた“彼女”が消えてから紡がれる言葉と、「私はどんな私が好き?」の優しく問いかける声に、彼女がなりたかった「ナース」の姿を見た。
ねえ あなたはどんな時の私が好き? 私はどんな私が好き?
「ちょっと涙腺が緩む」くらいはあるかなと思ったけれど、まさかマジ泣きさせられるとは思わないじゃないですかバカーーーーーッ!!!
自分がVTuberのライブで泣くときって、だいたいが「音楽+歌唱」のパワーによるものだったのだけれど(花譜ちゃんとかまさにそれ)、今回は「バーチャル」の文脈と物語性に揺さぶられた格好。最後のパフォーマンスを終えた後は何も語らず、ちょっとした映像での演出を挟んで、そのまま終幕となる流れもすごくよかった。余韻が大きすぎる……!
おはよう真夜中三周年記念フェスより
焔魔るり×おまる「ヒノコ」
2023年4月に開催された、おはよう真夜中さん(@ohayou_mayonaka)の3周年記念イベント。clusterの特設ワールドを舞台に行われた、複数人のVTuber/VSingerが出演する「音楽フェス」でございます。
こちらのイベントに関しては主催のおはまよさんからお声がけいただき、他のメディアさんと一緒にゲネプロにおじゃまして写真を撮らせてもらったのですが、想像以上にすごかった! 色とりどりのパーティクル演出に感動し、「個人主催のイベントでもここまでできるんだ!?」と、clusterにおける音楽ライブと空間演出に対する認識を改めるきっかけにもなったほど。終盤のおはまよさんのステージ演出は激アツでしたね……。
他にも、「clusterでもYSSは最高だな……」とか、「取材じゃなければMESSCOREのパフォーマンスで荒ぶりたかった!」とか、「やまみーさんのエンターテイナーっぷりが気持ちいい……」とか、個々のステージも印象に残るフェスだったのですが。
個人的にぶっ刺さったのが、焔魔るりさん(@Ruri_Enma)さん&おまるさん(@omaru_piano)のコラボレーションステージ。というのも自分、昔っからピアノの音色に弱いんすよ……!
2022年投稿の「don’t cry anymore」のピアノカバーを食らってしまって以来、「ピアノ伴奏で歌う焔魔るりって最高なのでは?」と思っていたら、最強のコラボパフォーマンスが実現してしまっていた。それもVR空間で。残念ながらフェス本番は収録映像を流す形だったのだけれど、ありがたいことにゲネプロで生演奏&歌唱を味わう機会をいただけたので、写真を撮るために空間を飛びまわりながら情緒をぶっ壊されておりました。
しかも選曲が「ヒノコ」とかね!! もうね!! 泣くわ!!!
以前から好きでたびたび聴いていた曲だったのだけれど、ピアノアレンジにするとまた印象がガラッと変わってたまらない。原曲の力強さとはまた違う、ピアノの音色も聞かせるように、しっとりと音と言葉を紡ぎつつ、サビでは情感たっぷりに高らかに歌い上げる。その緩急だけでもドキドキさせられるのに、その背後に揺らめく蒼炎のステージ演出が加わることで、視覚的にも揺さぶりをかけてくる。最強か……?
フェス本番では、ステージだけでなく客席の床にまで映像を投影することで、事前収録ながら奥行きと臨場感を感じることができた……のだけれど。正直に言ってしまうと、「2人のパフォーマンスを本番もあの空間で味わいたかった……!」と思わずにはいられない。そのくらい最高のステージだったので、また何かの機会で実現したらいいなと思います。
cluster idol fesより
桜兎フルガ「アイドルなんかじゃなかったら」
同じくclusterにて11月に開催された、「cluster idol fes」。読んで字の如く、複数のアイドルが出演するフェスステージであり、出演者の1人であるVSinger・七篠さよさん(@nanasayo09)に誘われて覗きに行ったイベントです。
さよさん以外の出演者さんに関してはみなさんお名前は聞いたことがあったものの、実際にステージを目にするのは今回が始めて。というのも、普段はVRChat上のイベントで活動されている方に関しては、どうしてもclusterと比べると参加のハードルが高くて、気になっても見に行けてなかったんですよね。自分はどちらかと言えばVRChat住民に近いと思っているものの、イベント参加がしやすいのはやっぱりcluster。助かる。
ちょっち話が逸れましたが、5組の出演者各々に異なる「アイドル」としての色を感じられるパフォーマンスを見られて、期待していた以上に楽しんでしまった本イベント。中でも草羽エルさん(@kusahaelv)の歌と声が以前から自分にはぶっ刺さりだった――のですが、それ以上にインパクトがあったのが、主催の桜兎フルガさん(@oto_furuga)のステージでした。
またまた話が逸れますが、VRライブの魅力と言えば、多彩な空間表現や豪華なパーティクル演出によって、臨場感を伴う「体験」ができることがまず挙げられるんじゃないかと思います。でも一方では、VRゆえに削ぎ落とされてしまう情報も少なくない。端的に言うなら、「ライブならではの空気感」のようなもの……かしら。
「ライブ会場まで歩いて向かう道中のワクワク感」とか、「会場の前で今か今かと開演を待つ待機列での期待感」とか、「場内を満たす大勢の観客の姿と渦巻く熱気」とか。ちなみに、それら「空気感」の表現をかつてないほどに生々しく実現していたのが年末の「CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat」だったと思うのですが、それは別の話なので置いといて。
そんな「空間」の表現とはまた別の観点で、ある種の「生々しさ」のようなものを感じられたのが、フルガさんのパフォーマンスでした。
何がそんなに良かったのかと言うと、自分がそれまでに見た他のどのバーチャルアイドルよりも、パフォーマンスが「生のアイドル」のものだと感じられたんですよね。なま。洗練されたトップ層のバーチャルアイドルたちのステージや、自分たちでアイドルグループを結成してレッスンに励み、完成度の高いパフォーマンスで魅せてくれるVTuberたちとはちょっと違った、「アイドル」の姿。
荒削りだけれど躍動感のある、その人から発せられた熱が伝わってくるかのような、力強いパフォーマンス。アイドルVTuberさんに対してこの表現を使うのはちょっと躊躇われるのですが、語弊を恐れずに言うと、良い意味で「汗臭さを感じる」というか。少なくともこの約5年間、多くのVRライブに足を運んできたなかで、「汗が飛んできそう」だと感じたステージは今回が初めてでした。それだけ全力。それだけ本気。「全身全霊で歌って踊るアイドルって、こういうことを言うんだ……!」と、軽く感動してしまったのです。
もちろん、大舞台で歌って踊るアイドルだって輝いて見えるし、そのパフォーマンスを披露するまでには血の滲むような努力と時間を費やしてきたはず。それも当然「魅力的なアイドル」の姿なのですが、あの時あの場所で見たパフォーマンスもまた、自分の目には最高の、「本気のアイドルのステージ」として映ったんですよね。しかもリアルのライブ会場ではなく、VRで。それが個人的には衝撃でした。アイドルって、すごい。