【インタビュー】自作小説が好きすぎて自ら映像化!?執筆に3Dモデリング、VR演劇となんでもござれの、趣味に生きるVTuber・ききょうぱんだ

【サムネイル】ききょうぱんだインタビュー

――「ぱんだ歌劇団」という劇団を知っていますか?

なんともかわいらしい名前ですが、現実世界の劇場で活動している劇団ではありません。ぱんだ歌劇団が劇を行うのは、VRChatやclusterなどのメタバース上のステージ。仮想空間の劇場で行われる「VR演劇」は、リアルの観劇とはまた違った魅力があると評判です。

ぱんだ歌劇団の座長を務めるのは、VTuber・ききょうぱんだ@kikiki_kikyoさん。劇団では役者として舞台に立つ一方で、劇の脚本も担当。普段はVTuberとして配信もしつつ、歌にイラスト、3Dモデリングに動画編集など、クリエイティブ方面でもマルチに活動されています。

本記事では、そんなつよつよぱんだである、ききょうぱんださんにインタビュー。

活動を始めたそもそものきっかけに始まり、ぱんだ歌劇団が結成された経緯や、ものづくりの楽しさ、そして、愛してやまない自作小説『恋するプリンセス』について、たっぷりとお話をうかがいました。

インタビュー・撮影・執筆・編集 / けいろー(@K16writer

目次

物語を紡ぐVTuber、趣味に生きる「ききょうぱんだ」さん

――まずは自己紹介をお願いします。

ききょうぱんだ
こんぱんだー! あなたの心にササりたい! ササダケニネッ!! 物語を紡ぐVTuber、趣味に生きる ききょうぱんだ です! よろしくお願いします!

――ききょうさんといえば、「ぱんだ歌劇団」など多方面で活動されていますよね。VRChatのイベントでお姿をよく拝見するため、VR方面のクリエイターというイメージも強いのですが、同時にVTuberとしても配信などをされています。今のような形で活動するようになったきっかけを教えてください。

ききょうぱんだ
VRを始めたきっかけは、兄がVR関係の仕事をしていたからですね。「VRではこういうことができるんだよ」っていうのを教えてくれて、自分もVRChatを始めてみたんですけど……1人じゃすることがなくて、すぐにやめちゃったんです。

それでしばらくは離れていたのですが、仕事を手伝うためにまたVRChatに入るようになりました。お手伝いしていたのは、Gugenkaさん所属(※当時)のVTuber・東雲めぐちゃんや「ハピバト!」です。ハピバト!はもともとライトノベル連動型VTuberだったのですが、その小説を私が書いていて。それで名前を知ってもらう機会が増えたので、GugenkaさんのGUメンバー(※)を布教しながら、あわよくば自分の小説も布教しようと思い、SHOWROOMでVTuber活動を始めました。

GU:「Gugenka Universe」の略称。Gugenkaに所属するキャラクターとその世界観のブランド呼称。GugenkaのVTuber事業終了に伴い2021年に解散しており、メンバーだった東雲めぐさんたちは現在、それぞれフリーで活動しています。

――では早速、その「小説」について詳しくお聞きしていければと思います。5月には第001話がVRで映像化されて話題になった、ききょうさんの自作小説『恋するプリンセス』。こちらはどのような経緯で生まれた作品なのでしょうか?

ききょうぱんだ
『恋するプリンセス』は、私が初めて書いた小説です。2015年の11月に書き始めて、作品自体は2016年の9月に完結しているのですが、その後も何回か修正を入れるなどしていて……まあずっとやり続けている感じですかね。人に布教するために今もいろいろ取り組んでいます。

そもそもどうして小説を書いたのかと言うと、ちょうどその頃の私は、結婚して子供を産んだあとの時期だったんです。子供ができると、忙しいけど暇なんですよ(笑)。「時間がちょこちょこあるのに、何もできない」みたいな。趣味の買い物やカラオケにも行けないし、友達と遊ぶこともできなかったので、スマホで恋愛シミュレーションゲームをプレイし始めたんです。

ところがある時、スマホを海に落として壊しちゃった(笑)。遊んでいた恋愛シミュレーションゲームには「推し」もいたのですが、データが復旧できず、それまで積み重ねてきたものがなくなっちゃったんです。でも、一からやり直すのはめんどくさい。そこでふと、「自分の好きなキャラクターを、自分で書いたらいいんじゃないか」と思いまして。自分が好きなキャラクターを生み出し、実際に物語を作り始めてみました。それが、小説を書き始めたきっかけです。

――おお……! すごく行動力のあるオタクの動きだ……! ちなみに、それ以前に趣味で小説を書いてみた経験はなかったのですか?

ききょうぱんだ
まったくないですね。本も普段からすごく読んでいるわけでもありませんし……『ハリー・ポッター』とか有名な作品くらいです(笑)。でも実際に書き始めてみたら、自分が好きなものを、自分の作品に詰めることの魅力と楽しさを知って、すっかりハマってしまって。今もそれが続いているので……だからもう、これで生きている感じですね、ずっと。

小説執筆から3Dモデリングへ、さらにマンガにも挑戦!?

――では、その大好きな作品である『恋プリ』を布教する手段のひとつとして「VR」を選んだ、ということになるのでしょうか。

ききょうぱんだ
「VRも使ってみよう」みたいな気持ちはありましたね。最初は「小説家になろう」に投稿していて、もっと大勢に読んでもらうために他のいろいろな小説サイトにも投稿してみたものの、そこまで多くの人には見てもらえなかったので……。

まずはBlenderで小説のキャラクターを作ろうとしてみたのですが、そんな簡単にはできなくて、「難しいよ! こんなん作れるか~い!」って、その時はすぐに投げちゃったんですよ(笑)。

――人型の3Dモデルを作るのは難しいって聞きますもんね……。

ききょうぱんだ
そうなんですよ。なので、「いきなり人から始めたから、作れなかったのでは?」と思って、パンダを作ってみたんです。

――ちなみに、パンダを選んだ理由は?

ききょうぱんだ
モデリングをするにあたって参考にしたのがパンダだったのと、自分が好きで推しているAAAのマスコットキャラクターもパンダなんですよ。あと、私が推している西島隆弘っていう人のグループ内の担当色がオレンジなので……。

――あ、それでききょうさんのお耳もオレンジ色なんですね!

ききょうぱんだ
そういうことです(笑)。そうやって作ったパンダをSHOWROOM配信でも使うようになって、自然とこの姿が定着した感じです。あとは配信を始めたことで、「自分が有名になれば、少しは読んでくれる人も増えるんじゃないか」という淡い期待も生まれましたね。

3Dモデルで試行錯誤したあとは、「小説の作中のシーンのワールドを作ろう」と考えまして。ワールド作りやキャラクター作りは作業配信をしながら、VTuber活動と一緒に一石二鳥な感じで進めていました(笑)。

――いろいろ並行して取り組んでいたわけですね。小説のワンシーンを再現するためのワールドとキャラクターを3Dで作りつつ、同時にVTuberとしての活動もしていた――という。それらが最初に形になったのはいつ頃でしたか?

ききょうぱんだ
ワールドが最初に完成したと思うんですけど、VTuberデビューしてすぐだったはずです。デビューが2020年の1月なので、ワールド自体は1月か2月にはできていたんじゃないかな……。アセットを置くだけなので(笑)。

でもアセットだけだと、自分の想像する世界をそのまま形にするのは難しかったので、「自分にはできないんじゃないかな」と思うようになりました。結局、作中のシーンのワールドは4つで作るのをやめたんです。自分にはちょっと、まだ力が足りない、と。

――それでも4つも作っちゃったんですね!?

ききょうぱんだ
4つは作ったんですけど(笑)。キャラクターも5人くらい作った段階で一度やめてしまって……。VTuber活動が忙しくなった、というのもありますが、「まずは自分が売れるために何かしなければいけない」と考えて、VTuber活動に専念することにしました。

あとはその間に、小説の改稿――ブラッシュアップもちょこちょこしつつ、マンガにもちょっと手を出してみたりしていました。ただ、5ページで諦めちゃったんですよね。「マンガは時間がかかりすぎる!」と思って(笑)。

そもそも小説って、読むハードルが結構高いんです。「読んで!」って言っても、なかなか読んでもらえないじゃないですか。しかも『恋プリ』はかなり長いお話なので、話数を見ただけで「あっ……ちょっと……」ってなるでしょうし(笑)。

――そうですね……普段から長編小説を読み慣れている人でもないと……。

ききょうぱんだ
普段から読んでいる人なら大丈夫だと思うんですけど、そうでない人にはハードルが高い。そこで、「マンガだったら手に取りやすいかな?」と思って描き始めたのですが……マンガは時間がすごくかかって、他のことができなくなっちゃうんですよね。表現としても、なかなか思ったようにはうまく描けなかったので。

「それだったら、VRで映像を作ったほうが早いんじゃないか」と思ったんです。最初は自分1人でやれるところまでやってみるつもりだったのですが、映像化を手伝ってくれる人がいたらいいなと思って、軽い気持ちでTwitterで募集してみました。そうしたら思った以上に人が集まりまして……今は50人くらいの規模になっています。

稼働している人数はそこまで多くはないかもしれませんが、集まったことは集まったので、「あっ……これは、ちゃんとやらなきゃいけないやつや……」って思って(笑)。大勢の方に協力してもらって、映像を完成させて、5月29日に第001話を公開しました。

自作小説の映像化と、お遊戯会から始まった歌劇団

――『恋するプリンセス』の映像化プロジェクトとしてスタートした「KOIPRIJECT」。第001話を制作するにあたって、苦労したことはありますか?

ききょうぱんだ
まず大変だったのは、キャラクターの3Dモデル制作ですかね。全部1人で作ったわけではなくて、手伝ってもらったところもありますが、キャラクターのアバターはほとんど自分が作っています。最初なので、キャラクターの数もめっちゃ多くて大変でした。

あと、シーンに合わせてワールドを探すのも大変でしたね。撮影自体も、VRChat上でできる動きではいろいろ思うようにいかないところもあったりとか。大変な部分もいろいろありましたけれども……楽しかったですね!

それともうひとつ、何百話もあるので、「生きているあいだに終わらないな」っていう悩みはありますね(笑)。だから「とりあえずできるところまでやれればいいな」と思って取り組んでいます。いつかね、もっと大きくなって、話数ごとにチームを分けて並行して作れたら、もっとコンスタントに公開できるので……そうなったらいいですね!

――数百話は、たしかに分業化しないと難しそうですね……! でも一方で、プロジェクト始動から半年と経たずに映像作品が形になっているわけですし、制作のスピードはすごく速いようにも感じます。大人数のプロジェクトではありますが、制作はトントン拍子に進んだのでしょうか?

ききょうぱんだ
そうですね。率先して動いてくれる人も多かったので、その方々のおかげだと思っています。自分1人が「これやって、あれやって」と言うだけだと、なかなかテンポ良くは進められないと思いますが、他の人が率先してやってくれていたので。そのおかげで私は、VTuber活動もしながら『恋プリ』の映像化も進められたので、本当に助かりました。

――少し話がそれますが、KOIPRIJECT以前から「ぱんだ歌劇団」としてVR演劇をされているとお聞きしました。こちらはどのような経緯で始まった劇団なのでしょうか?

ききょうぱんだ
最初のきっかけは、もちはむくんっていうハムスターとのコラボですね。もちはむくんと一緒にセリフを読み合うシチュエーションボイスをやってみたら、おもしろくって。そこで「VRでやれば動きも伝わるし、止め絵でやるよりもおもしろいんじゃないか」と思って、お遊戯会みたいなのをやろうと考えたんです。

簡単な劇だからみんながわかるような劇がいいと思って、題材は『シンデレラ』にしました。ただ、登場人物を考えるとちょっとメンバーが足りないので、仲の良かったYuiちゃんや、甘野氷ちゃん、Miliaさんを誘ったんです。「お遊戯会をやるんで、ちょっと一緒に遊ばない?」と軽いノリで声をかけたら、「いいよー」みたいな軽いノリでOKをいただいて(笑)。

もともとは「お遊戯会」のつもりで始めたので、シンプルにパネルを置いて、背景もパネルを動かすような形で――保育園で園児がやるような――劇をやろうと考えていました。実際に劇場みたいなワールドを自分で作って、「こういうところでやろうと思ってます」とみんなに伝えたのですが、氷ちゃんから「横にスライドするように作ったら、場面転換にいいんじゃない?」とアドバイスをもらって。でも私には、横にスライドする方法がわからない(笑)。そこで、舞台は氷ちゃんに任せることにしたんです。

「作って!」とお願いしたら「いいよ!」と言ってもらえたのでお任せした結果、劇場がどんどん立派なものになっていきました。「これは“お遊戯会”じゃなくなってるぞ……?」と思いながらも進めていくなかで、「ぱんだ歌劇団」ができていった感じですね。

――最初はシチュエーションボイスがきっかけだったのですね。参加者が増えるにしたがって、内容も本格的になっていったと。

ききょうぱんだ
そうそう(笑)。「操作スタッフいるよね」とか「配信スタッフいるよね」とか、だんだん人が増えていって。仲の良かった漫画家のホタテユウキ先生が「キービジュアル描くよ!」と言ってくれたときは、ラフを見た時点で「は! このポスターはまずいな……!」と思いました。「ちゃんとした劇をやらないといけないようなポスターだぞ!?」と(笑)。

――さまざまな分野のクリエイターさんたちが次々に合流し、どんどん企画が大きくなっていく……いやぁアツいですね! ききょうさんのように楽しく活動している人の周りには、自然と人が集まってくるのかもしれませんね。

ききょうぱんだ
みんなが楽しんで取り組めるのが一番かな、と思うので。そうやって劇をやりつつ、私は脚本も担当しているので、「劇を見て、小説にも興味を持ってくれたらいいな」なんて思いながら活動しています。

「今まで諦めてきた夢を、VRに入ったことで実現できている」

――ちなみに、ききょうさんご自身はもともと演劇の経験はあったのでしょうか?

ききょうぱんだ
高校生時代に、ちょっとだけ演劇部に入ってました。あと、小学生の頃は声優になりたい、ドラマに出てみたいと思っていた時期もありました。なので、「演じる」こと全般に興味はあります。

中高生くらいの時期は歌手になりたくて、オーディションを受けたりとかもしていたのですが……私、新潟出身なので、「東京に来てください」なんてことになっても、1人じゃ行けないじゃないですか。だから卒業してから挑戦しようと思ったのですが、その頃って、歌手になるのは若い子が主流だったんです。「もう年齢的に遅いんじゃないか」と思い込んで、なあなあになって……諦めちゃったんですね。意思が足りなかった(笑)。

でもそんな経験もあり、以前から歌には興味があったので、今は歌劇団として歌も歌う機会があって、すごく楽しめています。

――そう考えると、子供の頃に興味を持ってやりたいと感じていたこと、これまで積み重ねてきたことが、今の活動や小説のプロジェクトの中で生きていて、しかも実現できているわけですよね。

ききょうぱんだ
そうですねー。今まで諦めてきた夢を、VRの世界に入ったことで実現できている感じもあります。そういう意味では、「VRをやっていてよかったな」と心から思いますね。普通だったら、年齢や場所の問題で諦めなきゃいけない。今更、新しい劇団に入るとか、絶対に無理じゃないですか。でも、自分で立ち上げちゃったらね、下手でもさ、できるじゃん。

――ですね! VRなら劇場も自分で作れちゃいますものね。

ききょうぱんだ
そうそうそう! だからすごい世界ですよね。

――ぱんだ歌劇団としての活動もそうですし、そうやって積み重ねてきたことが形になったのが、5月に公開された『恋プリ』の第001話、ということになるわけですよね。KOIPRIJECTについては、今後も物語に沿って映像化を進めていくことになるのでしょうか? また、このプロジェクトを通して最終的に叶えたい夢はありますか?

ききょうぱんだ
まずは第2話、第3話と、映像化を進めていく予定ではあります。最終的には『恋プリ』の書籍化と、アニメ化が実現したらいいなと。でも売れないことには難しいでしょうし、「自分自身が話題にならないといけないな」と思っている部分もありますね。

それと、ぱんだ歌劇団としても、今年中に1回、新しい公演をするつもりで活動しています。こちらは『恋プリ』とは違ってリアルタイムの劇で、場所もclusterにはなるんですけれども。

――そういえばclusterでの劇は見たことがないので、ぜひとも見に行きたいです! ぱんだ歌劇団の公演に、これから公開されていく『恋プリ』の続きと、今後の展開も楽しみにしております。最後に、読者さんに何かお伝えしたいことがあればどうぞ!

ききょうぱんだ
活動の主軸は「恋するプリンセス」の布教活動。作品を愛してくれる人を一人でも増やしたいです!! すぐにでも小説を読んでもらえたら一番ですが、私のことを知ってから興味を持ってもらえたらいいなとも思っています。

なので。まずは第001話の動画を観たり、Twitterのフォロー、チャンネル登録からお願いします(笑)。

――ありがとうございました!

『恋するプリンセス』第001話はこちら!

撮影ワールド:恋プリ美術館 / LOVEPRINCESS-GreenHouse

お話してくれた人
ききょうぱんだ

趣味に生きるぱんだ系VTuber。

小説執筆、VRワールド制作、VRoid制作、3Dモデリング、動画制作、歌、VR演劇など、幅広くこなすクリエイター。自作小説『恋するプリンセス』を布教するべく、多方面で活動中。

「ぱんだ歌劇団」の座長としてVR演劇を行なっているほか、NPO法人バーチャルライツ公認VR文化アンバサダー(第0期)も務める。

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