2021年:
ワトソン・アメリアと、VRChatで夢を叶えた神話組

2020年にスタートしたバーチャルライブシリーズ「Cinderella switch」。このライブ形式が好評だったのか、2021年にも新シリーズが開幕。3月から9月にかけての半年間、公演が毎月行われていたことが、まずは2021年のハイライトだと言えそうだ。
その一方で、2020年に途絶えたと思われた「ホロライブとVRChat」の関係にも、ここに来て変化が現れる。後年振り返ってみると、2025年現在まで続く「ホロライブとVRChat」の関係性の基盤が構築され始めたのが、2021年だったと言えるかもしれない。
その変化の中心には、2018年から2019年にかけての「バーチャルYouTuberとVRChat」の関係性の中にいたロボ子さんとは別に、別の切り口から「ホロライブとVRChat」を結びつけたVTuberの姿があった。特に海外のホロライブファンにとっては、「ホロライブとVRChat」と聞いて、まず思い浮かべるのが彼女かもしれない。
それが、ワトソン・アメリアさんだ。
「ホロライブとVRChat」の基盤を作った技術屋にして探偵、ワトソン・アメリア

hololiveEN(ホロライブイングリッシュ)所属の1stユニット「Myth(神話組)」のメンバーとして2020年にデビューした、ワトソン・アメリアさん(※)。
海外のVTuberは追っていない人でも、彼女をミニマムにしたデザインの「Smol Ame(スモールアメ)」は見たことがある人も多いのではないだろうか。
もともとはファンアートから生まれたキャラクターだったが、2021年4月の「Hololive English -Myth- 大型コラボ配信」にて、スモールアメを含む神話組のメンバー全員のミニキャラが“新衣装”として実装された。6月にはスモールアメの3DモデルでVRゲームをプレイするなど、徐々に存在感を高めていくことになる。
そして迎えた、9月のデビュー1周年記念配信。ユニットとしても1周年となる神話組の5人が、その記念すべき配信の場所に選んだのが、VRChatだった。

配信では、森カリオペさん、小鳥遊キアラさん、一伊那尓栖さん、がうる・ぐらさん、そしてアメリアさんの5人が、「smol」な3Dモデルの姿で登場。しかもミニマムな5人が立っているのは、ただのVRChatワールドではない。アメリアさんのプロデュースのもと、クリエイターの力を借りて制作された、神話組のメンバーをモチーフにした空間だったのだ。
この一連の流れは、2018年から2019年にかけての「ファンと公式」の関係とも通じるところがありそうだが、どちらかと言えば、「ファンと公式のコラボレーション」と捉えたほうが近いかもしれない。特にワールド制作に関しては、クリエイティブなファンを巻き込みつつ、VRChat公式のサポートも得ることで実現したプロジェクトだったようだ。
このワールドはその後もアメリアさんの配信で使われるようになり、11月にはロボ子さんとのVRChatコラボも実現。ハロウィンやホリデーなどの季節イベントではワールドに新エリアを増やしてアップデートするなど、積極的に活用されるようになる。12月には「Hololive English Smolverse」として一般公開され、誰でも訪れることができるようになった。

元を辿れば、アメリアさんたちがVRChatで配信をするようになったのは、当時の社会情勢の影響が大きかった。というのも、2021年は新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっていた時期であり、神話組の3Dデビューが延期になってしまったタイミングでもあったのだ。
そんな状況下でも「1周年」を祝うべく奔走したのが、アメリアさんだった。2021年以降も、彼女はhololiveENきっての技術屋として、VRで企画を実施したり、メンバーのVRライブをサポートしたりと、持ち前の技術力と行動力でグループを支えていくことになる。やがてhololiveID(ホロライブインドネシア)のメンバーもVRChatで配信を行うようになるのだが、その先駆者として、アメリアさんたち神話組が果たした役割は大きいはずだ。
#Mythiversary
— Amelia Watson🔎holoEN (@watsonameliaEN) September 13, 2021
This wouldn't have been possible without the help of so many people;
@VRChat staff, @SeafoamBoi , @Shonzo_ , my manager, EN staff for backing me, the Myth girls for trusting in me, and YOU guys for supporting me 💛
THANK YOU
❤️🧡💜💙💛 pic.twitter.com/eS4ZfbmVuO
- アメリアさん自身は「アメリア・ワトソン」と自己紹介することが多く、ファンからもそう呼ばれているが、ここでは公式サイトの表記に準拠。
観客みんなでコールをして盛り上がれるVRライブ「サンリオバーチャルフェスティバル」

2021年と言えば、「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland(サンリオVfes)」の開催は、VRChatにおいてエポックメイキングな出来事だった。
サンリオVfesは、リアル・バーチャルを問わず、大勢のアーティストのパフォーマンスを見られるバーチャル音楽フェス。近年は「テーマパーク」としての性質も強くなっており、サンリオキャラクターのパレードやグリーティング、VRChatのユーザーコミュニティとのコラボイベントなどを、約1ヶ月間にわたって楽しめる。
その記念すべき初回開催に出演したのが、夏色まつりさんだ。ソロバージョンの「Shiny Smily Story」に始まり、「ヒロインオーディション」「君色に染まる」「HiHiハイテンション!」の計4曲でライブ会場を盛り上げた。
まつりさんはCinderella switchの2021年3月公演やclusterのイベントに出演したこともあるため、今回が初のVRライブというわけではない。しかしリスナー目線では、「周囲の観客と一緒になって声を出し、コールをしながらホロメンのVRライブを見る」という体験ができるイベントは、おそらくこれが初めてだった(※)。このような形式のVRライブをホロライブが行うことは少ないため、貴重な機会だったと言えそうだ。





- Cinderella switchの「隣にいるホロメンと一緒に声を出してライブを楽しむ」という体験には唯一無二の魅力があるが、「大勢で声を出して一体感を味わう」というライブ体験とはトレードオフの関係にある。この頃はclusterでもVTuberの音楽ライブが開催されているが、観客の声は基本的にミュート設定で聞こえないのが常だった。
2022年:
「ミニキャラを使ったVRChat配信」の定着と、進むカバー社とVRChat社の連携

smolな神話組がVRChatで大暴れを始めたことが、もしかすると、良い意味で「そういうのもありなのか!」という前例になったのかもしれない。
この「ミニキャラでVRChat配信をする」という神話組の配信スタイルが他のユニットにも広がっていったのが、2021年末から2022年にかけての時期だった。2021年のhololiveENのクリスマスコラボの時点でIRySさんと「Council(議会組)」のメンバーが参加していたが、その流れがさらに波及していった格好だ。
ただ、日常的にVRChatで配信をしていたかと言えばそういうわけでもなく、「季節イベントや記念配信を行う場所としてVRChatが選ばれていた」という印象が強い。
普段のLive2Dとはまた違った雰囲気(画風)で、立体的かつコミカルに動くことができ、ホロメン同士の絡みも見せられる。VRとミニキャラの特色を活かしつつ、「特別なコラボ配信」の場としてVRChatがうまく活用されていたと言えそうだ。
ミニキャラだけど画風が違う?「BEEGsmol」な議会組とIRyS

同じhololiveENのユニットでも、神話組の面々とは違ったビジュアルでVRChatに降り立ったのが、IRySさんと議会組のメンバー(九十九佐命さん、セレス・ファウナさん、オーロ・クロニーさん、七詩ムメイさん、ハコス・ベールズさん)だ。
「BEEGsmol」と呼ばれるこのビジュアルをデザインしたのは、九十九佐命さん。この姿は彼女たちのミニキャラとして定着し、smolな神話組と同様にぬいぐるみ化されるほどの人気を獲得していくことになる。
7月に6人揃って行われたコラボ配信では、表情豊かでキュートなBEEGsmolモデルのお披露目会を実施。しかし同時に、この日の配信は、卒業する佐命さんとのお別れ会でもあった。
クリエイターの力を借りて作られた特設ワールドで、めいいっぱい動き、遊び回った後に、ステージに立って全員で「secret base」を歌った6人。涙ながらに、抱きしめるように佐命さんを囲むBEEGsmolたちの姿が印象に残っているホロリスも多いかもしれない。
このワールドは翌月に行われた議会組の1周年記念配信でも使われ、その際にはメンバー各々のソロでのステージパフォーマンスも披露された。以来、BEEGsmolの3DモデルはVRChat配信だけでなく、議会組の通常コラボでもたびたび使われ、画面上に癒やしとコミカルさを与えてくれている。

hololiveID「Holoro」「AREA15」の6人もミニキャラでVRChatに登場

前年の神話組から始まった“smol”なビッグウェーブに乗ったのは、IRySさんと議会組のメンバーだけではない。
彼女たち6人がBEEGsmolになったちょうど1週間後、hololiveIDの2期生ユニット「Holoro」の3人(パヴォリア・レイネさん、クレイジー・オリーさん、アーニャ・メルフィッサさん)が、これまたミニマムな姿でスペシャルなトークショーを開催。
さらに翌8月には、同じくhololiveIDの1期生ユニット「AREA15」の3人(アユンダ・リスさん、ムーナ・ホシノヴァさん、アイラニ・イオフィフティーンさん)が、やはりミニマムな姿でVRに殴り込みをかけに来たのだ。

デフォルメ色の強い3DモデルであるのはこれまでのENのメンバーと同様だが、ご覧の通り、IDの6人はまた別のデザインを採用している。英語圏とインドネシア語圏の違いが現れているのか、はたまた単純にデザイナーの画風の違いによるものなのかはわからないが、メンバー各々の通常衣装や髪型も落とし込んだ、秀逸なデザインとなっている。
この時お披露目したミニキャラとVRChatワールドは、やはりユニットメンバーでのコラボ配信や記念配信で使われることが多いようだ。12月にはHoloroの3人が2周年記念配信で再びVRChatに集結し、ゆるい姿で2年間を振り返っている。

アメの技術力と企画力が光る!神話組の2周年配信はVRの360度映像で

衝撃的な1周年配信から早くも1年が経ち、2022年9月には2周年を迎えた神話組の5人。
今年は何を見せてくれるのかと思ったら、始まったのは、VRChatからのリアルタイム360度配信。VRヘッドセットだけでなく、パソコンやスマートフォンで見ているリスナーも、画面を操作すると周囲を見回すことができる。「アイドル衣装に身を包んだ5人に囲まれる」という、特別すぎる体験を味わえる配信だったのだ。
ライブハウスのバックステージ風の空間ででミニゲームに興じ、アカペラのパフォーマンスを見守った後は、表のステージで「コネクト」を歌唱する5人を最前列で鑑賞。最後は「5人に超至近距離で囲まれた状態でおしゃべりを聞く」という、普段の配信ではありえない没入体験も待ち受けていた。
さらに数日後には、アメリアさんによって高画質+空間オーディオ版の動画もアップロードされている。第三者目線ではさらっとこなしているようにも見えるが、彼女の企画力と入念な準備があってこそ実現できた、特別なステージだったと言えるだろう。

今年のハロウィンは大勢で謎解きだ!「Hololive ESCAPE ROOM」

前年に続いて2022年も、hololiveENの面々によるハロウィンコラボがVRChatで実施された。
いかにも怪しげな雰囲気のお屋敷で、ハロウィンの仮装姿のホロメンたちが脱出ゲームに挑戦。建物内にはさまざまな謎とパズルが用意されており、七詩ムメイさん、森カリオペさん、IRySさん、セレス・ファウナさん、オーロ・クロニーさんの5人が、あれやこれやと喋りながら謎解きをする姿を楽しめた。
この企画でおもしろかったのが、ワトソン・アメリアさんがいわゆる「神視点」として複数のカメラを切り替えながら、ホロメンたちが謎に挑む様子を映し出してくれていたことだ。




各部屋に設置されたカメラからの映像と、参加メンバーの三人称視点の映像を、うまい具合にスイッチングしながら配信画面に表示してくれていたため、全体の動きを追いかけやすい企画となっていた。プレイヤー視点としてはムメイさんが配信枠を取っていたので、そちらはそちらで臨場感のある主観映像が楽しめた。
今回のハロウィンイベントを企画したのは、アメリアさんとハコス・ベールズさん。ワールドやアバターの制作に関してはクリエイターたちの力を借りつつ、前々から2人で準備をしていたようだ。コラボの翌日には2人で舞台裏を紹介する配信も行われ、ワールド内のギミックや裏話をたっぷり聞かせてくれた。
クリエイターとしての作品展示ワールド「A trip down tako lane」

複数人のコラボではない個人のプロジェクトとしては、一伊那尓栖さんが自身の誕生日配信で公開した個展ワールド「A trip down tako lane」が挙げられる。イラストレーターとしても知られる彼女の作品を鑑賞できるこのギャラリーワールドは、日本でも話題になった。
ワールドでは、イナニスさんが自身やホロメンを描いたイラストのほか、彼女自らMV制作も手掛けた「旅の途中」の歌ってみた動画で使われている一枚絵なども展示。オーディオガイドも設置されており、イナニスさんの声で解説を聞きながら作品を見られるのも魅力だ。
ファンアートが並べられたファンメイドのワールドではなく、VTuberとしての世界観を表現したHololive English Smolverseのようなワールドでもなく、クリエイターとしても活動するVTuberが、自らの作品を展示する「ギャラリー」として公開しているワールド。イナニスさんのファンはもちろん、知らない人でも楽しめる空間となっている。






ニューヨークのアニメイベントに出展「hololiveMeet NY」
We are excited to announce that we are partnering with @VRChat for Anime NYC 2022!
— hololive production (English) (@hololivepro_EN) November 3, 2022
Come join us at the hololive Meet x VRChat space over the weekend!
More details to be announced, so stay tuned!#hololiveMeet #VRChat #AnimeNYC pic.twitter.com/CcifMnqnbW
「カバー社とVRChat社」の接点という意味では、2022年のAnime NYCでの両社のコラボレーションも大きな出来事だったと言える。
両社は、11月にニューヨークで開催されたアニメコンベンション「Anime NYC 2022」にてブースを出展。「hololiveMeet NY」(※)と題して、hololiveENのタレントが出演するステージやコンサート、グッズ販売が行われた。出演するホロメンたちがいるのは、もちろんVRChatの空間だ。
「リアルイベントでのブース出展」という形で行われた両社のコラボだったが、当日のSNSの投稿を見ると、現地は大盛況だったことがうかがえる。2021年の神話組の1周年配信でもVRChat社のサポートが入っていることが示唆されていたが、この頃から、特にグローバル領域でのホロライブとVRChatのコラボレーションが増えていったようだ。
Thank you for coming to the hololive production booth at #AnimeNYC2022!!
— hololive production (English) (@hololivepro_EN) November 20, 2022
How was it?
We hope you enjoyed our content and had a great weekend!
Don’t forget share your experience with the talents using the hashtag #hololiveMeet!! pic.twitter.com/l8KjLJmjJF
- hololive Meet:2022年4⽉に始動した、「ホロライブプロダクション」傘下の「ホロライブ」「ホロライブインドネシア」「ホロライブEnglish」「ホロスターズ」「ホロスターズEnglish」 の合同プロジェクト。海外コンベンションへのブース出展や、海外イベントへのタレントのゲスト出演、⾃主開催イベントの実施など、⼀連のグローバルイベント展開を指す(参考リンク)。
コラム②「ホロライブとバーチャルキャスト」

2025年現在、「ソーシャルVR」あるいは「メタバース」と呼ばれるサービスにもさまざまあるが、VTuberと縁のあるプラットフォームとして、「バーチャルキャスト」にも言及しておきたい。
バーチャルキャストは、2018年にリリースされたソーシャルVRサービス。ドワンゴとインフィニットループが共同で開発したサービスであり、現在はバーチャルキャスト社(※)が運営している。VTuberが出演するニコニコ生放送の公式番組で使われたことも多いため、見覚えのある人も多いはずだ。
ホロライブとの関わりとしては、2022年に宝鐘マリンさんのVRグリーティングイベントとVRミニライブをバーチャルキャストで開催している。
特にグリーティングイベントは、Cinderella switchともclusterのイベントとも異なる、正真正銘の「1対1」でマリンさんと話せる機会だった。過去にはおしゃべりフェスなどの事例もあるが、画面越しではない、「同じバーチャル空間に入って、面と向かって推しと話す」という機会が用意されることは珍しい。このようなイベントを実施しやすいシステムになっている点は、バーチャルキャストの強みだと言えるだろう。

他には、2021年に開催された初音ミク公式VRワールド「MIKU LAND 2021 SUMMER VACATION 2021」のグリーティングイベントに、ときのそらさんが登場したことがある。この時はそらさんの横に並んで、一緒に記念撮影をすることができた。
そらさんはMIKU LANDの事前特番にも出演していたが、バーチャルキャストとホロライブの接点としては、このような「イベントのゲストとしてホロメンが呼ばれる」というケースが多かったようだ。例としては、バーチャルキャストレギュラー番組「VRadio」にロボ子さんが、秋葉原で開催されたバーチャルキャスト体験会に白上フブキさんが、それぞれ出演している。
- 宝鐘マリン VRグリーティング 2022年10月2日/10月9日 in バーチャルキャスト
- 宝鐘マリン VRミニライブ開催! 2022年11月19日/20日 in バーチャルキャスト
- 【ダイジェスト映像】宝鐘マリンVRミニライブ in バーチャルキャスト – YouTube
- 【#ミクランド】2021 SUMMER VACATION 開会式&Day1 定点放送 – YouTube
- 【#ミクランド】新エリアだいたい見せちゃうよスペシャル【事前紹介特番】 – YouTube
- VRadio〜ひらい・瑠璃のVtuberさんようこそ!〜 #3 – ニコニコ生放送
- VRadio〜ひらい・瑠璃のVtuberさんようこそ!〜 #11 – ニコニコ生放送
- 株式会社バーチャルキャスト。同名サービス以外の事業としては、XRライブイベント事業など。「hololive 2nd fes. Beyond the Stage」のAR映像制作にも同社が携わっている。
- 余談かつ至極個人的な話で恐縮ですが、筆者はこの体験会に参加し、VR空間の超至近距離でフブちゃん氏とお話ししたことで「VRマジパねえ……」と昇天し、VRの世界に吸い込まれるように飛び込んだ、という経緯があります。