プラド美術館のVR展が、美術展かと思ったら〇〇だった!名画の世界に飲み込まれる、衝撃の没入体験

けいろー

「絵画の中に入れるVRアート体験」とは聞いていたけれど、さすがにこれはやりすぎでは!?

夢見心地なまま体験を終え、VRヘッドセットを外すと同時にそう突っ込みたくなった。「いったいなんだったんだ……アレは……」という混乱と、思わず笑ってしまうほどの可笑しさを抱えながら。

体験したのは、東京タワーで開催中のVRアート展「Art Masters:プラド美術館所蔵品VR展」。スペイン国立プラド美術館の正式許諾のもと制作された、「自分の足で歩く」ことで移動するタイプのVR展覧会だ。

「プラド美術館の正式許諾のもと制作!」という響きから、どちらかと言えば高尚でアーティスティックな内容を想像していた。だからこそ、正直に言って驚いた。いや、仰天した。そして最後には笑った。VRでしか味わえない「アート体験」が、そこにはあったのだ。

「名画の中に入る」という期待、その先にあるもの

ところで、「VRアート展」と聞いて、あなたはどのような体験を思い浮かべるだろうか。

現実では不可能な距離での作品鑑賞?
名画を3D空間として再構築し、その中に入る没入体験?
それとも、五感で体感できる新しい3Dアートだろうか。

奥行きのある三次元表現のみならず、「空間」そのものを自由に構築して入り込める。そんなVRの特色を活かすなら、「名画の中に入る」というアイデアは誰もが真っ先に思い浮かべるものだろう。

実際、その手のコンテンツはすでに多く存在し、一定の成功を収めている。コンセプトが明快で、「あの名画の中に入れる!」というキャッチコピーは、ユーザーに期待通りの感動を約束してくれるからだ。

今回参加した「Art Masters: プラド美術館所蔵品VR展」も、分類としてはその系譜にある。

しかし、これはただのVRではない。座ったままコントローラーで移動するのではなく、広大なスペースを自分の足で歩き回る。その上で、前述した「絵画の中に入る」体験ができるのだが……この展覧会、単なる「絵画の3D空間化」の域を完全に超えていた。

端的に言えば、「やりすぎ」である。

キャンバスの風景を立体として解釈し、3DCGの空間を歩く。私たちが「絵画の中に入る」と聞いて想像するのは、せいぜいそんな体験だろう。私もそのつもりでデバイスを装着し、バーチャル美術館へと足を踏み入れた。

だが、待っていたのは、「額縁の中におじゃましますね」というような、生易しい体験ではなかった。
そこには、ひとつの完成された「世界」が広がっていたのだ。

ポイント①:「自分の足で歩く」からこそ得られる圧倒的没入感

この展示では、体験者はVRヘッドセット1を装着し、案内人である警備員・テオに導かれて館内を進んでいく。コントローラーなどは使わず、自分の足で進まなければならない。

おもしろいのは、序盤は美術館の「裏側」を歩く場面が多いことだ。バックヤードから始まり、狭い通路を抜け、保管庫を通り過ぎ、美術館の奥へと足を踏み入れていく。

本展覧会の最大の特徴は、この「移動」がすべて現実の歩行と連動している点だ。

実際に足を動かさなければ、物語は進まない。複雑な構造ではないので迷うことはないが、万が一どちらに進めばいいかわからなくなったとしても、「次はこっちですよ」とビジュアルで教えてくれるので安心だ。

このような、「バーチャルな美術館を、自分の足で探索する」という行為がもたらす臨場感は凄まじい。次にどんな光景や演出が待ち受けているのか、一歩踏み出すたびに鼓動が高鳴るのを感じるほどだった。

ポイント②:「美術館を歩くこと」そのものがアート体験

自分の足で歩くことで進行する本展覧会は、単に「絵画の前で立ち止まって鑑賞する」ことだけを目的としていない。

もちろん「プラド美術館所蔵品VR展」と銘打っているように、同美術館の所蔵する5つの名画が主役であることは間違いない。しかし、作品間の移動中に展開されるストーリーや、テオが語る美術館の裏話、その道中の景色すべてが見どころとなっている。

たとえば、館内で働く修復師や模写を行う人々の姿。彼らがどのような想いで仕事に向き合っているのかを垣間見るシーンは、美術館という場所への理解を深めてくれる。あくまでも主役は作品だが、それを取り巻く「美術館の日常」もまた、不可欠なアート体験の一部なのだ。

ポイント③:段階的に深まる没入度と、想像を絶するラスト

本展覧会では、プラド美術館が所蔵する名画、以下の5作品が登場する。

  • 《視覚の寓話》ブリューゲル/ルーベンス(1617)
  • 《ヴィーナスとアドニス》ヴェロネーゼ(約1580)
  • 《ラス・メニーナス》ベラスケス(1656)
  • 《魔女の安息日》ゴヤ(1819–1823)
  • 《快楽の園》ヒエロニムス・ボス(1490–1500)

美術展といえば音声ガイドが付き物だが、この展覧会では、各作品の背景をテオが詳しく解説してくれる。事前の予習は不要だし、「絵画はまったく詳しくない」「作者名すら聞いたことがない」という人でも楽しめるはずだ。

その上でおもしろかったのが、「展示」の方法だ。

VRを活用したアート体験にもいろいろあり、斬新な表現や派手な演出が見られることも多い。ただし、「どこまでVR的な演出を加えるか」のバランスは、アート系コンテンツにおいて常に難しい課題と言える。過剰な演出は原作の魅力を損なうリスクがあるからだ。

そのため、これまでの美術館系VRは、「拡大して間近で鑑賞する」あるいは「作品を3DCG化してその中に入る」という体験に留まっていた印象が強い2。だが、本展は違った。想像の斜め上を突き抜けていたのである。

とはいえ、最初から突飛だったわけではない。

最初の作品では、「手元に現れた虫眼鏡で細部を観察する」という比較的リアルな鑑賞から始まる。しかし、次第に演出はエスカレートしていく。空間の奥から絵画が迫り、描かれたモチーフが視界を覆い、「思ったよりも直接的な演出もあるんだなー」なんて感心していたのも束の間。

終盤に待ち受ける怒濤の展開には、完全に「負けた」と思った。美術館だと思って歩いていたはずが、気づけば別ジャンルの“VRコンテンツ”の世界に飲み込まれていた。そんな感覚さえあった。

ネタバレになってしまうので詳しくは明言しないものの、端的に言い表すなら「アトラクション」だろうか。VR初心者にはもちろん、日頃からVRに親しんでいる層にこそ、あの「やりすぎ感」を体験してほしい3

鑑賞の枠を超えた「驚き」が、納得の体験価値を生む

会場は東京タワーのタワーホールA。それなりに広い空間(約660平方メートル)で大勢が同時に体験できます。
他の体験者は「石像」のアバターで表示されるため、気をつけていればぶつかることはありません。

美術館を知り、名画を味わう。
そんな静かな始まりから、最後はジェットコースターのような急展開を見せる、今回のVR展。

一般的な「美術展」の枠を超えた、極めてエンタメ性の高い体験だった。もちろん、美術ファンにとっても「この名画をこう解釈(表現)するか!」という新鮮な驚きがあるはずだ。

正直、体験前はチケット料金が若干高額に感じていたが、その懸念はどこかへ吹き飛んでしまった。これほど濃密で多彩な体験を全身で浴びせられたら、納得せざるを得ない。むしろ安いまである。

「Art Masters: プラド美術館所蔵品VR展」は2026年4月12日まで、東京タワーで開催中だ。この驚きを、ぜひ会場の「空間」で味わってほしい。

「Art Masters: プラド美術館所蔵品VR展」開催概要

  • 開催期間:2025年12月23日~2026年4月12日(予定)
  • 開催場所:東京タワー 1階 タワーホールA
  • 体験時間:約45分(30分のVR体験を含む)
  • 営業時間:10:00~22:00(最終入場時間 21:15)
  • チケット料金
    • 平日券:4,000円(税込)
    • 休日券:4,500円(税込)
    • U35割:2,800円(税込)
    • U18割:1,200円(税込)
  • 公式サイト:Art Masters:プラド美術館所蔵品VR展
  • プロデューサー:ACCIONA Living & Culture
  • 主催:AquaVision株式会社
  • 共催:株式会社ティーケーピー
  • 協力:株式会社TOKYO TOWER
  • 後援:駐日スペイン大使館
  • ライセンサー:プラド美術館
  1. この体験では「PICO 4 Ultra Enterprise」を採用しています。 ↩︎
  2. それもひと昔前までの話で、最近は「IMMERSIVE JOURNEY」などの事例も増えつつある、という見方もできそうではあります。 ↩︎
  3. これは一部のVRChatユーザーにしか伝わらないと思うのですが、今回の体験を終えて込み上げてきた思いの1つに「ORGANISMを自分の足で歩く体験をしたい!」というものがあります(参考:https://v-meguri.com/vr/vchameguri-06/)。 ↩︎

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