インタビュー「本気で歌えない?オペラ系Vsingerならではの悩みと、夕影ミコトが見据える未来」
VTuberを始めたきっかけは、幼なじみに誘われたから
――まずは自己紹介をお願いします。
V-WaVE PROJECT所属、オペラ系大正浪漫中性アイドルVsingerの夕影ミコト(@yuukage_mikoto)と申します。よろしくお願いいたします。
――よろしくお願いします。ミコトくんは「V-WaVE PROJECT(※)」に所属されていますが、プロジェクトの発足当初からメンバーだったと記憶しております。
夕影ミコト:うん。いわゆる「一期生」というものだね。
※V-WaVE PROJECT:avexとTWHがタッグを組んで設立したクリエーターエージェンシー「WaVE」の中で、個人勢VTuberを集めて発足したプロジェクト(※参考リンク)。
――V-WaVEにはどのような経緯で所属されることになったのでしょうか? また、ミコトくんがVTuber活動を始めたきっかけなども、差し支えなければ教えてください。
夕影ミコト:えっとね……きっかけは明葉ハシリ(@albahashiri)です。ほぼほぼ。
いつだったか、久々にハシリとお話する機会があって、「VTuberってたのしいよ!」って言われて、「そうなの?」って。
舞ったり、歌ったり、芝居したりの人生だったので、「まあおもしろそうだからやってみようか」と。「本当にやる~?」って言われて、「じゃあやる~」って言って。
「本当にやるなら紹介するね!」って言われて、あれよあれよと話が進み、SHOWROOMのオーガナイザーとして、TWHさんと契約をしました。
その流れで「バーチャル上でも店を開くぞ~」ってなり、文化喫茶アリエスを開いて、SHOWROOM配信を始めた感じ。
で、しばらくしたらTWHさんから、「V-WaVE PROJECTというのを立ち上げるんですけど、ミコトさん、よかったら入っていただけませんか?」みたいな。それで僕は、
は~~~い(※のほほんビッグボイス)
って、いつものとおり、まったり、ふんわり、適当に。特に断る理由もないしで、「ナンダカヨクワカラナイケド、オモシロソウダネ!」って思って、そのまま入った感じです。
――ほ~! でも実際、ミコトくんって普段もフットワークがすごく軽いですよね。「いろいろ断らないで突っ走り続けてたら、気づけばこんなところに来てました」みたいな。
夕影ミコト:はっはっはっは(笑)。ほんとにそんな感じだねぇ。
――すると、VTuber活動を始めた一番最初のきっかけは、「ハシリさんに声をかけてもらったから」ということに?
夕影ミコト:うん、そうです。「ぶいちゅーばー」の「ぶ」の字も知らなかった(笑)。
ハシリに言われて、「え? これは、なんなの? これは、ゲームのキャラクターなの?」って聞いたら、「ちがうよ!!」って。本当にぜんぜん知らなかった。
ニコニコ動画は知っているけれども、だいぶ前に見なくなっちゃったし。YouTubeも、知りたい曲を聞くために使うくらいのレベル。「紙と、ペンと、楽譜と、ピアノと」みたいな生活だったので。
だから、人前で歌う機会が店以外ではあまりなかったので。「配信でも歌ったりするのかい?」って聞いたら、「するよ! 楽しいよ! みんなオタクだもん! みんなオタクだからすごく喜んでくれるよ! ボカロとか!」って言われて、「ああ、そうなんだ~、へ~」って。
「やろうよ! やろうよ!」って言われて、「あっ、やりまーす」ってなった。
SHOWROOMでの初配信と、VTuberオリ曲コンピへの参加
――なるほど(笑)。ハシリさんの押しがすごいですね……! その後、初配信はどのような経緯で行うことになったのでしょうか?
夕影ミコト:「知り合いです」っていうのは隠したままハシリがTwitterで宣伝してくれて、SHOWROOMで初配信をして……みたいな感じでしたね。
僕は「最初から幼なじみって言ってもいいんじゃないか」って言ったんですけど、「いや! 然るべきときに! 2人がもっと大きくなって、然るべきときに……『実は!』って言おう!」って言われて、「あっ、そっ、そうなの?」って。
まあそれならそれで、僕には別に断る理由もないので、「ワカッタ」って言ってたんですけど。基本、ワカッタbotなので。
あ、でも初配信の前、一番最初に歌声を披露したのは、Twitterに投稿した『Raindrops keep falling’ on my head』ですね。
あれで一番フォロワーさんが増えたかなー。多分あれで「見つけました!」っていう人が多かった記憶がある。
――僕もたしか、あのツイートで歌声を聞いてフォローした覚えがあります。初投稿であれはインパクトがありますし、気になってフォローする人も多かったんじゃないでしょうか……!
夕影ミコト:でも、最初は本当にあれしか歌ってみた動画がなくて、VTuberオリ曲コンピ(※)もあれを出して。
たしかその企画も5月中旬が締め切りで、ハシリがリツイートしてたのを見て、これが何なのかもよくわかってなかったけど、「歌を……上げるんだ!?」「早いところ録音して、上げなきゃいけないんだ!?」ってなって。
でも当時はマイクもミキサーも持ってないから、iPhoneの一発録りで……。ミックスももちろんしてないので、「無知ってすごいな……」って今は思う。
それでも、あれを送った結果、VTuberオリ曲コンピに参加させてもらうことになったから、本当によかったなーって。
※VTuberオリ曲コンピ:Reverse Real(りばりあ)が主催する、VTuber界隈の音楽文化をさらに進化させることを目的とした同人コンピレーションアルバム。ミコトくんはその第二弾『Allelosphere』に参加している(※参考リンク)。
――そうやって勢いのまま応募したオリ曲コンピで、作曲家・Sebastianさんと組むことになり、ミコトくんの代表作となる『ト或ル喫茶ノ御伽噺』が生まれたわけですよね。そう考えると、ある種の「運命の出会い」っぽくも感じますね……。
夕影ミコト:うん、あれはひとつのターニングポイントだった。
セバスさんはまさに「代表作」を作ろうとしてくださったので、ありがたいかぎりだなーと今でも思いますね。そういえばちょうどこの前も、3曲目のオリ曲を収録してきました。いやー、馬鹿みたいな曲になってしまったよ。
――馬鹿みたいな曲……?
夕影ミコト:『とあきば』(※『ト或ル喫茶ノ御伽噺』の略)よりも歌えない……あんなにも収録で「これ、歌えない……」ってなった曲は、人生で初めてだった。
――え!? ミコトくんがそうなるレベル!?
夕影ミコト:いや、これはね、セバスさんのせいじゃなくて、自業自得なんですけど。主に作詞……というかネタバレすると、英語の曲を作ったんですよ。馬鹿みたいに早口にしちゃって。
で、まあ音域もやっぱり馬鹿なので。収録に2時間半以上かかって、もう死ぬかと思いました。「終わらねえ!」「まだ1番か!」ってなって。しかもほぼデュエットみたいな、1人デュエットの曲なので。
めちゃめちゃ和風の、英歌詞の曲になっているので、楽しみにしていていただければ……!
――楽しみにしております!
オペラ系Vsingerならではの悩み「本気では歌えない」
――話は変わりますが、ミコトくんは普段「(リアルの)お店でも歌っている」というお話をたびたびされています。お店で歌うのとネット配信で歌うのとでは、やっぱりぜんぜん違うものなのでしょうか?
夕影ミコト:それは違うね……! やっぱりどうしても、本気では歌えない。配信では。セバスさんが用意してくれたマイクですらダメで、どうしても(音が)割れちゃって。
電子機器を前にすると、無意識にセーブする癖がついちゃっているので。本当に本気で歌うと絶対に割れるから……。かと言って、僕の声に耐えられる機材となると……ちょっと……なかなか……expensiveなので……(笑)。
この前に投稿した歌ってみた動画の、『廻廻奇譚』がまさにそれ。ほんっとうにマイクが耐えられなくて、収録で「あーっ! 割れた!」「あーっ! 割れた!」「あーっ! 割れた!」ってなって、大変申し訳のない事態になってしまったので。
でも、この前セバスさんが「だいぶ無理して買った」って言ってた――コンプレッサーかな?――を入れたら、何を歌っても割れなくなったので……。初めてやっと本気で歌えた、っていうのはありますね。
夕影ミコト:で、そもそも、どうしてそんなことになっちゃうのかと言うと……。
クラシックの話ではあるんだけれども、クラシックではマイクは使わずに空間で声を響かせるんだよね。そうすると何が違うかって、空間で跳ね返った歌声を、お客さんたちに聞いてもらうことになる。それって、マイクから集音してそれを増幅する歌とは、そもそもの構造が違う、というか。
僕らは響かせることを最善として歌うので……なんて言えばいいんだろうな。
今のこうやって喋ってる地声と、オペラ歌手の「あ〜あ〜あ〜♪」みたいな声を比べると、後者のほうが息が多くなる。「息が多い」っていうのは、空気の震えが大きくなるってこと。でもそういう声って、マイクへの集音には向かないんだよね。
――なるほど……マイクに向かう場合は一点集中というか、声を「集める」ように歌うけれど、クラシックの分野では声を「広げる」ように歌う……といったイメージでしょうか。
夕影ミコト:そうそうそう。だから正直、生の声と、配信を通した声だと、だいぶ聞こえ方は違う。
クラシックのコンサートとかって、行かれたことありますか? ああいう場所って多分、スピーカーとかはないんだけど、どこから声がするかわからない、っていうか。ちょっと不思議な聞こえ方をするんですよね。
――あーたしかに! 正面からだけじゃなく、いろいろな方向から音が反響して聞こえるように感じられて、驚いた覚えがあります。
夕影ミコト:そうそうそうそう。それがやっぱり、僕らには良しとされるので。
なんて言えばいいのかなー……そういう事情もあって、配信で歌うとなると、むしろ下手に聞こえちゃうっていうか(笑)。
本気で歌ったら、割れる。だから僕が(配信の歌枠で)「割れた? 割れた? 大丈夫?」ってすぐ聞くのも、それが理由ですね。毎度「大丈夫だよ!」ってみんな教えてくれるけど。
自分で録音していても、「……はい! 割れました〜!」ってなることがどうしても多いので(笑)。
そこが……機材との戦いが、実は一番「困ったなぁ」ってなるところかなー。クラシック、そもそも電子機器に向いてないので。そこが、一番難しい。
ロックとかもある程度は歌えると思うけれど、僕はちゃんとそっち方面で(ロックやポップスの歌い方を)習ったわけじゃないから。
正直その、ちゃんと人様に提供できるクオリティかっていうのは、いまだに自分でも悩むところではある。
――いやはや……こういう言い方をするのは失礼かもしれませんが、VTuberの悩みとしては、ミコトくん特有の悩みっぽくもありますね(笑)。
夕影ミコト:たしかにそれは(笑)。あんまりみんな、そこは考えないかもしれないね。自分の場合は、どうしてもずっと付き合っていくことになるんだろうな、とは思う。
セバスさんとのオリ曲――なんなら『とあきば』も、若干セーブしちゃってるので。どうしても。まだ、つよつよコンプレッサーが来る前に録音したので。今になって考えると、「あー、今ならもっとうまく歌えるな」って思うときもあるし(笑)。
――じゃあもしかしたら今後、「リマスター版」として出す可能性も……?
夕影ミコト:あー! できるならやりたいなー!
――また作業が増えますけどね!
夕影ミコト:うん! セバスさんのね!!(笑)
――セ、セバスさんにはがんばっていただいて……。でもそうすると、ミコトくんの歌声の本来の魅力を僕らが堪能するには、リアルイベントやライブみたいな場で、それも音響がしっかりしている会場じゃないと難しい、ってことになるんでしょうか。
夕影ミコト:そうだね。うん、そう……なるのか、そうだよなぁ。
ってか多分、コンサートホールでスクリーンに立たせてもらうのが一番いい気がする。あとは「マイク機器をまったく使わない」みたいなのもおもしろいかもしれない。逆にね(笑)。
――いいですね! いつか、ミコトくんの生歌を堪能できる機会がありますよう……!
「僕が歌いたい歌を世に出していきたいな」
――また話は変わりますが、これまで1年くらい活動してきて、印象に残っているエピソードなどはありますか?
夕影ミコト:そうだなあ……SHOWROOMでやったプレミアライブも楽しかったけど、なんだかんだで初配信が一番……あーいや! “ゆにかの”イベント(※)かな! 一番楽しかったけど、一番大変だったから。
※YuNi&鹿乃コラボ 楽曲提供イベント:SHOWROOMで複数回にわたって開催された楽曲提供イベント。最終審査の合格者は、YuNiさん&鹿乃さんとのコラボ楽曲への参加権を得ることができた(※参考リンク)。
――全力で駆け抜けたガチイベでしたもんね……。
夕影ミコト:そうだね(笑)。印象に残ってるのはそのあたりかなー。
SHOWROOMの配信以外だと、YouTubeライブとかもまだやってないので……(本格的に活動するのは)意外とまだこれからなところがちょこちょこありますね。
――そうですよねー。まだデビュー前ですもんねー。
夕影ミコト:はっはっはっは(笑)。どういうことなんだろう(笑)。
――まさにこれから! というところでしょうか(笑)。そういえば7月下旬にはオリ曲コンピのライブ「ALLELOSPHERE REV.01」もありますが、3Dモデルで参加されるんでしたっけ……?
夕影ミコト:そうなんです。今回のライブ用に、今回のライブ限定の3Dモデルを運営さんに作っていただいて。“ゆにかの”イベントの最後に歌った新曲も披露するので、楽しみにしていてください!
――大勢のVTuberさんと並んでの大舞台、応援しております! これから本格始動するにあたって、何か目標や夢はありますか?
夕影ミコト:無事にデビューできていれば(笑)、とりあえずラジオみたいなのはやりたいな、と思っています。VTuberさんのオリジナル曲を紹介するラジオを。
今こうやって話しているようなのを、僕がホスト側になって、VTuberさんをゲストさんにお迎えするような番組ですね。あと、毎週何曜日だかに『Among Us』はやりたいなーっていう。
作品としては、「歌曲集」という形で作品を出したいな、と思っています。
いわゆる「アルバム」に近いと思うんだけれども……そうさなあ……Sound Horizonのような物語付きの、音楽劇のような作品を作りたいなと思っています。あえて僕は、クラシックになぞらえて「歌曲集」という言い方をしたいなと。
いずれにしても、「僕が歌いたい歌を世に出していきたいな」っていうのが一番かな。
――なるほど……! いやあ……でも、こうしてミコトくんもついにデビューを果たして、本格的にVsinger活動を始められて、アイドルとして羽ばたいていくわけですね……!
夕影ミコト:……なんだろう、煽られてる気がする!(笑)
――いえいえそんなまさか!(笑)僕も1人の“みこなじみ”(※ファンネーム)として、いつも楽しく素直な気持ちで応援させていただいております! ――では最後に、みこなじみたちに向けてメッセージをお願いいたします。
夕影ミコト:意外とだらしのない僕に着いてきてくださって、誠にありがとうございます(笑)。
これからも、まったりではあると思うけれど、みなさんが楽しいと思えるものを――僕も楽しいと思えるものを――お届けできればな、と思います。
僕は基本、周りの人間には少しでも幸せになってほしいなと常々思って過ごしているので、まったりと、いつでもまたアリエスにいらしてください。
――ありがとうございました!
ファンが語る「夕影ミコト」の魅力とは?
マスターのギャップはすごい。
ゲームや雑談では軽快なお話で盛り上がり、オリジナル曲や歌ってみた動画では圧倒的な歌唱力で心を打たれる。
「オペラ系大正浪漫中性アイドルVsinger」という肩書きの多さに驚くかもしれないが、それ以上に個性が多くあり多趣味だ。オペラ作品をかみ砕いて紹介する配信は、抵抗を感じるかもしれないオペラのハードルを下げさせてくれ、興味を持たせてくれるいい動画だと思う。
マスターがおもしろ過ぎるし、いじられキャラでありながらツッコミ上手。リスナーのみならず配信者からも愛される、『夕影ミコト』を推して!!!!!
【まちょ(@machoshili)】
夕影ミコトのオリジナル曲「ト或ル喫茶ノ御伽噺」。作詞も本人が手掛けており、配信の「文化喫茶アリエス」になぞらえた内容になっている。 歌唱力とあわせて夕影ミコトの自己紹介になる1曲。 広い音域と高音の伸びがすごい!!!(まちょ)
関連リンク
- 公式サイト:夕影ミコトの一から百まで
- YouTube:夕影ミコトの文化喫茶アリエス
- BOOTH:文化喫茶アリエス御土産売場
- Twitter:@yuukage_mikoto
- SHOWROOM:夕影ミコトの文化喫茶アリエス
- FANBOX:夕影ミコトノ日記帳
※この記事は夕影ミコトさん本人の許可と監修を得ています。