ニコニコ動画を中心に活動するバーチャルニコニコシンガー、芽々子さんが中心となって立ち上げた企画「EVO:CAL(イヴォーカル)」。
「進化する歌ってみた企画」をコンセプトに始まったこの大型企画の目玉は、「8人の参加者がペアを組み、お互いの歌をディレクションし合う」というストイックな試みにあります。
熱量高く行われたレコーディングの裏側、そして企画に込めた想いとは。主催の芽々子さんと、エンジニアとして現場を支えたyukiさんに、その全貌をうかがいました。
インタビュー・執筆・編集 / けいろー(@K16writer)
進化する歌企画「EVO:CAL」とは
――まずは自己紹介をお願いします。
芽々子皆様ごきげんよう。お紅茶大好き、バーチャルニコニコシンガーの芽々子と申します。
普段はニコニコ動画を中心に「歌ってみた」動画を投稿しているVニコsingerです。よろしくお願いします。



みなさんごきげんよう! おビール大好き、レコーディング&ミキシングエンジニア、ミックス師のyukiです!(笑)
歌ってみたのミックスやバンドのレコーディングをやっていて、最近はインスト制作なども手掛けています。よろしくお願いします!



その自己紹介でいいのか?(笑)
――ありがとうございます(笑)。では早速ですが、お二人が関わっている「EVO:CAL(イヴォーカル)」について、企画の概要を教えてください。



「進化する(evolve)歌ってみた企画」というコンセプトのもと始めた企画で、大まかに3つの企画に分けられます。
1つは、これまでに実施していたクロスフェード企画です。
「ボカコレ」の投稿作品の中からいいなと思った作品をクロスフェード形式で歌って公開する企画で、これまでに3回ほど実施しています。今回はそれを「EVO:CAL」の告知作品として公開しました。





2つ目は、参加者がお互いに「歌ってみた」をディレクションし合う企画です。
yukiさんが主に関わっているのがこちらのパートですね。2人1組でディレクションを行うことで新しい発見を得たり、相手のスキルを見て学んだりしよう、という狙いがあります。
今回の企画では8人のバーチャルシンガーさんをお呼びしているので、4組のペアに分かれてディレクションと収録をしてもらいました。収録現場はみんなも見学できるような形にして、yukiさんには2日間、付きっきりで全員のレコーディングをしていただきました。



はっはっは。



大変でしたね(笑)
「自分ひとりのレコーディングではなかなか得られない気づきを得られたらいいな」と思って考えたのが、この「ディレクションコラボ」という企画です。
3つ目の企画は、「歌ってみた」の投稿リレーですね。制作したクロスフェード動画を、リレー形式で、ニコニコのプレミア公開機能を使って公開します。
ニコニコの公式番組「あつまれ!ばーちゃる!(あつぶい)」とコラボレーションすることが突然決まりまして、自分たちだけではなく他の活動者さんたちの作品もリレー形式で投稿されました。
――「突然決まった」ということは、当初の想定にはなかったのでしょうか。



そうなんです。もともとは自分たちだけでやる個人企画だったのですが、私が「あつぶい」の投稿リレーにお呼ばれして、そこでこの「EVO:CAL」のお話をしたところ、まるまる引き取ってくださいまして。他の活動者さんの作品も交えた大きなお祭りになりました!
――ちなみに、1つ目の企画として挙げられていた「クロスフェード企画」なのですが、耳馴染みのない方もいるのではないかと思います。どのような企画なのか、改めて簡単にご説明いただいてもよろしいでしょうか。



クロスフェード企画は、もともとは「私が好きなボカコレ作品をもっと知ってほしい!」という思いで始めた企画です。
「ボカコレ作品を何曲かピックアップして、サビの部分を歌って、それをクロスフェード形式で繋ぎ合わせた動画を作って公開する」というものですね。
最初は1人でやっていたのですが、ボカコレにはデュエットやグループで作った作品も多いので、他の人と一緒にできたらいいなとも考えていました。なので、2回目は仲の良い人に声をかけて4人くらいでやったんですけど……その後は何人でしたっけ?



8人くらいかな。俺を含めたら9人。



そうだ、yukiさんも歌ってるから9人ですね。この企画が楽しかったので「次もまたやろう」と話をしていたのですが、そこで別の企画も思いつきまして。
せっかくなら複数の企画をまとめて実施しよう――ということでスタートしたのが、この「EVO:CAL」です。


――それぞれの企画を個別に行うのではなく、「EVO:CAL」という1つの枠組みにまとめて実施することを決めたのはなぜですか?



先ほど「3つの企画がある」とお伝えしましたが、そのうちの1つである「ディレクションコラボ」をやろうという話が、以前からありまして。
これはXのスペース(※音声会話機能)で話していて生まれたアイデアなのですが、またそれとは別に、ニコニコ超会議に参加した際に「歌ってみたの投稿リレーが見たいんだよね」という話をいただいていたんです。
そこでふと、「歌ってみた」の投稿リレーと、自分が考えていたディレクションコラボの2つは、クロスフェード企画と相性が良いんじゃないかと思いまして。そこで全部を混ぜてみた結果、「EVO:CAL」という大きな企画が生まれた。そんな経緯があります。
――普段からあれこれ企画を考えて、多方面で交流している芽々子さんだからこそ生まれた大型企画、とも言えるのかもしれませんね。yukiさんにもお話をうかがいたいのですが、どのような経緯で企画に関わることになったのでしょうか。



芽々子さんから「Xのスペースで話していて」という話がありましたが、そこで自分も一緒に話していたんです。
その時にたしか――今回の企画にも参加している歌い手の鹿宮ぴす。っていう子がいるんですけど――芽々子さんが、「私なら、ぴすちゃんをもっと輝かせられる! こうやって歌ってほしいし、こんなこともできる!」って言ってたんですよ。



言ってました(笑)





それを聞いて、「たしかにそうかも」と思いまして。僕もエンジニアとして「歌ってみた」のレコーディングをしているので、歌い手さんのディレクションをすることが普段からあるんです。
その中で、コラボ歌ってみたを制作するために2人でレコーディングに来るケースがたまにあるのですが、お互いが「もっとこう歌ってほしい」という解釈を言い合ってる光景を見て、「なんてすばらしいコラボなんだ……!」と思ったことがあるんですよね(笑)
僕は「エンジニア」という立場からディレクションを行うのですが、やっぱり実際に歌う人のほうが、その曲の解釈とか、熱量とか、「もっとこういうふうにしたい」と考えている部分があるはずなんです。
もちろんエンジニアとしては、そのような意図を汲み取った上で、「こう歌ったほうがそういう表現ができるよ」「今の発音はミックス的な観点で甘いから、もう1回歌い直してみようか」とディレクションをしています。ただ、それでもプレイヤー側の、歌い手側の視点に完全に立つことができているわけではありません。
その点、レコーディングに来てお互いに解釈を言い合っていた2人――名前を出しちゃいますが、今回の企画にも参加しているいがぐりと街風めいちゃん――のやり取りが、聞いていてすごく良かったんですよね。









その上で「私だったら、ぴすちゃんの魅力をもっと引き出せる!」って芽々子さんが話しているのを聞いて、「あ、これ、めっちゃ同じこと今思ってる!」と感じまして。
「それをみんなでやったらおもしろいんじゃない?」と思って、「じゃあ! 芽々子さん! お願いします!!」って丸投げした感じです(笑)



そう! 私に丸投げなんですよね。「お願いします!」じゃないよ(笑)



このディレクションコラボが実現したら、歌い手さんは、普段は自分の中だけで考えて消化している解釈をアウトプットして、その場でフィードバックをもらえるので、得られるものも多いんじゃないかなと。インプットとアウトプットが高速で繰り返されるというか。
ただ、2人1組でディレクションを行う際には、「自分はこう受け取るけど、相手はじゃあどう受け取るだろう」「受け取ったものを、どう表現したら相手に伝わるだろう」とか、考えながらやり取りをしなければなりません。
いつもは自分ひとりの中で完結している解釈を、バディにもわかるように伝えなくちゃいけない。伝えるために強制的に考えないといけない状況になるのですが、それもすごくいいなと思っていて。
僕は「この企画にはこういうメリットがあるから、絶対にやるべきだ! 芽々子さん! やりましょう! お願いします!」って言っただけですね(笑)
――でも実際、「その企画を実施することで何が得られるのか」をあらかじめ明確に言語化しておくことは重要ですよね。まさに今のお話とも通じるところもありそうです。



yukiさんがそうやって煽ってくれたので、「でもそう言うなら、絶対にお前もやれよ?」と話はしました。その結果、yukiさんが冷えピタを貼って、ぜえぜえ言いながらレコーディングをすることになったと(笑)



1日10時間以上レコーディングしてたので(笑)
でも本当に楽しかったですね。僕も勉強になったし。



人のレコーディングを見る機会ってそうそうないので。「あ、こうやってるんだ」っていう発見も得られて、参加者目線でもやって良かったなと思います。
リアルタイムでお互いに「歌い方」を掘り下げることで得られる気づき
――実際に「ディレクションコラボ」という形でのレコーディングを終えてみて、いかがでしたか?



すごく楽しかったですが、難しく感じる部分もありました。ペアを組んだ相手に「こういうふうに歌ってほしい」と伝えたくてもうまく言語化できなかったり、歌う側もディレクションを理解し表現できるのかで悩んだりと、メンバーそれぞれに苦悩があったと思います。
でもみんな、「お互いができる一番良いところまで持っていこう」という意識で取り組んでいたので、きっと最終的には良いものができあがったんじゃないかと思います。
レコーディングでは、「この人は普段、こういうことを考えて歌っているんだ」という気づきももちろん得られたのですが、私の場合は、それとはまた別の収穫もありました。
私は普段、元気で活発でかわいい、王道のアイドルソングのような要素が入っている曲を歌うことが多いのですが、相手のぴすちゃんはその逆。テイストとしては和風で、感情的にはちょっと暗めというか、一歩引いたような繊細な表現が得意な歌い手さんなんです。







だから、私の歌に対して「もっと引いて歌ってみて」と指摘された時は驚きました。「あ、これ、もっと引いていいんだ!」って。それで言われたとおりに歌ってみるのですが、「まだ足りない」と。
その後ようやく「それがいい!」と言われた時の自分の歌声を聞いてみると、想定とはぜんぜん違うのですが、でも実際に良くなっているんですよね。
このような気づきが私にとっては大きくて、自分の表現の幅が広がった感じがあります。その気づきを活かすことで「次はこういうことができるようになるかも」という予感もありますね。


――「作品」として完成された歌を聞いて、お互いに感想を話し合うことは普段あっても、実際のレコーディング現場で、リアルタイムで感じたことを伝え合うような機会はなかなかありませんものね。



そうですね。リアルタイムでディレクションをするとなると、突き詰められる範囲もやっぱり変わってくるので。
普段は自分ひとりで考えて取り組んでいることの中に他の人の思考が入ることで、なんだか自分じゃない自分を見ているような感覚があります。
そうしてできた作品もまた、新しい自分の一部になる。それが良かったなと思います。
――なるほど。2人1組での制作なので、ある意味では「共作」でもあるわけですね。ところで、自分のような素人目線では「レコーディング風景」というものが若干想像しにくいのですが、「2人1組でペアを組み、お互いに歌い方の指示やアドバイスをしながらスタジオで歌っている様子を、他のメンバーも周りで見ている」ようなイメージで合っていますか?



そうですそうです。他のペアのレコーディングも見学できるように出入りは自由にして、スタジオを2日間貸し切って行いました。バディごとにレコーディングの時間を決めて。
あとは全体曲についても、みんなでああだこうだ言いながらその場で収録した感じですね。
――すると、yukiさんはその現場の「総監督」的な立ち位置で、全体を見ていたようなイメージでしょうか?



総監督……というか、基本的には普段のレコーディングと同じように、エンジニアとしての役割を果たしていた形ですね。
基本的なディレクションや相手への伝え方は、もう完全にみなさんにおまかせしていました。「迷走することがあったら、脱線しすぎないように少し口出しする」くらいの立ち位置です。



現場の「大人」の人だ。



その口出しも極力しないようにしていたので、「がんばれ! ひねり出せ!」「いいぞいいぞ……! 考えるんだ……悩むんだ……!」って思いながら見守っていた感じです(笑)
――後方腕組みプロデューサーみたいな(笑)



後方腕組みおじさんでしたね。本当に親みたいなことを言いますけど、「考える力がやっぱり一番大事だな」と僕は思っていて。
相手の歌を聞いて感じたことを、「この歌はこう解釈してほしい」「こういう歌い方・表現をしてほしい」と言語化して伝えるのは大変ですが、それが一番、自分にとっても身になると思うんです。だから僕は見守ってました。
――エンジニアとして普段立ち会っているレコーディング現場と比較して、今回のディレクションコラボの現場ならではの違いや新鮮さはありましたか?







その現場全体を漂う熱量の高さがすごくいいなと思って見ていましたね。普段のレコーディングだと、歌もぜんぜんうまくない僕が「もうちょっとこうやってみて」とか言ってるんですけど(笑)
歌と常に真剣に向き合っている人たちの本気を目の当たりにして、僕自身も勉強になりました。
――yukiさんの目線でも発見があるほどのやり取りが、レコーディング現場では自然と交わされていたと。



でも「うわ、すげえ!」だけじゃなくて、「うわ……自分、ぜんぜんダメかも」みたいな刺激も絶対に生まれていると思うんですよ。



うん。言ってる人、いた。



別に優劣があるとは思いませんが、「感覚で歌ってるから、そこまで考えたことなかった」という人もいたんじゃないかなと。
でも、そういう新しい気づきや価値観って大事じゃないですか。それが刺激になって「自分ももっとがんばろう」と感じた人も絶対にいたと思います。
かと思えば、「もっとパッションで!!」「大きな声で!!」みたいなことを言う人もいたりして、それもすごく良かったです(笑)
音楽にはいろいろな表現の仕方があって、「これが正解」「これが間違い」というものではないと思うので。





パッションも間違いじゃない。



うん。パッションもぜんぜん間違いじゃない。むしろあり(笑)
そのようないろいろな考え方に触れられたことも含めて良い企画だなと思いながら、後方腕組みしながら見ていました。
人が歌っているのを聞いて自分なりに解釈することはあっても、「こういう解釈で歌ってます」という話を、その人からリアルタイムで聞くことってないじゃないですか。それが周りにもわかりやすく伝わってしまう現場だったので、すごく刺激的でしたね。
「日本一ストイックな歌い手が8人集まった企画」


――今もいくつかお話がありましたが、レコーディング全体を通して印象に残っている出来事やエピソードは他にありますか?



私は「運営」という立場で見ている部分もあったので、まず何よりもみんなにレコーディングを楽しんでもらいたいと思っていました。
でもいざやってみたら、「自分はまだまだだ」という感情を抱いてる人も結構いて、正直嬉しかったですね。運営冥利に尽きるというか。
というのも、もともとは自分のエゴで「こういうことをやりたい」と言ってみんなを集めているので、せめてこの企画を通して何かを得てほしかった。みんながどのような感情や気づきを持ち帰ったのかはわかりませんが、でも何かしらは得てくれているんじゃないかなと。
その手応えはあるので、やって良かったなと思います。



これは芽々子さんの話の続きになっちゃうんですけど……というか、ストイックな人向けの発言になってしまうんですが……。
上を目指す人なら、レコーディングは“楽しかった”だけで帰っちゃダメだと僕は思ってます!(笑)



んふふふふ(笑)



やっぱり、ボキボキに心を折られて泣きながら帰るレコーディングが、僕は一番良いレコーディングだと思ってるんですよ。
思ったように歌えなくても、理想は追い求めないといけない。でもどうやったって、現状の自分の技術では追いつけない部分もある。その足りない部分をレコーディング現場で突きつけられて悔しい思いをすることは、「もっと上に行きたい」という気持ちの現れでもあると思うんです。
音楽には、絶対にどこかで妥協しないといけない部分もある。割り切ることも必要だけど、それでも自分の頭の中で鳴っているものを、なんとかして形にする作業だと思うんです。
相当なスキルがないと理想を叶えるのは難しいですが、だからこそ、みんなが歌っている姿を見て、刺激を受けて、「悔しい」って感じることは、大切な経験なんじゃないかなと。
ただ単に「楽しい思い出になったね」だけだったら、やった意味はあまりなかったと自分は感じていたかもしれません。でも今回の企画では、かなりストイックな8人が集まっていたので……まあ、そもそもこんな企画をやる時点でかなりストイックなんですけど(笑)



え゛。



これって、自分磨きの企画なので(笑)
「ストイックな8人が集まって、ちゃんとみんなストイックだった」という事実が、自分としては本当に良いことだと感じました。
それこそ印象的だった話で言うと、「レコーディング中、ストイックになりすぎて気まずくなる」ような場面があって。
――なんと。



自分が録っていない時は気持ちも楽なので、他の人が歌っているのを周りでワイワイしながら見ているのですが、実際に歌うとなると、やっぱり結構大変で。
だって、自分の引き出しにはないことを遠慮なく言われたりするんですよ。だからレコーディング中には、若干ピリつく瞬間みたいなのもあったんですよね。その様子を見て、「いいぞぉ……」って俺は思ってました(笑)
でも周りのみんなはお菓子をポリポリしていたので、「ちょっとみんなごめん! 静かにして……! 今、ピリついてるかも……!」って言って(笑)



(笑)



真面目に向き合っているからこそピリつくこともあるので、あれはすごく良かったなと思います。本人は大変だったかもしれないけど(笑)


――ただ楽しいだけの企画ではなく、そういう空気感もちゃんとあったと。



あ、そうだ。今回のレコーディングの選曲ですが、「2人1組のペアが、相手が歌う曲をお互いに選ぶ」という形にしています。
だからみんな、歌う曲が自分の得意ジャンルとは限らないんですよね。私も普段は歌わない、表現が繊細で暗い雰囲気の曲を初めて歌ったので、先ほど話したように「どこまでやっていいんだろう」と様子を見ながらレコーディングに臨むことになりました。
なので、結構みんな苦労してたんじゃないかな。
――すると、「みんなで集まって楽しくレコーディングしよう!」というよりは、各々が課題なり挑戦する気持ちなりを抱えてやってきて、中ではバチバチにぶつかることもある現場だったわけですね。



……やばくないですか?(笑)
「歌ってみた」の世界にはプロとして活躍されている方もいますが、もともとは「趣味」の領域にある活動じゃないですか。
でもこの企画では、そんな領域は余裕で飛び越えたステージで、みんながストイックにバチバチにやり合っていた。日本一ストイックな歌い手が8人集まった企画だったと思ってます。
――今のお話を聞いて思い浮かんだのが「全国大会を目指す吹奏楽部の夏合宿」だったのですが、きっとそういうレベルでガチな企画だったのでしょうね……!



ほんと、そんなレベルだと思いますよ(笑)



yukiさんも大変だったね?
――yukiさん個人としては、何か大変だったエピソードはありますか?



え〜!? 僕〜!? そうですね……実際のところ、普段から仕事としてやっていることの延長線上ではあるので、意外とないかもしれません。全体の進行も芽々子さんがやってくれているので。強いて言えば、睡眠時間が足りなかったことくらいですかね(笑)



「自分のレコーディングが大変」だったとか、そういうのはないの?



あ、それだ! 参加者みんなで歌う全体曲は僕がディレクションを担当したのですが、自分も歌う側として参加しているんですよ。だからいざ僕が歌う側になった時に、「さっきまであんなに偉そうに言ってたのに、へなちょこな歌でごめんなさいっ……!」って申し訳なくなりながら歌ってました(笑)


――それまで助言をする立場にいたから、自分が「歌う」側になった時にプレッシャーがあったと。



僕自身は、別に歌がうまいわけではないので(笑)
エンジニアとして「もうちょっとこうしてほしい」「こうやったら良くなるんじゃないか」というアドバイスができるだけで、「じゃあ自分でやってみてください」って言われたら、ぜんぜんできないので! それが一番大変でしたね。



yukiさんがみんなからああだこうだ言われてるの、おもしろかった(笑)



僕がブースから出てきた時のみんなの反応が、「すごくよかった!」とかじゃなくて、「うんうん、よくやったよお前は」って感じだったのを覚えてます(笑)
――芽々子さんは、主催として感じた反省点や課題は何かありますか?



運営力……でしょうか。
自分が企画の舵取りをする時はいつも、演者側が苦労しないようにあらかじめ根回しをするのですが、今回はそれが足りていませんでした。
前段階の歌詞割などのやり取りはできていたのですが、合唱曲のプリプロまで詰めることができていなかったので、当日躓く場面が多少あったかなと。でも結果的には、みんなの個性がたくさん詰まった良い合唱になったように思います!


――企画の規模が大きくなると、どうしても手が回らないところは出てきますよね……。逆に、やってみて意外とうまくいったことや、「ここは良かった」と感じた部分はありますか?



yukiさんは何かある?



芽々子さんから全体曲の話がありましたが、レコーディング全体を通して見ると、かなりスムーズに進められた点ですね。
人数が多いこともあり、スケジュール上はかなりタイトな収録だったので、当初は時間が押すかなと思っていたのですが。個人で歌う曲については各々が事前に録音して、ペアごとにお互いのバディに聞いてもらって、意見交換をしていたのが良かったのかなと思います。
あとは、みんなのディレクションがめっちゃ上手だったことですね。「キミ、エンジニアになれるよ!」って思えるほどでした(笑)
事前に「ディレクションはこうしてください」「相手を否定するような言葉遣いはなるべく避けましょう」という“いろは”を送っていたのですが、それもいらなかったんじゃないかと感じるくらい。
お互いを尊重しつつ、相手のやる気をなくさないように「ここ良かったよ! でも、こうやってみたらもっと良くなると思う!」という提案の仕方をしていたので。「みんなすごい! 人間性が素晴らしい!」と感心していました(笑)
――参加者が多い企画であるにもかかわらず、ほぼスケジュール通りに進めることができ、大きなトラブルもなく、良い雰囲気のまま終わることができたというのは、純粋にすごいですね……!



さっき言った「ストイックに『歌』を突き詰めることで生まれるピリピリ感」のようなものはありましたが、誰かの一言で雰囲気が悪くなるような、そういう嫌な空気は一切ありませんでしたね。
本当にすばらしい……!
「EVO:CAL」をきっかけに、新しい企画が生まれてほしい


――ちょっと気が早いかもしれませんが、今後の展望は何かありますか? 今回の企画を経て思い浮かんだ新たな企画のアイデア、あるいは第2回「EVO:CAL」の構想があれば教えてください。



今回はVSingerさんに着目した企画だったので、もし第2回をやるなら歌い手さんにスポットライトを当ててやってみたいですね。ただ、かなり大きな規模の企画になって大変だったので、いったん大きめの休憩を入れてから考えようかなと(笑)
あとはちょっと別の話になりますが、先日、ドワンゴの本社で「歌ってみた」と「踊ってみた」の交流会がありまして。そこでふと、「こういう企画をするということは、ニコニコ運営は違う界隈同士の交流を増やしたいのかな」と思ったんですよね。
なので「EVO:CAL」をもう1回やるよりは、別界隈の活動者さんとのコラボ企画を進めていきたいと考えています。実はすでに関係者の踊り手さんに企画書を送って、話を進めている最中でして……。そうやってまた私は企画主をしているわけですが、きっとyukiさんもまた巻き込むことになるんじゃないかなと(笑)



あら! そろそろ企画書が届くんですね?



そのうち?(笑)



芽々子さんの企画は全部乗っかりますから。すべて支えますよ、僕が。



そうそう。私の企画はyukiさんじゃないと回らないので。いつもyukiさんありきで、勝手に企画書を進めています(笑)



そう言っていただけてありがたいです(笑)



私としては、今回の「EVO:CAL」も含むいろいろな企画をやることによって、自分と関わってくれている人たちともっと良いものを作って、もっと良いものをお届けしたい。
そんな気持ちで取り組んでいるだけなので、これからも良いものができるようにがんばります。


――すごく素敵だと思います。yukiさんはいかがでしょうか?



僕は――芽々子さんとはまたちょっと違う話になっちゃうんですけど――今回、コラボする楽曲を決めている時に、「これ……自分たちで作ったほうがいいんじゃね?」ってめっちゃ思ってたんですよ。



え!!



「みんなで曲を選ぶよりは、みんなで歌詞を書いて1曲作っちゃったほうが良くない?」と。楽しいことも、大変なことも、いろいろなドラマが繰り広げられてきたこの企画を締めくくる合唱曲には、自分たちで作った楽曲が相応しいんじゃないかと思いまして。
こう言うと語弊があるかもしれませんが、「誰かが歩んだ物語よりも、俺たちが歩んだ物語のほうが良いよな」と実は考えていて。だから「もし第2弾があるなら、曲を作っちゃえば良いんじゃないの?」って思ってます。



マジか!



楽曲制作については、ボカロPの誰かにお願いするとかいろいろな形があると思いますが、歌詞はみんなで練りたい。大変ではありますが、そのほうがきちんとストーリーやドラマを1曲に落とし込める。そこまで行けたら、もう最強なんじゃないかなと思います。
僕はバンドをやっていた経験があるので、そういうドラマ性を求めちゃうんですよね。もちろん、誰かの作った曲を歌う「歌ってみた」界隈へのリスペクトはあります。でも、傲慢かもしれないけれど、この8人で歌った形がすごくドラマチックで、美しすぎたので。
だから僕は、そこで「曲を作りたいな」って思っちゃいました。



言 っ た な ?



(笑)



そこまでやるんだったら、最後に告知をして、ライブをするところまで考えるからな?(笑)



そうやってどんどん繋げていっても良いと思う。それくらい熱量のある企画だと思うので。
すぐには難しいかと思いますが、もう1回、どこかできちんとやりたい。その時はプラスアルファとして、この熱量が活きてくる企画――それこそ、曲を作ったり、ライブをしたりする――を盛り込む形で。そうやっていろいろ広げられるくらいには熱い、最高の企画だと思っています。



今回の「EVO:CAL」は半年くらいかけて進めてきた企画だから……次回やるとしたら、スケジュールとしては1年コースかなあ……(笑)


――率直な感想で恐縮ですが、今の2人のお話を聞いて、「それって、めちゃくちゃニコニコじゃん」と思いました。芽々子さんが先ほど話してくださった「界隈を超えたコラボ企画」もそうですし、yukiさんの「みんなで歌詞を書いて作った合唱曲を歌う」というお話もそう。「界隈を超えて、みんなで一緒に楽しいものを作る」ってすごくニコニコ動画らしいし、絶対に楽しいだろうなと思います。



わ、今の一言めっちゃいい! たしかに、めっちゃニコニコじゃん!



今回の企画を見た誰かが「自分もやりたい」って感じてくれたり、「こうすれば企画ができるんだ」って気づいてくれたりしたらいいなと、私は思っていて。そうすれば、誰かが立ち上げた企画に、今度は私が呼んでもらえるかもしれない。私はそこを目指しています。
この界隈をずっと見てきて思うのが、「待ち」の状態になってしまっている人も少なくないように感じるんですよね。
たとえば「超会議の『歌ってみた』ブースで歌う権利を獲得するために、歌コレで上位を目指す」というのは、一見すると能動的ではあります。でもそこには、「景品があるから動く」という前提があるわけじゃないですか。
――たしかにそうですね。



チャンスを得るために挑戦する姿勢は大事ですが、それだけじゃなくて、「自分が動いて動いて、動いていった先に、最終的に大きな舞台があってもいい」というのが、私の考えです。
限られた枠を奪い合うイベントだけに固執するのではなく、能動的に動く人が増えることで、おもしろい企画がもっともっと生まれてほしい。
そうすることで得られるチャンスだってあるし、視聴者目線でもいろいろなものが見られて良いんじゃないかなと。この「EVO:CAL」という企画が、誰かのやる気に繋がったらいいなと思います。
なので! ぜひ私を企画に呼んでください!
芽々子、できる子だから!(笑)
――ありがとうございます。それでは最後に、改めて今回の企画の告知と、読者さんに向けたメッセージをお願いします。



「EVO:CAL」本編の投稿リレーが、11月15日から16日にかけて行われました。ニコニコ公式の「あつまれ!ばーちゃる!」が実施する「VTuberライブ公開リレーフェス」の中で、私たちは「ニコニコ VSinger ステージ」という枠組みで新作動画を無事公開することができました!
少しでも気になった方は、私たちの「歌ってみた」動画をチェックしていただけたら嬉しいです! 告知で公開したXFD動画にすべてのリンクが貼ってありますので、よかったらそちらから確認してみてください!
また、レコーディング風景を収録した動画やグッズなども公開されておりますので、そちらもあわせてぜひ!
ほかにも、まだまだコンテンツが出る……かも!?



僕からは「こんなに熱い8人がいるんだぞ!」っていうことをお伝えしたいですね(笑)
みなさんとはレコーディングやミックスで普段から関わらせてもらっているのですが、歌のクオリティも高いし、貪欲に、ストイックにがんばっている人ばかりなんですよね。だからみんなには早く大人気になってほしいし、たくさんの人から見つけてもらいたい。
この企画が、そのきっかけになればいいなと思っています。

