スマートフォン1台でゲーム配信ができるアプリ「Mirrativ(ミラティブ)」を運営する株式会社ミラティブが、新たな事業戦略「All for Streamers」を発表しました。
「All for Streamers」は、これまでMirrativを通じて構築してきた配信者支援の知見やエコシステムを、すべての配信者に向けて展開していく取り組みです。ここで言う“Streamers”とは、Mirrativ配信者だけではなく、YouTube、Twitch、TikTokなどのあらゆるプラットフォームで活動するVTuber/ストリーマーを含みます。
本記事では、26日にオンラインで開催された新規事業戦略発表会の内容も交えつつ、この新たな取り組みについて紹介します。
なぜ今、“すべての配信者”を支援するのか?

発表会には、ミラティブ株式会社の代表取締役・赤川隼一氏が登壇。新規事業の発表に先立ち、赤川氏からはまず「配信者/ストリーマー」という存在とその文化について、同社がどのように捉えているのかが語られました。
今日のデジタル社会において、その存在感を年々増しつつある、配信者とそのカルチャー。特にVTuberやストリーマーへの注目度は高く、彼らは単にゲームをプレイするだけでなく、ファンを惹きつけ、コミュニティを作り、経済を動かす「プラットフォーム」のような存在になりつつあります。


このような環境下で増えているのが、事務所に所属せず、個人で活動するVTuberです。いわゆる「個人勢VTuber」と呼ばれる彼らは、個人ならではの楽しさや自由度がある一方で、個人ゆえの悩みや困り事も存在します。グッズ制作やイベント開催のハードルが高い。ファンの増やし方がわからない。収益化に繋がる企業案件の機会を得ることが難しい――。
ミラティブは、そんな現在の個人勢VTuberの状況が、ゲーム実況が一般的になりつつあった同社の創業初期の頃の個人勢の状況と、非常によく似ていると感じたそうです。
そこで、同社が長年培ってきた配信者支援のノウハウやアセットを活用すれば、個人勢VTuberが抱える特有の課題を解決できるのではないか。そのように考え、自社のMirrativアプリだけでなく、あらゆる場所で活躍する配信者全体をサポートする方向へと舵を切ることを決定。新たな事業戦略として「All for Streamers」を発表するに至った格好です。

新コンセプト「All for Streamers」とは
ミラティブの新事業の根幹をなすコンセプトは、「All for Streamers」。このコンセプトのもと、プラットフォームの種類を問わず、配信者がより輝けるような支援を推し進めていきます。
では、具体的にはどのようなサポートを行うのか。そこで赤川氏が挙げたのが、配信者が喜ぶ「3つの需要」です。
- ファンが増えること
- 収益が上がること
- 撮れ高が生まれること

一言でまとめると、配信者とファンのあいだに特別な「ナラティブ(物語)」が生まれる手助けをすること。それが、Mirrativアプリに限らず、あらゆる配信プラットフォームで活動するストリーマーに共通するニーズだと指摘しました。
ミラティブはこれまでもずっと、誰でも気軽に配信を始められる環境を提供しつつ、本気で収益化を目指す配信者向けの仕組みを提供してきました。実際、ミラティブの収益だけで生活する公認配信者や、年間収益1000万円を超える配信者も存在するそうです。このような収益化支援のノウハウも、「All for Streamers」のコンセプトに基づき、様々なプラットフォームの配信者へ展開していく予定です。

配信者/VTuber向けサービスを展開する2社との提携

発表会では、この新戦略を加速させるための一手として、M&Aや資本提携を通じてグループを拡大していくことも発表。その第一弾として、新たにミラティブグループに加わった2社が発表されました。
配信支援ツール「CastCraft」(株式会社キャスコード)

一社目は、配信者向けツール「CastCraft」を開発・運営する株式会社キャスコード。CastCraftは、OBSなどの主要なPC配信ソフトと一緒に使うことで、配信を劇的に進化させられるデスクトップツールです。
CastCraftを使うと、配信画面にリッチなエフェクトを簡単に表示したり動かしたりできます。中でもユニークなのが、視聴者のアクション(コメント、ゲームダウンロード、グッズ購入など)に連動して、配信画面上に演出を表示できる機能。これにより、視聴者は自分の行動で配信を盛り上げることができ、配信者も視聴者の反応を見ながらよりインタラクティブな配信が可能になります。
2019年からサービスを提供しているCastCraftは、地道なユーザーとのやり取りを通じたサービス改善を続け、昨年には急成長を遂げています。赤川氏は、キャスコード代表の中川氏が収益よりもユーザー増加を重視し、ユーザーと真摯に向き合い続けてきた姿勢に共感したとコメント。「個人配信者と向き合い続ける」という姿勢は、ミラティブが今後注力していく個人勢の支援においても重要な役割を果たすと考えられます。

「ぶいきゃす」「Rock on V」(株式会社アイブレイド)

もう一社は、VTuberを中心としたインフルエンサーマーケティング事業などを展開する株式会社アイブレイドです。
同社が運営するサービスの1つが、VTuberキャスティングプラットフォーム「ぶいきゃす」。これは、特に個人勢VTuberと企業を結びつけ、PR案件の提供やコラボ商品の展開などをサポートするサービスです。企業案件の機会を得づらい個人勢VTuberの悩みを解決し、収益機会を提供しています。
チャンネル登録者数では大手事務所に敵わない個人勢VTuberですが、ファンとの絆や、ファン一人ひとりの熱量が非常に強いという特徴があります。PR案件には熱心に取り組み、ファンも応援してくれる傾向があるため、案件にも高い効果が期待できるとの話でした。

もう一点、アイブレイドの取り組みとして紹介されたのが、VTuberが生バンドの演奏でライブを行う音楽ライブイベント「Rock on V」です。VTuberの姿のまま音楽ライブをしたいというニーズや、それを見たいファンの思いに応える事業であり、先日実施されたイベントにも多くのVTuberが出演。3Dフルトラッキングと生バンド演奏を組み合わせた、業界でも珍しい試みとして反響を呼びました。
アイブレイドの代表である妻木氏は、個人勢VTuberがグッズ販売やリアルイベントなどで抱える困難を知り、サポートしたいという思いが強まったことが、今回のM&Aのきっかけの一つになったと語っています。また、赤川氏も、DeNA時代からの妻木氏の真面目さや誠実さに対する信頼が、今回のM&Aという大きな経営判断を後押ししたと述べています。今回のグループジョインは、単なる事業の一致だけでなく、長年の信頼関係があってこそ実現したものだと言えます。

ナラティブの時代と、個人勢VTuberの可能性

ミラティブは、AIの進化により私たちの生活が劇的に変わる現代を、「ナラティブの時代」と捉えています。
誰もが知っているものが少なくなる一方で、自分だけの「推し」や「自分たちの物語」が、規模に関わらずより一層求められるようになっている。赤川氏は、社名に込められた「ナラティブ」の通り、自分だけの物語が生まれる居場所づくりにこだわり、今後も価値創造を行っていくと述べました。
今回の発表は、この「All for Streamers」というコンセプトに基づいたミラティブグループの挑戦の、あくまでも「序章に過ぎない」とのことです。今後はM&Aや協業といった手段も柔軟に活用しながら、配信者とファンのあいだに「ナラティブ」が生まれる支援を、様々な角度から準備していくとしています。

今回の発表会を終えて特に印象に残ったのが、ミラティブが想像以上に「個人勢VTuber」に注目していたことです。
それこそ、黎明期のにじさんじライバーがMirrativで配信をしていたことは記憶に残っていますし、ミラティブとVTuber文化には並々ならぬ関わりがあります。とはいえ、配信プラットフォームとしてはスマホやスマホゲームに特化していて、主流の「VTuber」とはまた少し異なる、独自のカルチャーとコミュニティが広がっているアプリである――そのような印象も、少なからずありました。
そんなミラティブが、自社アプリだけではなく、「すべての配信者」を対象とした事業を展開していく。しかも「個人勢VTuber」に着目し、その活動を応援するためのサポートを推し進めていくと言うのですから、個人で活動するVTuberとそのファンにとっては、注目しないわけにはいきません。

ミラティブが「ナラティブの時代」と捉えている現代では、個人勢VTuberが今以上に活躍できる可能性がある。それは間違いありません。配信プラットフォームや肩書きに関係なく、すべての配信者に向けて価値提供を行なっていくことを表明した、ミラティブの今後の施策にも注目です。