いつまでも続くと思われた夏の暑さがようやく和らいだ10月の第一土曜日。アートと音楽の街・下北沢に、1人のシンガーが「歌」という名の雷鳴を轟かせた。
彼女の名前は、拠鳥きまゆ(よるどきまゆ)。2020年から個人で活動する、ロックを愛するバーチャルシンガーだ。
1stワンマンライブから2年を経て開催された2ndワンマンのタイトルは、「人鳥は雷震を運んで」。タイトルが示す雷雲こそ見られなかったものの、この日はあいにくの雨模様。曇天の下、彼女の熱を帯びた歌声を浴び続けた約2時間は、まさに“雷震”を全身で感じる体験だった。本稿では、そのライブの模様をレポートする。
執筆・編集・写真 / けいろー(@K16writer)
写真 / lou(@nagarelou)
音楽の街に満員のファンが集った、拠鳥きまゆ2ndワンマンライブ

2023年10月の1stワンマンライブ「PENGUIN A LIVE」から、ちょうど2年。拠鳥きまゆの2ndワンマンライブ「人鳥は雷震を運んで」が、下北沢ReGにて開催された。
開演20分前、受付を済ませて地下のライブスペースへ向かうと、扉を開けた瞬間、目に飛び込んできた光景に圧倒される。声をかけなければ移動もままならないほど大勢のファンがひしめき合い、ライブ前の独特の高揚感と熱気が漂う空間が広がっていた。





開演時間となり、バンドメンバーがステージに登場する。今回も1stワンマン同様、VTuberのリアルイベントでは珍しいバンドによる生演奏形式。チケット販売ページの「ペンライトなどの光り物や応援グッズのお持ち込みはご遠慮ください」という一文から、「ライブハウスならではの音楽を届けたい」という彼女たちの気概が伝わってくる。
バンドメンバーがスタンバイし、ステージ中央のスクリーンに拠鳥きまゆが登場。雷光のごとくバックライトが煌めき、音で繋がる最高の夜が幕を開けた。
新衣装で度肝を抜く、雷撃のオープニング

この瞬間を誰よりも待ち望んでいたのは、ステージに立つ拠鳥きまゆ自身だっただろう。
ライブの火蓋を切ったのは、2nd EPの表題曲「For,」。彼女が長年憧れてきたアーティストからの提供楽曲だ。EPの導入と同じく、インスト曲「Shoot down.」からシームレスに繋がる演出に、フロアの温度が急上昇する。
さらに「最初から新衣装で登場する」というサプライズも重なり、観客のボルテージは瞬時に最高潮へ。「今から君の心を、雷撃で……撃ち抜いてあげる!」という宣言に、溜め込んできた期待を爆発させるような大歓声が響き渡った。

休む間もなくドラムがリズムを刻み、2曲目の「sparkler」へ。このシームレスな展開こそ、生バンドの醍醐味だ。「改めましてこんばんは! 拠鳥きまゆです! 僕らで新しい物語を紡ごうよ!」という呼びかけに、観客も高々と腕を上げて応える。
ここで最初のMC。「はろーよーるどー! 拠鳥きまゆだよ! 僕の心で、君の心を侵略しちゃうぞ!」というお馴染みの挨拶に、フロアが和む。普段の配信のような雰囲気も一瞬漂うが、本日の主役から続けてこうお願いされてしまっては、応えないわけにはいかないだろう。

今この瞬間だけは、僕を、君にとっての一番星にしてくれませんか?






キュート&ポップ!止まらない4曲連続の猛攻





僕のことで、頭いっぱいにする覚悟はできましたか?
それじゃあ手始めに、僕らからの贈り物……受け取ってもらうよ?
そんな呼びかけから、次の曲「TwinkleGift」が始まる。間奏では会場が一体となって手拍子を打ち、コールアンドレスポンスで声を重ね、一体感が高まっていく。
続く「ビリビリビリビリ」は、前の曲から引き継ぐようなポップナンバー。時にキュートに、時にがなるように歌う声と、序盤のロックな歌声とのギャップに、すっかり痺れてしまったファンも多かったことだろう。


「かわいい」のターンはまだまだ終わらない。「CUTE AGGRESSION!!!!」で“やわらかいのち”をギュッとしたかと思いきや、そのまますぐに「あるこ~る♡どりりあむ」に強制乗車させられる。
ライブで叫ぶのを楽しみにしていたファンも多いであろうコール曲が立て続けに披露され、会場の熱気は早くもピークに達した。4曲をノンストップで歌い切った拠鳥きまゆ本人も、息を切らしながら「死ぬかと思ったんですけどーッ!!」と叫ぶ。
バンドメンバーを紹介しつつ、再びMCへ。新衣装やオリジナルドリンクに触れるも、禁酒中の本人は飲めていないという。「今日のワンマンが終わったら、頭から浴びて、皮膚から摂取したい」「みんなも今日は浴びるほど酒を飲んで、終わりにな……いや、“始まり”になると思ってますので」と語ると、会場からは温かい笑い声が起こっていた。






クール、そしてエモーショナルに。深まる夜と音楽





甘くて激しいのもいいけど、もっと僕のいろんな顔に触れたいよね?
そう問いかけ、次の曲「Irony」をタイトルコール。クールな歌声でそれまでの雰囲気を一変させると、続くバラードナンバー「Memorable」を、歌詞の一言一言を噛みしめるように、しっとりと歌い上げる。
折り返し地点の9曲目は「Glimmer」。1stワンマンでは歌えなかった「君」への歌を携えて、この楽しい夜は後半戦へと突入していく。






スマホライトが創り出す星空、響き渡る“君と僕の歌”


歌と音楽に聞き入る観客一人ひとりの顔を見つめるように、拠鳥きまゆは「あのね」と語りかける。



この大好きなライブハウスという空間で、また君と、せせらぐ光たちが見たい。
「わがまま、聞いてくれますか?」という彼女の声に、観客は拍手とスマートフォンのライトで応える。無数の光点が灯され、会場は瞬く間に満点の星空へと姿を変えた。


それは、1stワンマンの会場でも見られた「星空」の再現。ファンと共に作り出した絶景の中で歌うのは、「レオニズの降る夜に」と「レグルスの本懐」だ。
夜と、星と、音楽を、“君”と“僕”の言葉で紡ぐ2曲を情感たっぷりに歌い上げ、観客たちもまた、スマホを掲げながらその声に聞き入る。音楽に乗せて揺れ動く数々のライトは、本当に、夜空にまたたく星々のようだった。お互いに照らし照らされるファンとシンガーの関係性を映し出すかのような光景に、胸が熱くならずにはいられない。






破壊と再生の終盤戦、魂を燃やすロックチューン


エモーショナルな雰囲気のままMCへと移行し、ライブが終盤に差し掛かったことを告げる拠鳥きまゆ。明日のことなんて考えられなくなるくらいに楽しんでほしい、自分のことを見ていてほしいと語りつつ、続けてこう吠えた。



僕が全部、ぶっ壊してあげるよ!


その一言とタイトルコールで、フロアの空気は再び一変する。「KARISOME BREAKER」でタガが外れたように飛び跳ね、「雷鳴前夜」のヘビーなサウンドで激しく体を揺らす観客たち。
“破壊”を歌う2曲に身を委ねるオーディエンスたちだったが、壇上のシンガーも止まらない。まだまだいけるだろと言わんばかりに、「St4rlight」を力強く歌い上げる。パワフルな歌を続けざまに熱唱するその声は、スクリーンに映し出された姿でありながら、拳を握り、腕を掲げて熱唱するロックシンガーの姿を幻視させるほどのエナジーに満ちていた。






「僕は僕だ」――音の上で生きていく覚悟


この時点で歌った曲は14曲。ここで彼女は、自分が歌う意味、そして、この場所に立つ意味を、ぽつりぽつりと語り始める。
それは、“君”の誇りでいるために。
そしてこれからも、音の上で生きていくために。
自らの想いを改めて言葉にした彼女が歌うのは、「PENGUIN ALIVE」。1stワンマンのタイトルを冠する、あの晴れ舞台で発表された楽曲だ。
10曲以上歌ってきたとは思えないロングトーンを響かせ、「僕は僕だ」と絶叫する。間奏では願いの言葉を綴り、観客もまた、彼女の想いに応えようと声を合わせて歌う。それは壇上のシンガーにとっても、フロアに集う観客たちにとっても大切な、“君と僕の歌”。ライブ終盤に相応しい、圧巻のパフォーマンスだった。


初披露の新曲は、未来への願いを乗せて





もう一度、憧れが、夢が叶いました!
高らかに告げられたのは、憧れのアーティストから提供された新曲の初披露。タイトルは、このライブと同じ「人鳥は雷震を運んで」だ。
リズミカルな音と歌声に自然と体を揺らしたくなるが、一転して雰囲気が変わるサビも印象的な楽曲。力強く響く歌声とは裏腹に、幾度となく繰り返される「願わくば」という言葉が耳に残る。「僕は歌しかないからここに立ってる」というフレーズに、彼女の切実さと未来への願いが滲んでいた。






「大好きだ!」ラストはシンガロングで一体に


楽しい時間ほど、あっという間に過ぎていく。名残惜しさを滲ませながらも、彼女は最後まで観客に呼びかけ続けた。



僕らは、音の上で語り合うことができる。
だからさ、最後もさ、音の上で、たくさん遊ぼうよ!
本編最後に歌うのは、「After Horizon」。ライブのエンディングにふさわしい、シンガロングが心地よい一曲だ。「君のことが、大好きだーーー!!」という絶叫に、観客も最大級の声で応え、ステージはひとまず幕を下ろした。


――「雷に打たれたような」という言葉が、これほど似合う瞬間はない。
ステージの幕が上がり、割れんばかりの歓声が響く。だが次の瞬間、それは驚きの声へと塗り替えられていく。バンドメンバーと共に再び現れたのは、バーチャルの姿ではない、しかし紛れもなく“本人”だとわかる、「拠鳥きまゆ」その人だったのだ。



君たちの、もっと傍に行きたい。
近くで声を届けたいと思いました。
感謝の言葉と共に、彼女は語る。
自分が見たいもの、追いかけたいものを信じて、これからも突き進んでいきたい、と。
そんな宣言を経て歌うのは、Vsinger・拠鳥きまゆの始まりの曲。
1stオリジナルソング「Penguin Nova」だ。
新たな世界へ。鳴りやまない拍手と喝采


音の一つ一つに感情を、歌詞の一語一語に想いを込めるアカペラから、アンコールは始まった。両手でマイクを握りしめ、全身全霊で歌うその姿。これこそがライブハウスの「生」の音楽だと証明するようなパフォーマンスに、フロアのボルテージは振り切れた。
そして、この2ndワンマンライブの大トリを飾る一曲が始まる。
彼女自身が歌う意味を見つめ直して作り上げた、4周年記念楽曲「人鳥新世界」だ。
過去を肯定し、未来を確信し、「今日」の愛おしさを歌う。記念すべき舞台の最後にこの歌を選ぶことは、今この瞬間を楽しもうという彼女の願いであり、「今日」を迎えられたことへの感謝の表明だったのかもしれない。「この日の為だったんだ」と叫ぶ彼女に応える観客たちの歓声が、その想いが届いたことの証だ。





ありがとうございました! 拠鳥きまゆでした!
また! 音の上で! 君に会いたいよーーー!!
幕が下り、フロアが明るくなっても、万雷の拍手は鳴りやまない。30秒以上も続いたその音と、誰からともなく湧き上がった「きまゆ!」コールが、この夜のすべてを物語っていた。






次もまた、音の上で会おう


かくして、雷雲は過ぎ去った。
アンコールを含め、この日披露されたのは全19曲。そのすべてがオリジナルソングであり、生バンドによる演奏だ。ライブハウスに馴染みのない人には刺激的な、そして現場慣れしている人にも満足度の高い、最高にアツい一夜となった。
個人的にも、これほど高密度のバンドサウンドを浴びる体験は久しぶりだった。全身を揺さぶる音の振動と共に、大好きな音楽を味わえる幸福感。「ペンライトなし」というこだわりも、ライブハウスならではの音楽体験の魅力を際立たせていたように思う。それでいて、激しいモッシュなどが起こるわけでもなく、誰もが安心して楽しめる空間だったことも付け加えておきたい。
しかし、このライブの魅力は「ライブハウスらしさ」だけにとどまらない。「拠鳥きまゆ」というシンガーが紡ぐ世界観と、彼女の「言葉」の一つ一つを噛みしめるように味わえる、そんなライブでもあった。
彼女のオリジナルソングには、「雷」や「星」などの象徴的なモチーフや、「君と僕」の関係性を歌うフレーズが繰り返し登場する。MCで次に歌う曲の歌詞を引用する場面も多く、音楽を通して想いを伝えようとする強い意志がライブの節々から感じられた。


ロックシンガーとしての、クールでパワフルな魅力。そして、一つ一つの「言葉」を大切に紡ぎ歌う、表現者としての顔。この2ndワンマンは、拠鳥きまゆというアーティストの本質を、改めて全身で感じられる最高のステージだったと言えるだろう。
これからアーカイブでこのライブを体験する人は、彼女が放つ音の雷撃に痺れると共に、そこに込められた「言葉」にもぜひ注目してみてほしい。
───生きていて、よかった。
— 拠鳥きまゆ⚡10/4 2ndワンマン (@461Okmy) October 4, 2025
Thank you for #人鳥雷震 pic.twitter.com/dk45kTf1fg
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- 人鳥新世界
【イベント概要】拠鳥きまゆ2ndワンマンライブ「人鳥は雷震を運んで」
- 開催日時:2025/10/4(土)19:00開演
- 会場:下北沢レッグ
- 出演:拠鳥きまゆ
- ハッシュタグ:#人鳥雷震
- チケットページ:https://www.zan-live.com/ja/live/detail/10603