
2026年1月7日。新宿・歌舞伎町のシネシティ広場に、突如として白い「ドーム」が出現しました。
その名も「PULSE DOME」。360度の全天周映像と立体音響によって、VRゴーグルを装着することなくバーチャル空間に没入できる、次世代のドーム型シアターです。
ドーム内で上映されるのは、きくおさんをはじめとするボカロPや、キヌさんらメタバースで活躍するアーティストたちの作品群。VRChatで大きな話題になった「FZMZ 1st LIVE “DEEP:DAWN”」や、人気ワールド「Beyond a bit」もラインナップされています。
「VRで作られた音楽体験を、リアル空間でどのように上映するのか?」
「没入感はどの程度なのか?」
初公開となる、はるまきごはんさんやKanariaさんの映像も含め、現地で体験してきた感想をレポートします。
VRゴーグルは不要!新宿のど真ん中に現れた未来のシアター
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントが展開する「PULSE DOME」は、直径13メートル、高さ7メートルのドーム型シアターです。
最大の特徴は、「VRの没入感を、現実の空間で共有する」という点。
一人ひとりが自宅でヘッドマウントディスプレイを装着してバーチャル世界に入るのではではなく、観客が同じ空間で熱量を分かち合いながら、アーティストの感情や音の波動を「パルス(脈動)」として体験できる。それが、このシアターの核となっています。

イベント初日となる1月7日。新宿へ足を運ぶと、歌舞伎町の中心に位置するシネシティ広場に、その白いドームは鎮座していました。
近づいてみると想像以上の存在感。内部も決して狭くはありません。この日の新宿は最高気温6℃と冷え込んでいましたが、中は人の熱気もあってか、思いのほか暖かく感じられました(とはいえ暖房完備ではないので、防寒対策は必須です)。


足元にはテープで観覧エリアが設けられており、その範囲内ならどこで見てもOKとのこと。筆者の目算ではありますが、40人くらいは余裕を持って入れそうです。
ドームの内壁には、多数のプロジェクターとスピーカーが設置されています。上映前は壁の凹凸や天井の機器が若干気になりましたが、いざ映像が始まってしまえば、圧倒的な光と音に夢中になり、設備がノイズになるようなことは意外なほどありませんでした。
おなじみのVRChatワールドも新感覚で楽しめる!PULSE DOMEの上映作品を紹介
PULSE DOMEで上映される作品は全8タイトル。 VRの世界で活躍するアーティストのライブパフォーマンスに加え、国内外で人気のボカロPたちが名を連ねています。
では、具体的にはどのような体験だったのか。初日に体験できた7作品について、それぞれの見どころと感想をまとめました。
- きくお「よるとうげ」
- Kanaria & LAM 「Kanaria MV 360°VR Edition(demo)」
- はるまきごはん「ぽかぽかの音楽隊 feat.初音ミク(demo ver.)」
- FZMZ「FZMZ LIVE “DEEP:DAWN”」
- TORIENA「FRACTURE: REBORN」
- キヌ「VTUBER GO TO CITY」
- Beyond a bit 「Beyond a bit」
- 月白 累 「please, keep my ghost.」
きくお「よるとうげ」

きくおさんの上映作品は「よるとうげ」。
VRChat上で公開され、総訪問回数26万回以上を誇る超人気ワールドです1。「先進映像協会 ルミエール・ジャパン・アワード 2024」VR部門優秀作品賞受賞、2025年ヴェネチア国際映画祭「Venice Immersive」部門選出と、実績も折り紙付き。監督は三日坊主さんです。


DJイベント風の空間から始まり、きくおさんの楽曲に合わせて次々に変化していく空間と、その独特な世界観に没入させられる、唯一無二の音楽体験。本作はYouTube上でも公開されており2、内容はどれも同じですが、PULSE DOMEでの体験は、そのどちらとも若干異なる感触がありました。
特に「音」に関しては、PULSE DOMEでの体験が頭一つ抜けている印象を受けました。VRや動画でも立体的に聞こえはするのですが、複数のスピーカーから放たれる音圧を全身で浴びる体験には敵いません。「音」がもたらす臨場感の凄まじさを、改めて叩き込まれた気分です。
Kanaria & LAM 「Kanaria MV 360°VR Edition(demo)」

ボカロP・Kanariaさんの楽曲と、イラストレーター・LAMさんのビジュアル。「Kanaria MV 360°VR Edition(demo)」は、強力なタッグによるMVを360度映像として再構築した作品です。
「demo」と銘打たれていたので、サクッとした内容を想像していたのですが……蓋を開けてびっくり。「Dec.」に始まり、「QUEEN」「EYE」「エンヴィーベイビー」ときて、最後に「KING」。人気曲5曲を大画面&大音響で浴びる、あまりに贅沢なメドレーが待ち受けていました。




視界の中心にはLAMさんのイラスト、周囲には立体的に浮かぶ歌詞。いわゆる「VR MV」の文脈ですが、疾走感のあるサウンドに合わせてドーム内壁いっぱいにエフェクトが広がる様子は圧巻。一枚絵と楽曲の世界観を「3次元空間」として捉え直したような演出で、ファンならずとも引き込まれます。
中でも印象的だったのが、冒頭の「Dec.」における雨と傘の演出です。ドームの半球形状をそのまま「傘」に見立てる表現は、今回のPULSE DOMEならでは。VRChatで見られるVR MVにもさまざまな表現がありますが、ドームでなければ成立しない演出の妙に唸らされました。
はるまきごはん「ぽかぽかの音楽隊 feat.初音ミク(demo ver.)」

「ぽかぽかの音楽隊 feat.初音ミク(demo ver.)」は、ボカロP・はるまきごはんさんの「ぽかぽかの星」を主軸に据えた映像作品。アニメーション制作スタジオ「スタジオごはん」と、クリエイティブスタジオ「MIGIRI」の共同制作です。
初音ミクさんを中心とした“音楽隊”たちによる合奏を楽しめる作品であり、絵本のようなアニメーションと演出が特徴的。「ねえ知ってる かまくらの中は暖かいんだよ」のフレーズから始まる演奏会を眺めていると、自分たちがいる白いドームが、まさにその“かまくら”の中であるように思えてきます。

この作品は、立体音響の活用が特に秀逸でした。 ギター、ベース、ドラム、バンドネオン、ピアノ、ヴィオラ。音楽隊が周囲をぐるっと飛び回るシーンでは、奏者がいるその方向から、正確に楽器の音色が飛んできます。
「あ、後ろに行った!」と、目で追うだけでなく、首を動かし、なんなら体の向きごと変えてキャラクターを追いかけてしまう。それほどの実在感があり、会場のお客さんもみんな楽しそうにくるくると体の向きを変えているのが印象的でした。
基本的に「映像の演出に合わせて首を動かす」という見方をしている人が多かったPULSE DOMEの作品の中で、「体の向きも変える」ほどに一番大きくお客さんを動かしていたのが、この作品だったように思います。
FZMZ「FZMZ LIVE “DEEP:DAWN”」

アニメ『シャングリラ・フロンティア』のオープニングテーマ「BROKEN GAMES」でデビューした、5人組覆面アバターバンド「FZMZ(ファゾムズ)」。彼らの初ライブとして2024年7月にVRChatで開催されたのが、「FZMZ 1st LIVE “DEEP:DAWN”」です。
これまでに何度か再演されており、そのたびにVRChatterを興奮の渦へと巻き込んでいる1stライブ。「先進映像協会 ルミエール・ジャパン・アワード 2024」VR部門でグランプリを受賞し、2025年のヴェネチア国際映画祭では「Venice Immersive」部門に選出されています。



VRChatでは「路地からライブ会場へ向かう」という移動も含めての体験ができましたが、PULSE DOMEではその導入部も含めて演出。アーティストが巨大化したり、巨大な魚に食われて水中に落とされたり、天地が反転したりといった演出も含めて、大迫力のライブをドーム内で再現しています。
再演のたびにVRChatで見ていたステージではありますが、「アーティスト全員が等しく見える」ような視点でライブを見たのは初めてだったかもしれません。
VRChatでのライブ参加時はどうしても目の前の演出を追いかけるのに必死になりますが、今回はベストポジションから全体を俯瞰できました。 そしてやはり、ここでも「音」が最高。自宅では絶対に出せない大音響と、腹に響く音圧。これを体感できただけでも、現地に行った価値がありました。

TORIENA「FRACTURE: REBORN」

「SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio Puroland」でのパフォーマンスを元にした、TORIENAさんの「FRACTURE: REBORN」。
サンリオVfesでのパフォーマンスを下地としたステージですが、歌詞の演出や2曲目のパーティクルなど、今回のPULSE DOMEのために細部まで調整が入っていると思われます。周囲を取り囲む「生肉」の絵面のインパクトに目を奪われがちですが、視覚的な演出以外にも何やら音が増えていたような……?

VRChatで見たときも前後半の緩急に撃ち抜かれた記憶がありますが、今回のドームの音響設備で聞くと、とにかく音圧が半端ない。さすがにライブハウスそのものとまでは言いませんが、今回の上映作品の中で最も重低音が効いていたステージだったことは間違いありません。
ライブでは、そんなヘビーな「Break Me Down」からシームレスに2曲目の「デコイ」に入るのですが、その際の「空間が色を失ってモノクロになる」という表現が、現実の白いドーム壁面とマッチしていた点も印象的。サンリオVfesの時とは異なるパーティクル表現も含め、新しい体験として楽しめました。
- Break Me Down
- デコイ

キヌ「VTUBER GO TO CITY」

サンリオVfesをはじめとするVRでの圧倒的なパフォーマンスで注目を集め続けているキヌさんは、「VTUBER GO TO CITY」と題したパフォーマンスを上映。
冒頭、ドームが開いていくような演出に合わせて新曲(?)3が展開した後は、キヌさんのライブでもおなじみの「voices」がスタート。2025年のサンリオVfesを下地にしたパフォーマンスから、「バーチャルYouTuberのいのち」へと展開します。

まさか、キヌさんのライブを現実世界で、生身のアバターで味わえる日が来るとは思っていなかったので、他の既知の作品とはまた違った不思議な感慨がありました。 そうでなくても、「言葉」によって空間をジャックするキヌさんのスタイルは、ドームという閉じた空間との相性が抜群です。
「映像作品」としての性質が強いタイトルが多くラインナップされているこの場において、あくまで「バーチャルYouTuber」としてステージに立ち、タイトルに「VTuber」というフレーズを込めている。そこに、ある種の覚悟を感じさせられる……というのは、さすがに深読みしすぎでしょうか。
どこにいたって、どこで聴いたって、感動できる音楽と言葉がある。そんなことを改めて実感させられる、圧巻のパフォーマンスでした。余談ですが、冒頭で語られたプラットフォームの1つに「cluster」の名前が含まれていたのも、個人的にニヤリとしたポイントです。
Beyond a bit 「Beyond a bit」

「SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio Puroland」で初めて上演され、その後パブリックワールドとして一般公開された、「Beyond a bit – 想像のちょっと先へ」。
「VRのすごさが一目で伝わるワールド」としてVRChat初心者に紹介されることも多く、ストリーマーの配信などでもたびたび話題になっていたワールド。第31回レインダンス映画祭で「Best Immersive Art Experience」にノミネートされるなど、国内外からの評価も高い作品です。

PULSE DOMEでの体験で最も予想外だったのが、この「Beyond a bit」だったかもしれません。サンリオVfesでの上演に始まり、フレンドと一緒に見たり、初心者さんを案内したりと、少なくとも10回以上は味わっている既知の体験。にもかかわらず、普段とは違った感覚で見ることができたのです。
理由はやはり、「ドーム」という形状との親和性でしょう。 本作の演出の中でも印象的な、天井が破壊されて宇宙のような空間が広がるシーン。そこで映し出される星空を、半円状のドームで見上げていると……そう、まるで「プラネタリウム」なんです。
最新のVR作品を見ているはずが、子供の頃から知っているプラネタリウムのような懐かしさも感じる。 既知の体験なのに新鮮で、でもどこか懐かしい。そんな不思議な感覚が込み上げ、気づけば作品の世界に没入していました。
街中に出現した巨大なVRヘッドセットの中に、生身で入るような体験

昨年末に突如告知され、開催を迎えた「PULSE DOME」。
実際に現地で体験して感じたのが、「設置型ドーム」というフォーマットの強みです。歌舞伎町の広場にポンと置かれたドーム。それはつまり、極端に広いスペースや常設設備がなくとも、街中の広場さえあればどこでも開催できることを意味します4。
しかも、お客さんは完全手ぶらでOK。 重たいHMDも、ハイスペックPCも、コントローラーも不要。通りすがりにプラネタリウムに入るような感覚で、小学生以下のお子さんからお年寄りまで、誰もが最先端の没入体験を楽しめるのです。特に「ぽかぽかの音楽隊」は、ボカロ好きなお子さんの反応を見てみたいと感じました。
これだけリッチな映像体験ができて「無料」という点にも驚かされますが、この1回きりで終わらせるにはあまりに惜しい企画です。今回の実験的な開催を経て、さらなる展開があることを期待せずにはいられません。
イベントは1月11日(日)まで開催中。一部の上映は当日券の用意もあるようですので、ぜひ公式Xをチェックしてみてください。巨大なVRヘッドセットの中に生身で入るような、刺激的なバーチャル体験が待っています。
開催概要
- 名称:全天周特設ドーム型シアター「PULSE DOME」
- 会期:2026年1月7日(水)〜1月11日(日)
- 会場:新宿・歌舞伎町 シネシティ広場内 特設ドーム
- 入場料:無料
- 公式サイト:Stagecrowd PULSE DOME
- 2026年1月現在。 ↩︎
- https://www.youtube.com/watch?v=CDTDFKmPdSo ↩︎
- https://x.com/kinu_kaiko/status/2008739350700585031 ↩︎
- ただ、上映中は外に音が漏れていたため、もしかすると「『歌舞伎町のど真ん中』いう喧騒に満ちた空間だからこそ実現しやすかった」という側面もあるのかもしれません。 ↩︎
