2025年7月5日。VSinger・七篠さよ(@nanasayo09)の1stワンマンライブ「ROOTS-NaNaFes.-」が、渋谷CLUB CRAWLで開催された。
執筆・編集・撮影 / けいろー(@K16writer)
憧れの渋谷で開催する、VSinger・七篠さよの1stワンマンライブ

個人で活動するVSinger・七篠さよの初のワンマンライブとなる「ROOTS-NaNaFes.-」。そのライブの模様をお伝えする前に、まずはタイトルにもなっている「NaNaFes.」について触れておこう。
NaNaFes.は、七篠さよが毎年7月にオンライン開催している夏フェスだ。彼女の主催のもと数日間にわたって複数の企画が行われるイベントであり、2025年が4回目の開催となる。特に歌枠リレーは毎年盛況で、今年は7月6日に26組40名ものVTuberが参加する大型企画となった。

その2025年のNaNaFes.の1日目、7月5日に渋谷のライブハウスで行われたのが、七篠さよ1stワンマンライブ「ROOTS-NaNaFes.-」だ。開催のために実施されたクラウドファンディングでは目標金額を上回る約420万円の支援が集まるなど、ファンにとっても待望のイベントだったことがうかがえる。

そして迎えた、ライブ当日。開演30分前に渋谷CLUB CRAWLの扉をくぐると、そこはすでに“さよっ友”(※七篠さよファンの愛称)たちの期待と熱気で満ち満ちていた。
場内では初対面と思しきファンたちが交流する姿も見られていたが、印象的だったのが、開演前に行われた乾杯タイムだ。主催の掛け声で乾杯した後、空になったグラスを観客同士で協力して回収し、バーカウンターへと返却。ファンの温かな連帯感と、このライブを全力で楽しもうという気概が伝わってくる光景だった。

また、一足先に会場に入った観客たちのあいだでは、ステージの様子が話題になっていた。
一般的に「VTuberの音楽ライブ」と言えば、ステージ構成はシンプルな場合が多い。大型スクリーンまたは縦長のディスプレイにVTuberを映し出しつつ、演出面では、会場の照明でステージを彩るか、ディスプレイ上で何らかの映像演出を組み込む形が基本となる。生身の人間のようにステージを広く使ったパフォーマンスは当然できないため、必然的に映像を用いた演出が中心になってくる。
しかし今回のライブでは、縦型ディスプレイの周囲に一工夫することで、可動範囲の狭いVTuberでも見ごたえのあるステージ構成となっていた。

床には銀色のアルミ箔が敷き詰められ、中央の縦型ディスプレイの周囲には、ひと昔前のブラウン管テレビのような箱型のモニターがいくつも鎮座している。パフォーマンス中は個々のモニターが映像演出を担っており、1枚のディスプレイだけでは平面的になりがちなVTuberのステージに、独特な立体感を生み出していた。
さて、前置きが長くなったが、ここからは実際のライブの様子を写真多めでお届けする。当日は足を運べなかった人にも、現地の熱が少しでも伝われば幸いだ。




「色、一振り。」「ぐるり☆めぐり」


NaNaFes、始めるぞー!
ライブ本編は、ステージ上に現れた七篠さよの一声からスタート。鮮やかにきらめく色とりどりのスポットライトに照らされたステージで、1stオリジナルソング「色、一振り。」を歌った。
間髪を入れず2ndオリジナルソング「ぐるり☆めぐり」のメロディが聞こえるやいなや、声をあげて沸き立つ観客たち。リスナーと共に歌詞を紡いだ特別な楽曲であり、当時からのファンにとってはとりわけ感慨深い一曲だろう。
観客たちも掲げたペンライトをぐるぐると回しながら盛り上がり、フロア中央では渦を巻くように動く人たちの姿も見られていた。














「サヨナラキドリ」「Starry」「Alternative」


MCを挟んだあとは、「サヨナラキドリ」「Starry」「Alternative」の3曲を立て続けに披露。
「サヨナラキドリ」では自然とクラップの音が場内を満たし、「Starry」のイントロが鳴り響いた瞬間、ひときわ大きな歓声が巻き起こる。続く「Alternative」も含めて体を揺らして楽しめるアップテンポナンバーに、フロアの熱気は高まり続けるばかりだ。
ノンストップで3曲を歌い終え、一息つきながらのMCへ。そこで語られたのは、こうしてワンマンライブができることへの感謝の気持ちだった。
ファンにとって「推しの歌を現実世界のライブハウスで聴ける」という体験が特別なのは言うまでもないが、それはVTuberである彼女にとっても同様だ。「『みんな、いるんだ!』って思った」と笑って話しながら、複数人のVTuberが出演するわけではない、自分だけの“ワンマンライブ”に大勢が集まってくれたことに感謝の言葉を述べていた。





この1年くらい、自分の中では信じられないことがたくさん起きていて、今回もこうしてライブをさせていただけることになって、本当に本当に嬉しい想いと、いまだに『夢の中にいるんじゃないか』っていう感覚があるんですけど……。
でもやっぱり、夢じゃなかった!
みんながこうやって目の前にいるのがね、すごく嬉しいの!
大勢のファンの顔が見えることへの驚きと喜び、そして感謝を繰り返し口にする七篠さよと、口々に「ありがと~!!」と応える“さよっ友”たち。
まだライブ前半であるものの、シンガーと観客とが一緒になって作り上げる「最高のライブ」の光景が、そこにはあった。














「七等星」「星のあしあと」「白雨より」


ここまでの5曲で熱狂に満ちた空間をクールダウンさせるかのように、ライブはバラードのセクションへ。
「七等星」「星のあしあと」ではフロアを静かに揺らめいていた青と緑のペンライトが、「白雨より」を歌い出すと、徐々に白い光を灯していく。3曲をしっとりと高らかに歌い上げる壇上のシンガーの歌声に、観客たちはペンライトを静かに揺らしながら、その一音一音に耳を澄ませていた。














「tipsy」「地雷原さん」


「今日はどこから来た?」といった定番トークと、これまたライブでは定番のコール&レスポンスで交流を楽しんだMCの後は、大人な雰囲気とサビの高音が特徴の「tipsy」を歌唱。
「地雷原さん」では攻撃的ながなり声を会場に響かせ、それまでとはガラッと雰囲気を変えた2曲で観客を虜にした。その後のMCで、両曲が収録されている2ndアルバムについて「いろいろな感情を歌や音楽で表現できたらと思って制作した」と話していたのも印象的だった。














「Supernova」「ステラリネア」「BrokenDaybreak」


「っしゃぁ! 全力で駆けてくぞ!」と気合を入れ直し、聞こえてきたのは、疾走感あふれるロックサウンド。「Supernova」でますますライブを盛り上げていく――かと思いきや、ここで嬉しいサプライズが待ち受けていた。
イントロの途中でステージ上が無数の星に包まれた次の瞬間、そこに現れたのは、白と黒を基調とした真新しい衣装に身を包んだシンガーの姿。まさかの新衣装のお披露目に、フロアは驚きと熱狂の渦に包まれた。
そのまま休む間もなく「ステラリネア」「BrokenDaybreak」を続けて歌唱。
場内を赤く染め上げていくペンライトの光に呼応するように、観客のボルテージも最高潮に。声を出すよう合間合間に煽ってくるステージ上からの声に全力で応えるべく、大声を出して盛り上がった。














「レム」 「夜とスピカ」


新衣装の撮影コーナーとクラウドファンディング支援者へのプレゼントコーナーを挟んで、ライブはいよいよ終盤戦へ。
歌うのは、夢から覚めてしまった戸惑いと諦観を語った「レム」と、それでも歩き出し、見失った星へと手を伸ばす「夜とスピカ」だ。
続けて披露することでひとつの物語を紡ぐような2曲と、いつも以上に感情が込められているように聞こえた「夜とスピカ」のラスサビから、このライブにかける彼女の想いの強さが伝わってくる。と同時に、会場を満たすエモーショナルなハイトーンに、楽しい時間の終わりを予感せずにはいられない。


2曲を歌い終わった後のMCでは、いつも応援してくれているファンへの感謝と、VSinger・七篠さよとしての活動にかける想いが、「夜とスピカ」を奏でるピアノの音色をBGMにして、改めて語られた。



みんなと同じように、観客としてそこにいたんですよ、私も。
でもコロナになっちゃって、大好きなライブに行けなくなっちゃって、私生活でも不運が重なって……割とどん底にいたんです。
それでも『もうちょっとだけがんばってみよう』って踏ん張れたのは、やっぱり、ずっと聞いてきた音楽のおかげだったんだなあと思ってます。












「BEYOND」


「私にとって音楽は、明日に向かって突き進むためのもの」と話した彼女が最後に歌う、多くの想いに支えられて実現したワンマンライブの本編ラストを飾るのは、「BEYOND」だ。
腕を高く掲げ、髪を揺らしながら堂々と歌うシンガーの姿に、待ってましたとばかりにシンガロングで応えるオーディエンスたち。しかし、その光景に感極まってしまったのだろうか。途中で歌声に涙が滲んでしまう。そんな彼女を支えるべく、この日一番の声援がフロアから湧き上がる。
どんどん大きくなる「うぉーおーおー!」の声に背中を押され、最後は明るい声を響かせて歌い切った。














「ワタシイロ」


やがてスクリーンにはエンドロールが流れ始めるが、間髪を入れずに「さよよ!」コールが巻き起こる。アンコールに応えて再登場した彼女がこのライブの最後に届ける曲は、2ndアルバムのリード曲「ワタシイロ」だ。
憧れのアーティストに作曲を依頼し、自ら作詞した特別な一曲。「私らしくありたい。誰の色にも染まらない、自分の色だけを、一生懸命追っていく」。そんな想いをのせて紡がれる歌詞を堂々と、高らかに歌い上げ、約2時間にわたる夢の舞台を鮮やかに締めくくった。
間奏で万感の想いを込めて叫んだ「音楽が、大好きだー!!」の一言が、耳に残って離れない。














自身の音楽のルーツとなった街を、新たな“原点”として
音楽を愛し、音楽に救われてきた1人のシンガーが、憧れの地・渋谷に自身の歌声を響かせた一夜。事前に行われたクラウドファンディングのページやライブのMCでも繰り返し話されていたことだが、このライブには、主催者の大きな「こだわり」が込められている。
それが、「“渋谷”のライブハウスでライブを開催する」ことだ。


バーチャルな存在であるVTuberにとって、そもそも「現実世界の会場を使ったイベント」の開催はハードルが高い。会場を借り、スタッフを確保するだけではなく、機材の準備や持ち込みも不可欠。通常のライブと比べて機材トラブルも起こりやすく、場合によっては、ライブのたびに新たにシステムを構築する必要もある。
課題を挙げればキリがないが、ともかく「通常のアーティストよりも、VTuberのライブは開催のハードルが高い」わけだ。オンラインライブですら大変なのだから、リアルライブにおいては言うまでもない。にもかかわらず、現実世界のライブハウスで、それも「渋谷」という街を初のワンマンライブの開催地に選んだのは、そこに強いこだわりと、彼女の“原点”があるからだ。
自身にとって「渋谷」は音楽を好きになったきっかけを沢山作ってくれた場所で、バイトの帰りに立ち寄ったCDショップ、初めて行ったライブハウスがあったりと自身の音楽のルーツと言っても過言ではありません。
生まれて初めて沢山の人の密度と熱で高揚する中見た、あのライブと音楽との出会いがあったからこそ今の私がいます。
近年ではスマホ一台あれば、動画も音楽も気軽に聞けて見られるすごく便利な時代になりました。
しかし、それでも現地のライブハウスに足を運んで、そこでしか味わえないライブならではの空気と感動は、今の自分にとっても何にも変えがたいものです。
つまり、この日行われたライブはただの「VTuberのリアルライブ」ではない。「音楽が大好きな1人の人間が、そのきっかけとなった原点の街・渋谷で、VSingerとして夢を叶えたワンマンライブ」なのだ。
そんな背景とこだわりがあったからこそ、この日のライブが彼女にとって、そしてファンにとっても特別なものとなったことは想像に難くない。これだけ特別な想いを込めて作り上げられたステージで、自分たちもその空間を構成する一員として共に楽しみ、一緒に作り上げたライブが、観客の記憶に残らないはずがない。


自身の“ROOTS(原点)”である渋谷で夢を叶えた、VSinger・七篠さよ。しかし当然、これはゴールではない。1つの夢を叶えたとはいえ、世間的にはまだ名無しのシンガーかもしれない彼女が新たな一歩を踏み出した、スタートラインだ。
ワンマンライブの夢を叶えた愛おしい小さな夜を越え、その舞台を新たな“原点”として、彼女はこれからも駆けていく。色づき始めた未来へと、まっすぐに。
- 色、一振り。
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【イベント概要】七篠さよ1stワンマンライブ「ROOTS-NaNaFes.-」
- 開催日時:2025/7/5(土)17:00開演
- 会場:渋谷CLUB CRAWL
- 出演:七篠さよ
- ハッシュタグ:#NaNaFesROOTS / #七篠さよ1stワンマンライブ
- チケットページ:https://spwn.jp/events/evt_K1JOv60jIVtQX3VwRrzN