花譜 高校卒業記念スペシャルライブ「僕らため息ひとつで大人になれるんだ。」感想&セットリスト

2022年3月26日。1人の現役高校生の卒業を記念したオンラインライブが開催された。

『僕らため息ひとつで大人になれるんだ。』と題したこのライブの主役は、KAMITSUBAKI STUDIO所属のバーチャルシンガー・花譜さん。2018年10月に活動を開始し、その後まもなく高校受験のために活動を休止。2019年4月には高校へと進学し、学業と並行して音楽活動を続けてきた。

それから早くも3年が経ち、迎えた2022年3月末。

日本の何処かに棲む、何処にでもいる、何処にもいない少女だった彼女が、大人へと一歩近づく門出の日。大勢のファン――彼女のことをずっと見守ってきた“観測者”たちの前に立った花譜さんは、約2時間で20曲もの楽曲を歌唱した。この記事では、そのライブの模様と感想を簡単にまとめていきます。

目次

教室のステージで歌う少女と、エモーショナルな黒板の演出

オンライン配信は、桜の花びらが舞い散るオープニング映像から始まった。

いつの時代も大きくは変わらない学校の教室で1人、席に座って、窓の外を眺める少女。ポエトリーリーディングにのせて映し出される、リアルな学校の景色。見る人の郷愁を煽るようなオープニングから、そのままシームレスにライブが始まった。

ふと黒板を見れば、(この時点では)姿が見えない生バンドの演奏に合わせるようにして、徐々に何かが描かれていく。やがて深緑色の板面に現れたのは、1曲目のタイトル『地獄先生』の文字だった。

教室をステージに見立てたライブ序盤は、何よりもまずこの「黒板」の演出が光っていた。

楽曲が切り替わるタイミングで黒板のタイトルも変化し、まるで黒板消しで消しているかのように書き換えられる様子は、見ていておもしろい。曲名ごとにまったくデザインも異なり、よくよく見れば質感もリアル。特に塗り潰すように表現された部分は、本当にチョークで描かれているように見える。

この教室のステージで歌われたのは、相対性理論の『地獄先生』に始まり、 tofubeats『ふめつのこころ』、大森靖子『ミッドナイト清純異性交遊』と続いて、花譜さんの音楽的同位体である「可不」の楽曲『花となれ』『生きる』。合間合間でMCを挟みつつ、メル『翡翠のまち』、クリープハイプ『栞』を歌い上げた。

連続して歌われるカバー曲の数々は、彼女が「学生」であることを意識した選曲であるようにも感じられる。いや、あるいはもしかして、彼女が高校時代に好んで聴いていた楽曲だったりするのだろうか――。

光が示す時間経過と、ライブ全体を通して圧倒的だった「空気感」

最初に目を奪われたのは黒板の演出だったが、見どころはそれだけではない。周囲を見渡せば、「教室」の空間自体も細部まで作り込まれていることがわかる。

黒板の両脇の掲示物や本棚は言わずもがな、机に置かれている辞書や学生鞄といった小物もリアル。一見するとこの空間には似つかわしくない撮影機材もちらほら目に入るものの、「教室でMVを撮影している」と考えればそれも自然に映る。机や椅子もよく見れば、まるで「撮影で三脚を設置するために左右へ寄せた」ような配置になっており、ちょっとしたストーリー性を感じさせられた。

また、カメラワークが凝っていたのもポイント。いろいろな角度からこの空間を映してくれるため、ライブを楽しみながら「教室」あるいは「学校」の空気感に没入させられていくような感覚があった。

あとで振り返ってみれば、ライブ全体を通して、「空気感」へのこだわりが徹底されていたようにも思う。視聴者を「学校」という空間に引き込む、はたまた「卒業」という節目のイベントならではのノスタルジーで感傷に浸らせる「空気」づくりのために、あらゆる空間が設計されている。そんな気がした。

黒板の演出も教室の空気感もそうだが、それ以上に印象的だったのが、この空間に窓から差し込む「光」だ。ただ単に陽光が差しているのではなく、そこには光の「揺らぎ」が反映されている。風にそよぐレースカーテンに合わせて、差し込む光量も床に映る影も変わっている。そのように見える。なにこれすごい。

さらに驚かされたことに、ライブの進行にしたがって、この空間では「時間」も進んでいるらしいのだ。何倍速かで動いている黒板の上の時計の長針がに合わせて、窓から差し込む光の色と、影の位置も変化している。昼下がりのあたたかな陽光から、夕暮れ時の燃えるような西陽へ。

そんなこだわり抜かれた空間で、学校生活や思春期を思わせる楽曲の数々を歌うんだから、もうたまったもんじゃない。エモじゃん。エモエモのエモじゃん。

この日ならではのセットリストと、「卒業式当日の教室」の再現

1日の終わりを感じさせる西陽に満たされた教室で歌われる、くるりの『春風』。これ以上のエモはない――かと思いきやそんなことはなく、最後に爆弾が仕込まれていた。それも、2発。

窓の外から舞い込む桜の花びらの中、たかだかと歌われたのは、森山直太朗『さくら-独唱-』。それだけでもうお腹いっぱい、この日のライブはまんぞく――なんてすっかり満たされた気持ちになりかけていたところに、追い打ちをかけるように聴こえてくる、レミオロメンの『3月9日』。そして黒板いっぱいに描かれる、彼女へ向けられたお祝いメッセージ。

この演出を考えた人……天才では……?

「桜吹雪の舞い込む教室で歌う、桜色の髪の少女」という、最高に絵になるステージの“独唱”。それだけでもヤバかったのに、こんなにも「エモ」に極振りした演出を見せられたら、そりゃあもう感極まらずにはいられない。

黒板にメッセージが描かれた瞬間、配信のコメント欄も爆速で流れていたあたり、やはりこの演出に感動した人は多かったんじゃないだろうか。選曲だけを見れば、王道ストレートかもしれない。けれど、「卒業」に合わせたこのセットリストは大正義だし、「高校生活の最後に、教室で歌う」という舞台設定もまたすばらしい。それでいて、彼女の歌声をより際立たせるような空間づくりを行いつつ、最後の最後に特別な演出で魅せてくれる。エモーショナルの極みを堪能できる、最高のライブ前半パートだった。

――そう、まだ前半。もうすでにこんなに満足してしまっているのに、そういえば彼女はまだカバー曲しか歌っていないのだ。本番は、これから。

暮れなずむ廊下に、運ばれてくる夜

黒板に向かって一言、「ありがとう」と一礼し、教室の外へと出た花譜さん。

先ほどの制服から「燕」の衣装に着替えた彼女が立つのは、夕陽の差し込む渡り廊下。すっかり見慣れたはずの衣装なのに、不思議と大人びて見えるのは、直前の演出を喰らってしまったからか、その堂々とした所作を見ての印象か、はたまた夕暮れ時の校舎が見せる魔法か――。

ライブも後半戦となるここからは、いよいよオリジナル曲のターン。

しかもその一発目が、『アンサー』である。

――これはもう、視聴者の情緒をぶっ壊しにかかっていると言っても過言ではないでしょう。「卒業」というシチュエーションに特化した選曲と、教室での怒涛のエモーショナル演出で終わらず、「ここからまだまだ畳み掛けていくからな」というジャブを打つ1曲。

しかもそれを歌うのは、2つの場所をつなぐ性質を持つ「渡り廊下」のステージ。そんな道の途中で「正解のない旅をしよう」と歌う立ち姿を目の当たりにして、彼女のこれからにあれこれと思いを馳せずにはいられない。

その道行きに、どうかたくさんの幸福がありますように。

正解のない旅をしよう

変わって行くことに怖がる必要はないから

花譜『アンサー』より

「変わって行くことに怖がる必要はないから」と歌う『アンサー』から、「変わりゆく自分にまだ初めましてが言えない」と歌う『彷徨い』へ。そして、徐々に陽が落ち暗くなりゆく校舎の中で、『夜が降り止む前に』が歌われる。

セトリが……! セトリが完璧すぎる……!

そんな展開が続いた廊下で歌う最後の曲は、『雛鳥』。周囲を満たしつつある夜の気配に呼応するかのように、“らぷらす”が現れる。

ふわふわと漂う不思議な存在を傍らに従えつつ、彼女が高校に入学する直前に発表されたこの曲を、MVとよく似た校舎で、情感たっぷりに歌い上げる。いや、ほんともう、これ以上ない流れなんすよ……!

ある意味では高校生活の始まりでもあった曲を、校舎を去る今日という日に歌うことの意味。別れではなく旅立ちを想起させる言葉を紡ぐ彼女は、もう“雛鳥”ではないのかもしれない――。思わず、そんなことを考えてしまった人もいたんじゃないだろうか。

「大人になったらうまく飛べたら」と全身で歌う彼女を、近くでそっと見守るようにも、悠々自適に回遊しているだけのようにも、そのどちらでもあるようにも映る、らぷらす。その存在もまた、「花譜」という少女にとっては欠かせないものだった。校舎をゆったりと泳ぐ姿は幻想的で、なんでもない「廊下」という空間を彩っていたようにも思う。

もしかしたら、らぷらすもまた、彼女を祝いに来ていたのかも……?

満ちる夜、響く足音、振り返る道行き

さて、廊下から次はどこへ向かうのかと考えていたら、そのまま校舎内を歩き始めた彼女を見て驚かされた。いや、歩くどころか、「階段を降りる」なんて動作を自然にしていてびっくりした。どうなってる……というか、どうやってるんです……!?

しかも結構な距離を、それこそ現実世界の「校舎」を歩くような長さの道のりを時間をかけて歩いていくものだから、二重にも三重にも驚いた。バーチャル、とはいったい……。

月明かりに照らされた窓と、その外に広がる景色まで作り込まれていることがわかる、この空間。話しながら歩く花譜さんの声と、リノリウムに響く足音も違和感なく聞こえており、場所が変わればその反響具合も変わっていた……気がする。空間づくりのみならず、音響もガチで作り込まれている、ってコト……!?

そんな、空間としてのリアリティが尋常じゃない校舎を歩く彼女が語るのは、3年間の高校生活。

「花譜」としての彼女と、花譜じゃない「高校生」としての彼女の話。友達の存在の大きさや、「花譜」としての活動を通して得られた経験と感情について。ゆっくりと歩を進めながら、周囲の人たちへの感謝を自分の言葉で紡いでいた彼女の横顔は、さっきとはまた違った意味で大人びて見えた。

雨が降り、空を泳ぎ、呼吸を忘れる

教室から廊下を通り、校舎内を歩いて到着したのは、学校の屋外プール。

ややあって振り始めた雨の中で歌うのは、もちろんあの曲――の前に、忘れちゃいけないもう1曲。彼女のオリジナル曲きってのロックナンバー『過去を喰らう』だ。

しかし歌う直前に彼女の口からも告げられていたとおり、今回の『過去を喰らう』は特別版。ジャジーなピアノの旋律が印象的な、どこか大人な雰囲気のアレンジでの披露となった。そのピアノの音色がこれまた、雨降る夜の雰囲気に似合うんだ。

廊下での『アンサー』から『彷徨い』の流れもそうだったけれど、今回のライブはそれぞれの楽曲の歌詞を意識しながら聴くと、子供と大人を行き来するようなセットリストになっていたようにも思う。「大人になったら」と歌っていた『雛鳥』に対して、「大人になるのが怖かった」と歌っている『過去を喰らう』のように。

将来への希望ばかりではなく、巣立ちの日だからこそ揺れ動いてもおかしくない心情が、曲の順番で表現されている――。そんな見方もできるように感じた。

大人になるのが怖かった

強くなることが怖かった

花譜『過去を喰らう』より

沁み入るような歌声が響く『過去を喰らう』から、そのまま途切れることなく『海に化ける』へ。

そのあまりにシームレスな導入にゾクリとさせられたのも束の間、見上げれば、雨空にはゆうゆうと泳ぐらぷらすの姿があった。廊下で見た小さなサイズではなく、まるで怪獣のようなサイズ感。

「あなたは空を泳いでいる」「こんなにも体は大きく膨れ上がったというのに」など、『海に化ける』の歌詞とシンクロするかのように再登場したらぷらす。しかしその巨体の割に不思議と異質感はなく、自然と風景に溶け込む姿にしばし見入ってしまった。

そして、刹那――時が止まった。
思わず、呼吸を忘れた。

『海に化ける』の後半、雨に負けじと大気を震わせていた歌声と、鳴り響いていた楽器が、共に途切れる間奏の一瞬。そのエアポケットのようなタイミングで、降り注いでいた雨が静止した。あとでライブ全体を振り返ったときに、特にこの空間演出が印象に残っていた人も多かったんじゃなかろうか。

しかし、その静寂も一瞬のこと。楽器の音が戻ってくるのに合わせるように、静止していた雨粒が動き出し、まるで巻き戻されるかのように空へ。そのまま楽曲も最後の盛り上がりに突入し、プールサイドでの夢のようなステージは幕を閉じた。

教室で10曲、廊下で4曲ときて、プールサイドで歌われたのはわずか2曲。けれど此度のライブの中でも、飛び抜けて「バーチャル」らしい演出とパフォーマンスを見られる、記憶に残るステージだった。

「高校生」の終着点にて、今まで観測してくれた“あなた”へ向けて

プールサイドを後にして向かったのは、このライブの最後のステージ。

高校生である彼女にとっては、ある種の終着点でもある場所――そう、体育館だ。最初の「教室」から外に出た時点で予想できる目的地ではあったものの、いざ目の前にすると、なんだかしんみりさせられてしまう。

少女の後ろ姿を見やりつつ、「体育館」という懐かしい空間を、思わず目を凝らして観察してしまった自分。ここに至るまでの道中もそうだったように、とにかくこのライブは「空間」が細部まで作り込まれていて驚嘆させられる。体育館入り口の「卒業証書授与式」の立て看板は言うまでもなく、扉を入ってからの足音の変化と反響、壇上を照らす照明とその反射など、音響や光源までもが考慮された空間になっていることが、素人目にもわかるのだ。

やがて壇上にたどり着くと、周囲に花譜バンドの面々が登場。今回はスクリーンに映し出されるのではなく、ボリュメトリックキャプチャによって「空間」ごと顕現させる仕組みになっているらしい。

見る人によっては幻想的にも映りそうな、リアルのバンドメンバーの姿。しかし当の花譜さんからは、「今日はいつもと違って、異次元な感じですねっ?」とのゆるい声がかけられたいた。たしかに異次元な感じですねっ!

クライマックスの1曲目は『世惑い子』。最後の体育館のステージで歌う1曲目にこの曲を持ってきたのが、個人的にはすごく刺さった。

「学園を舞台にしたゲームの挿入歌」という楽曲の背景からも一種の文脈を感じられるが、それ以上に、歌詞がドンピシャすぎる。――迷いながらも前を向くこと。価値を決めるのは自分であること。思春期の少年少女へ、あるいはこれから旅立つ人へ向けた、餞にも聞こえる言葉がたっぷりと詰め込まれている曲。それゆえに深く深く刺さり、この時点で軽く泣きそうになっている自分がいた。

僕らこの先の未来なんてわからないから

ルールなんてどこにもないんだから

好きなことを好きと言っていいんだよ

好きなことを好きにやっていいんだよ

花譜『世惑い子』より

そのままエモと涙の海に沈んでいくことは避けられたものの、しかし続く『イマジナリーフレンド』によって、また別の意味で致命傷を負うことになる。

これまた題材からして“文脈”を感じさせられずにはいられないセットリストであり――などと改めて書くのも今更感があるくらい、とにもかくにも選曲と順番が噛み合いすぎている。最高すぎて逆ギレしたくなるくらいに。愛らしい振り付けと歌詞、真に迫ったポエトリー、揺れ動く不安定な感情表現、そしてラストの、絶叫にも似たタイトルコール。ここばかりは冗談でも誇張でもなく、本気で鳥肌が立った。

いよいよラストかというタイミングで歌われた、『それを世界と言うんだね』

正直、この曲を終盤に持ってくるとは思わなかったので、軽く驚いた部分もあった。しかし実際に歌声を聞き、改めてライブ全体を振り返ってみると……むしろこの曲しかない。ここに、この曲がないと、しっくりこない。

小中学生と一緒に作った楽曲を、子供たちからすれば「お姉さん」な花譜さんが、大人へ向かって一歩を踏み出す晴れ舞台で歌う。物語の魅力と、創作の楽しさと、他者との出会いと、世界の美しさを一挙に歌い上げる。――うん、この曲じゃないと、ダメだ。

そして、ついに迎えた最後の1曲は、新曲『裏表ガール』。『そして花になる』『帰り路』の続編として、花譜さんの言葉と思いを汲み取り、カンザキイオリさんによって作られた楽曲、との話だった。

特に印象的だったのが、サビで繰り返される「私だけど 私じゃないんだ」の一節。もしかするとこの言葉は、体育館までの道中で「花譜」という存在について話していた、高校生の“彼女”の言葉だったのかもしれない。この3年間を「花譜」として過ごし、「花譜」と向き合い続けてきた1人の少女が、「花譜」という女の子のことをどう捉えているのか。

楽曲の中で語られる言葉は少ないものの、彼女自身はもう、それをはっきりと言語化できているのかもしれない――。堂々と、情感たっぷりに、全身全霊で歌う1人の女性の姿を見て、そんなことを思った。

今まで観測してくれた
あなたへ

花譜『裏表ガール』より

バーチャルとリアルの狭間にて、1人の少女の成長を観測する

終わってみればあっという間だった気もする、しかし改めて振り返ってみると結構なボリュームだったことがわかる、今回のイベント。「卒業ライブ」と題していたこともあり、通常のライブと比べればあっさりめの内容なのかな……と思いきや、まったくそんなことはなかった。それどころか、演出面でも非常に力の入った表現が盛りだくさんで驚かされた。

リアル会場でのライブでは味わえない、バーチャルライブならではの空間作りと演出。歌唱や演奏、ステージ上のパフォーマンスにとどらまらない、「卒業」という人生の一大イベントを踏まえたエモーショナルな表現もふんだんに取り入れられた、ひとつの「作品」とも言えるようなイベント。そういう意味でも、強く記憶に残るライブになった。

そもそもこのイベントは、エンタメ業界でよく聞くタイプの「卒業ライブ」ではない。この3年間、バーチャルシンガーとして活動してきた1人の少女の、「学校の卒業」を記念したライブである。

「グループ脱退」や「活動終了」といった意味合いで使われるそれではなく、「学問を修める」という意味での「卒業」。現実世界においては誰もが通る道ではあるものの、誰もが歳をとるとは限らないバーチャルの世界においては、なんだか特別な意味合いをもって聞こえてくる。日本のどこかにいる女の子が、3年間を経てはっきりと「成長」した姿を、その声で、歌声で、パフォーマンスによって、インターネットを通して観測することができる――。

そんな体験をさせられたら……そりゃあもう、まるで親戚の娘を見守るような気持ちになっても不思議ではないのでは……?

そういった独特な文脈を感じられる部分もあり、通常の「VTuberのライブ」とは異なる魅力があったように思う。ステージもバーチャル空間に作られたもののはずなのに、それが現実世界のものではないと見ていて普通にわかるのに、なぜだか妙に生々しい。校舎を歩く少女の姿を見ていると、不思議と懐かしい気持ちがこみ上げてきて、そこが自分が過ごした学校のようにも思えてくる。

全体を通して、「バーチャル」と「リアル」の狭間をたゆたうような気持ちにさせられた、卒業ライブ『僕らため息ひとつで大人になれるんだ。』。その不可思議で不可解な体験を反芻しながらも、あんなにもすばらしいものを見せられたら、やはり「次」を期待せずにはいられない。

新たな一歩を踏み出した彼女の未来を、これからも観測し続けていきたい。心からそう思った。

『僕らため息ひとつで大人になれるんだ。』セットリスト
  1. 地獄先生 / 相対性理論(cover)
  2. ふめつのこころ / tofubeats(cover)
  3. ミッドナイト清純異性交遊 / 大森靖子(cover)
  4. 花となれ / 雄之助 feat. 可不(cover)
  5. 生きる / 水野あつ feat. 可不(cover)
  6. 翡翠のまち / メル(cover)
  7. 栞 / クリープハイプ(cover)
  8. 春風 / くるり(cover)
  9. さくら-独唱- / 森山直太朗(cover)
  10. 3月9日 / レミオロメン(cover)
  11. アンサー
  12. 彷徨い
  13. 夜が降り止む前に
  14. 雛鳥
  15. 過去を喰らう
  16. 海に化ける
  17. 世惑い子
  18. イマジナリーフレンド
  19. それを世界と言うんだね
  20. 裏表ガール
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※記事中の画像はZ-aNのアーカイブのスクリーンショットを使用しています。
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